10歳の冬(3)

「貴族院での出来事を報告書として送っていたが読んだか?」

三人で始まったお茶会の冒頭の言葉にシャルロッテと顔を見合わせる。

「報告書ですか?わたくし達は一切読んでいませんわ」
「どんな内容のものを送っていたのか教えていただけますか?」

さて、何から話そうかと考えをまとめるヴィルフリート兄様。

「図書館は行きましたか?」
「いや、行ってない」

一刀両断だよ!!
一気にヴィルフリート兄様の話を聞く気が失せちゃったなー。

「お友達はできましたか?」
「うむ。ドレヴァンヒェルのオルトヴィーンという領主候補生との仲を深めた。近年エーレンフェストの座学の成績が上がっていることに目をつけたようで色々と探られていたが、社交を重ねることで友情を育んだのだ」
「まぁ!大領地の方と社交を重ねられるなんて、お兄様凄いですわ」

ヴィルフリート兄様は妹からの賞賛に、素直に嬉しそうな顔を見せた。

「アーレンスバッハの領主候補生であるディートリンデ様は従姉ということで私のことを気にかけてくださった。フレーベルタークのリュディガー様と三人でいとこ会というお茶会もしたぞ」

アーレンスバッハの領主候補生という言葉にわたしとシャルロッテの警戒が高まる。

「お兄様、ディートリンデ様とはどのような方でしたの?」
「う?そうだな・・・金髪に深緑の瞳でおばあ様にとても良く似た面差しの美しい方だった。優しく思いやりにあふれていて、ユレーヴェで眠るローゼマインのことも心配して気にかけてくださっていたぞ」
「わたくしのことが話題に・・・。ヴィルフリート兄様はなんとお答えになったのでしょう?」

貴族院の中でわたしが襲撃を受けて倒れたことをどれだけの人が知っているんたろう。ディートリンデ様はエーレンフェストから情報が流れてることを示唆しているのかな。うーん、分からない。
それにしても、ヴィルフリート兄様がここまで傾倒してることがヤバいんじゃない?ヴェローニカ様に似てるからって喜ぶのは、今のエーレンフェストでは危険だよ。

「当たり障りのないよう、私も妹が心配ですと答えたぞ。それと、親睦会の席でアナスタージウス王子からも其方のことを言われた。魔力が多いだけの子供を聖女に仕立て上げなければならないほどエーレンフェストは困窮してるのかとか、二年もユレーヴェで眠るなど聞いたことがないといった皮肉の言葉が多かったな」

えー!?貴族院に行く前からそんな目のつけられ方をしてるの?

「お姉様の噂が一人歩きしているということでしょうか。他の方からも何か言われましたか?」
「いや、ローゼマインに関してはそれくらいだ。アナスタージウス王子は卒業されたので、其方達が絡むことはないだろう」
「そうですか。安堵致しました。ヴィルフリート兄様にはわたくしのせいで嫌な思いをさせてしまい申し訳ありません」
「其方が悪いわけではないだろう。謝らなくていい」

確かにわたしは悪くない。
誰が悪いかって言ったら、聖女だのなんだの言い出したエーレンフェストの首脳陣だね!

「噂の対応は義父様にお任せしましょう。来年になって実物を見れば、聖女の話は誇張されたものだったとすぐに広がって治まるでしょう」

誇張・・・?治まるのか・・・?と二人がそれぞれ首を傾げてるけど、知らないよ!

「そういえばヴィルフリート兄様はシュタープの流行を作ったと仰ってましたね。具体的にどのようなものですか?」

この話題を待っていたのか、すかさず目を輝かせ実際にシュタープを出して見せてくれた。

「一年生の実技でこのシュタープを取得したら、自由に形を作ることができる。私はカッコいいシュタープを作ることにこだわり、紋章をこのようにつけることにしたのだ!」

なんともヴィルフリート兄様らしい、くだらないこだわりだと思うけど。これを他の子達も真似したの?なんか貴族院って平和なんだね・・・。

「お兄様のこだわりを感じられる出来映えですね。わたくしも自分のシュタープ作りの参考にしたいですわ」
「他にはどんな実技がありましたか?」
「あとは騎獣作成に魔力圧縮だな。既に魔力供給を経験して魔力の扱いに慣れている其方達なら問題なく合格できるはずだ」

それなら確かに合格は簡単そう!
シャルロッテと顔を見合わせて、ふふっと微笑み合う。

「わたくしもお兄様のように優秀者になれるよう頑張りますわ」
「うむ。今年はエーレンフェストから何人も優秀者が出ている。領主候補生としては負けられないぞ!」

カルタや聖典絵本で座学の底上げをしたのと、わたしが教えた魔力圧縮の成果が出始めてるのかな。確かに領主候補生なら最低でも優秀者にならないと恥ずかしいかも。


側仕えにお茶のおかわりを入れてもらって、シャルロッテが話題を変える。

「祈念式の分担を決めておきたいのです。場所によって用意するものも変わってきますし」
「今年もお手伝いしてくださるの?」
「もちろんです!お姉様にだけ負担はかけられません!」

シャルロッテの発言にビックリしてたら、ヴィルフリート兄様が地図を広げだした。

「二人ともありがとう存じます。わたくしは直轄地を回ったあとは、グーテンベルクを連れてハルデンツェルに向かうことになっています。それにハッセも確認したいですわ」
「ではお姉様は東側ですね」
「うむ。私が西、シャルロッテが南で良いのではないか?」

神官長は北ということで、許可が得られたら決定だね。


「実は叔父様からお姉様の魔術訓練をするから、一緒に訓練場に来れば騎獣作成の手伝いをしても良いと言われているのです。お姉様聞いてらっしゃいますか?」
「フェルディナンド様が?いえ、わたくしが魔術訓練をするというのも初耳です。いつ訓練するのでしょう?」
「領主会議が終わって、時間ができたらと仰ってましたわ」
「そうですか・・・。わたくしからも聞いてみますね」

もしかしてシャルロッテの後押しのために何か動いてるのかな・・・?

そういえば、次期領主のことで課題を出されてたのをすっかり忘れてたよ!

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