母娘のナイショ話(4)
お母様の集中淑女講座は本日で終了である。
濃厚な二日間にわたしはちょっとお疲れ気味。
お母様に朝食の後お茶会に呼ばれたので、是非とも教えていただきたい教材を側仕えに渡し移動する。
お茶会の始まりは前座として神官長の最近の話を聞いてもらいお母様を楽しませた。そして、本日の本題に入る。
側仕えに合図して目の前に本を置いてもらった。
「あら?その本はわたくしの執筆した最新の恋物語ですね」
「はい。実はこの本のことで教えていただきたいことがあります。恥ずかしいのでお母様にだけお話したいのですが、よろしいでしょうか?」
必殺。アンゲリカを真似した恥ずかしがる乙女の顔を見せる。
側仕え達はあらあらと微笑ましい顔をしているので、上手く騙せたようだ。
「えぇ、構いませんわ。では、こちらを」
盗聴防止の魔術具を渡してくれたので握りこんだ。
わたしは本の該当ページを開いて押さえる。
「作者のお母様に伺うのは大変失礼かと存じますが、わたくし知らないままにしたくないのです。どうか恋物語の読み方を教えてくださいませ」
わたしは真剣な眼差しを向ける。
お母様は唖然として無言になった。
貴族的な微笑みもちょっと引き攣っている。
「・・・あなた、あんなに本を読めて喜んでいたのに、意味を理解していなかったのですか?」
「大筋は読めますから内容は分かっております。ただ、神々が登場すると途端に理解が及ばなくなってしまうのです」
先程から開いていたページの一節を指す。
「ブルーアンファが踊り、リーベスクヒルフェが微笑み、闇の神が大きく袖を広げる状況とは、どう読み解けば良いのでしょう?二人きりの世界で恋が盛り上がっていると解釈して読み進めていったのですが・・・」
お母様はとうとう頭を抱えてしまった。
不甲斐ない娘で申し訳ありません。
「・・・昨夜も申し上げた通り、比喩表現とは前後の会話が重要です。この物語の二人は、卒業間近で政変が起きたことで、婚約破棄せざるを得なかったのです!ですから東屋で二人きりになり燃えたぎるような恋心があろうとも、最初で最後の触れ合いに胸を焦がそうとも、待っているのは二度と会うことのない別れなのですよ!そういう切なさや愛おしさで涙なしには読めない壮大な最後の逢瀬を、恋が盛り上がってるの一言で終わらせてはなりません!」
さすが作者だけあり、思い入れが違うのだろう。
わたしがさらっと読み流した数行を素晴らしい熱量で語ってくださった。
「お母様、わたくしこれから頑張ってもっと学びます。ですからまた、作者視点での解釈を教えてくださいませ!」
そっとお母様の手を握りお願いをする。
「えぇ、わたくしの使命がはっきりしましたわね!あなたが苦もなく恋物語を読み解き楽しめるようになるまで、淑女教育は終わりませんわよ・・・!」
熱い宣言を最後に聞き、わたしは神殿へと戻ったのであった。