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私はランプレヒト。リンクベルク家の次男だ。
冬の主の討伐が終わり、冬の社交界も後半だ。貴族院ではもうすぐ領地対抗戦だろう、じきにヴィルフリート様も戻って来られるはずだ。
今宵はギーベ・ハルデンツェルの館に招かれている。なんでも新しい趣向で蒸留酒を売り出すとかで、一足先に親族にお披露目するのだそうだ。両親の名代として私と妻が出席することになった。明言はされていないが、そろそろ跡取りとして周知するということだろう。兄弟達が皆アレキサンドリアへ移動してしまったので、第一夫人である母上の子は私しかいないのだ。
正直なところ親族の集まりに出るのは気が重い。私がお仕えしているヴィルフリート様が親族にひどく嫌われているため、私にまで当たりがきついのだ。だが跡取りなら親族との付き合いを避けて通る訳にいかない。
ギーベ・ハルデンツェルは母上の兄で、ヴィルフリート様をそれほど嫌っていない。跡取りとして初めての訪問先として、両親が考慮してくれたのだろう。
ギーベ・ハルデンツェルの館に到着すると、既に何台も馬車が到着していた。リンクベルク家は親族の中でも格上で、遅刻しない程度に遅く到着する方が望ましい。今回は適度な時間だったようで、胸を撫でおろす。
館の玄関は、照明の魔術具が煌々と周囲を照らし、闇の中で白の建物を浮かび上がらせている。館の中は柱も壁も床も磨き上げられ、十分に手入れされているようだ。案内された部屋には、ハルデンツェルで採れた毛皮だろう上質な毛氈が敷かれ、足を踏み入れるのが躊躇われる程だ。暖炉には赤々と火がともり、暖房の魔術具も使われているのか、とても暖かい。
少し前までハルデンツェルは、食料事情の厳しい冬に晩餐会を開くことなどとてもできなかった。館の様子といい、かつて魔力不足に喘ぎ困窮していた面影はどこにもない。ハルデンツェルが完全に復興したことが分かる。
……これもローゼマインがもたらした恩恵の一つか。貴族達の多くがローゼマインをアウブに望んだのも無理はないな。ヴィルフリート様には逆立ちしても不可能だ。
部屋には既に到着した親族達がいて、互いに挨拶を交わしている。ライゼガングの古老も揃っているのに気づいて、内心で溜息が出た。年配者ほどヴィルフリート様に当たりがきついのだ。
何とか無難に全員と挨拶を終わらせると、挨拶を済ませたはずの古老達が近寄ってきた。身構えていると、折よく食堂に案内される時間だった。ハルデンツェル側の配慮だろうか、古老達に隙を与えないのはとても助かる。
ギーベ・ハルデンツェルが挨拶をして、会食が始まった。
「ギーベ・ハルデンツェル、この肉はハルデンツェルで採れた魔獣ですかな。食べ応えがあって美味ですな。酒ともよく合う。」
「ええ、近年は魔獣も狩りやすくなって助かっております。十分な冬支度が出来るようになりました。人手が足りないと嬉しい悲鳴が上がる程です。」
ハルデンツェルでは冬越えが毎年厳しかった。この晩餐会は復興を印象付けるためもあるのだろう。
「そういえば、酒の新しい趣向とはどんなものですかな。」
「側仕えが持つボトルをご覧ください。後でゆっくりお見せしますが、ボトルに印刷した紙を貼っているのですよ。ローゼマイン様が考案されたラベルとキャップシールというものです。」
ギーベ・ハルデンツェルが説明していく。キャップシールで異物混入を防ぎ、ラベルで生産地の宣伝や賞味期限を知らせること、高級品として限定数を売り出していく予定などだ。
新しい趣向とは、ローゼマインが送って来たボトルの手法を取り入れたことだったようだ。しかしあれはこの冬の初めだったはずだ。
「伯父上、ローゼマインが酒を送ってきたのはこの冬の初めだったはずです。一冬も掛けず準備されたのですか。まさかハルデンツェルに帰られたのですか?」
この冬、社交界は大変な盛り上がりを見せている。昨年の春にエーレンフェスト侵攻とアレキサンドリア成立という大事件が起こったからだ。当主が社交せずに地元に戻れるとは思えなかった。
「オルドナンツと転移陣でやり取りしたのだ。留守番組の貴族達と職人達が随分頑張ってくれた。次の領主会議ではローゼマイン様にお見せしたいと言ってな。」
ギーベ・ハルデンツェルが土地の者達のことを誇らしげに話す。ハルデンツェルでローゼマインの人気は健在なようだ。
「あれもこれもローゼマイン様の恩恵か、本当にエーレンフェストから出て行かれたのは惜しいことだ。」
「まったくだ、王族の横やりを退けられたなら、エーレンフェストに留まることも出来たはずだ。ヴィルフリート様は何をしていたのだ。」
危惧していた通り、古老達が口火を切り、ヴィルフリート様への批判が始まった。