ハルデンツェルの春(1)
「水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに、命の神 エーヴィリーベは押し流され、土の女神 ゲドゥルリーヒは救い出された。雪解けに祝福を!」
アウブ・エーレンフェストの言葉で春を寿ぐ宴が始まった。
「まず、今年の優秀者の発表を行う。四名という多くの学生が優秀な成績を収めた」
称賛の声が上がり拍手が起こる。
優秀者となった四名が舞台に上がるが、よくよく見ればコルネリウス兄様、ハルトムート、レオノーレとヴィルフリート兄様以外は皆わたしの側近だった。
わたしの側近って凄かったんだね!
・・・って浮かれてる場合じゃないよ。優秀者になってることを知らなかったなんて、主失格じゃない?
わたしはちょっと反省した方が良いと思う。
「今年のエーレンフェストは今までで最高位の結果を出した。来年は領主候補生が三人になるので少しずつ流行を発信していくことになる。印刷に関しても他領から注文が来るようになった時に対応できるよう今から広げていくつもりなので、そのための協力を求む」
義父様が壇上から下がると宴は終わりだ。
わたしの久々の公式行事は何事も無く終わった。
「ローゼマイン様はアウブの実子達と本当に仲がよろしいのですね」
宴の翌日。印刷関連の文官達との顔合わせのため用意をしていたところに、面会依頼の手紙を仕分けていたブリュンヒルデに声を掛けられた。
一緒に資料の準備をしていたフィリーネとハルトムートも顔を上げる。
「ふふ。そうですよ。ヴィルフリート兄様はシャルロッテと区別することなく妹として扱ってくれていますね。可愛いくて健気なシャルロッテのことは、本当の妹と思ってわたくし接していますわ」
昨日の宴の場では様々な貴族達に話し掛けられたけど、挨拶以上の話になるとさり気なく兄妹達が話の主導権を奪ってわたしを庇ってくれていた。
ユレーヴェから目覚めて初めての公の場だったけど、兄妹に助けられっぱなしで経験値の低さに打ちのめされる思いだった。
でも二人とも二年前にわたしが神官長から貴族対応を叩き込まれた時と状況は変わらないと労ってくれるのだ。
慰められるだけじゃ終われないよ!
「エーレンフェストに戻ってきてから参加した社交では、ローゼマイン様は特にシャルロッテ様への寵愛が篤いようだと噂になっていました」
それまで静かに控えていたハルトムートが口を開いた。
「寵愛ですか・・・」
側近たちの目が探るようなものになる。
これはもしかして。わたしが無関心を装うことにした次期領主問題のアレだろうか。
わたしがシャルロッテ側についたと思われて困ることってあるかな?
・・・特にないよねぇ。
側近にはアウブになる気はないことをそれとなく伝えておかなくちゃ。
「寵愛という言い方は何やら大袈裟な気がしますが、特に否定はしませんわ」
「・・・・・・噂を消さなくてよろしいのですか?」
「えぇ。そのまま放置しておきましょう。わたくしがシャルロッテを可愛がっているのは事実ですもの」
情報操作は神官長に任せておけばいいんだよ。
「放置ですか。・・・かしこまりました」
ハルトムートは少し考え込んでからニコリと笑った。
ここでわたしが噂を消してほしいって言ったら、そう動いてくれてたのかな。
「ハルトムートは貴族院でも他領の様々な情報を集めてくれていましたね。情報戦がお得意ですか?」
「ローゼマイン様のお役に立てることを考えた結果です」
「そうですか。では仕入れた情報は満遍なく教えてくださいませ。頼りにしています」
「ご期待に添えるよう尽力いたします」
その後は本館へ移動し、文官姿のお母様を中心に印刷業のこれからの予定やグーテンベルクの移動、製紙業について話をまとめていく。
貴族視点で平民との付き合い方を並べていく芸当はわたしには無理だ。さすがお母様だよ。
「皆様には重要な新事業に関わっている自覚を強く持っていただきたいと思います」
わたしは最後に文官達を煽る言葉を並べて顔合わせを終わらせた。
さて、神殿へ移動しよう!