ハルデンツェルの春(2)

神官長から出発するとオルドナンツが届いたのでダームエルとアンゲリカ、それに一緒に城に行っていたフーゴとロジーナを連れて神殿へ戻った。



「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」

フランとモニカが出迎えてくれた。
緊張感のある城から解放されて気が楽になる。

「ローゼマイン、聖典で確認したいことがあるので、あとで神殿長室へ行くがいいか?」
「聖典ですか?かしこまりました。用意してお待ちしています」

自室に入り側仕え達の報告を聞いていると、着替えを終えた神官長がやってきた。
すぐにフランが用意していた聖典を執務机に置いて開きやすいよう整える。そのまま流れるような動作でお茶を淹れて並べた。
相変わらず神官長への愛が溢れてる献身さである。

「すぐに読み終えるので机を借りるぞ。読めるよう許可を出してくれ」
「神官長に閲覧を許可します」

聖典って神殿長の許可がないと他の人には読めないのか。初めて知ったよ。


神官長が聖典を読んでる横でわたしは側仕えの報告の続きを聞いていた。
報告が一段落したところで、神官長は該当部分を読み終えたようだ。

「フラン、聖典はもう良い。戻しておいてくれ」
「かしこまりました」

フランが聖典を戻しに行く。
神官長がお茶に口をつける姿は、何となく機嫌が良さそうだ。

「何の確認だったか教えていただけますか?」
「あぁ。ハルデンツェルの祈念式で気になることがあったのでな。エルヴィーラからハルデンツェルに向かう日程や注意事項の書かれた手紙が届いている。後で読んでおきなさい」
「はい。それでハルデンツェルの祈念式は何か他の土地と違うことがあったのですか?」
「まだ推測の域を出ないので口にはしないが、私も君と一緒にハルデンツェルへ行くことにした」
「え?あぁ・・・はい」
「なんだ?その反応は」
「神官長はわたくしの後見人ですから、一緒に行くものだと思っていましたわ」

神官長は目を細めかすかに首を傾げた。

「カルステッドとエルヴィーラという両親が揃っている場に後見人は必要なかろう」
「あっ、確かにそうでしたね。それならお母様も神官長をメンバーにいれてないのでは」
「エルヴィーラには私から連絡しておく」

聖典で何を確認できたのか知らないけど、企み事があるのは分かった。悪い顔して笑ってるよ・・・。




わたし、シャルロッテ、ヴィルフリート兄様の順で直轄地の祈念式を回り、最後に神官長が北側へ向かった。



神官長はハルデンツェルに行くために祈念式を強行スケジュールで回ったようで、疲労の滲んだ顔をしている。


「神官長、大丈夫ですか?かなり余裕のない日程で回ってましたよね・・・」
「問題ない。ハルデンツェルの祈念式を行うのは君だからな。私は見てるだけなので充分休める」
「そういうことならいいですけど」

騎獣での長距離移動はちょっと大変だけど、向こうに着けばあとはのんびり過ごせるということだろう。
わたしの方はレッサーバスでグーテンベルクを運び、ギーべ・ハルデンツェルと話を詰め、下町で職人の様子と印刷機の稼働状況の確認がある。そのうえで祈念式もあるのだからかなり忙しいし体力的にも不安だけど、主治医が同行するなら何とかなりそうだね。

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