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「ヴィルフリート様はギーベになるそうだな。アウブを完全に諦めたのなら結構なことだ。」
「ランプレヒト、まさかと思うが其方ギーベとなったヴィルフリート様に付いていくのか?」
「まさか!其方リンクベルク家の跡取りであろう。ギーベの臣下になれば家はどうなる?辞任するであろうな?」
やはりというか、矛先が私に向いた。内心で溜息を吐きながら平静を装って返す。
「ヴィルフリート様の護衛騎士を辞任するつもりはありません。慣れない土地で慣れない職務に就かれるのです。気心の知れた臣下は必要でしょう。」
領主一族が上級貴族となる場合、通常側近は解散されるが、ギーベとなるヴィルフリート様は事情が違う。連れて行く臣下と元から土地に属する貴族と合わせて土地を収めていくことになるのだ。
両親からもヴィルフリート様の側近を辞めるようにと言われていない。逆に一度定めた主を見捨てるようなら叱責されるだろう。
そう思っていたが、親族達からは驚愕の目で見られた。
「其方、正気か?ギーベの臣下となれば、領主一族の側近とは段違いに格が下がるのだぞ。ボニファティウス様は勿論、其方の父も領主候補生だったというのに。」
「ギーベの臣下となれば、ギーベの親族である我らより格が下になるぞ。このような集まりでも末席に座ることになる。上級貴族といっても扱いがまったく変わるのだ。わかっておるのか。」
「子供の代になれば、結婚相手は同格のギーベの臣下か貴族街でも格下から探すことになるぞ。領主一族との婚姻はもちろん、其方のように他領の領主の親族を望むこともできなくなる。先の事を考えろ。」
「其方の兄弟達はアレキサンドリアで領主の親族として栄達を約束されているのだろう。ローゼマイン様が姫をお産みになれば降嫁先の筆頭だ。源流のエーレンフェストの本家を格下にするつもりか。」
「今後アレキサンドリアとの縁戚が推奨されるだろうに、ギーベの臣下になれば、ローゼマイン様は勿論兄弟達の血筋との婚姻も望めなくなるぞ。親族だというのに。」
口々に考え直すように言われて、さすがに動揺する。そこまで考えていなかったのだ。
「皆様、落ち着いて下さいませ。今からランプレヒトが辞任を申し出れば、落ち目の主を見捨てたと非難されます。信用を失って他の領主一族の側近にもなれないでしょう。リンクベルク家の評判にも関わります。」
ギーベ・ハルデンツェル夫人が取り成してくれる。
「それはそうだが、リンクベルク家の今後はどうなる。カルステッドもエルヴィーラも、ヴェローニカ様の仕打ちに耐え、領主夫妻を支え続けてきたいうのに、家が格落ちとはあんまりではないか。」
「方法はございますでしょう。ランプレヒトの子をカルステッドとエルヴィーラの養子にすれば良いのです。アレキサンドリアから養子を貰うことも出来ます。」
「いずれにしろ、カルステッドとエルヴィーラが現状を良しとしているのだ。口出しはできぬよ。」
ギーベ・ハルデンツェル夫妻が場を収めようとする。だが、蒸し返す者がいた。ギーベ・ライゼガングだ。
「ランプレヒト自身は納得して仕えているのだから良いが、子や孫の事を考えているのか。格下の貴族として生きていくことになるのだぞ。下位の者は上位者に振り回され押さえつけられ、忍従を強いられる。だからこそ、上位者と繋がりを持とうとするのだ。」
長年虐げられてきたライゼガングの長の言葉に、ギーベ・ハルデンツェルは黙した。覚えがあるのだろう。更に別の年配の貴族が続ける。
「エーレンフェストの城ではボニファティウス様や騎士団長のカルステッド、派閥の有力者エルヴィーラの目がある。下手なことはできぬだろうが、ギーベの土地に行ってしまえば実家の威光は届かぬ。ヴィルフリート様の手の内になるぞ。ボニファティウス様や両親が高みに上った後は尚更だ。」
「ギーベとなる方に付き従ったとして、報いて下さるのか?そこまで忠義を尽くしたとして、大切にしてもらえるのか?其方の選択で子や孫以降の処遇が決まるのだぞ。良く考えるのだ。」
隣でアウレーリアが身を固くしているのが分かる。自分はともかく子供達の将来を考えると、焦燥がつのった。
帰り際、見送りしてくれるギーベ・ハルデンツェルに言われた。
「きつかったな。貴族は誰でもそうだが、特にライゼガングは格を落とされることに敏感に反応する。其方にもリンクベルク家にも非は無いから尚更だ。自分達のような思いを味わせたくないのだろう。悪く思わないでやってくれ。」
「勿論です。貴重な忠告だと有難く受け取っています。」
実際、自分が先のことを如何に考えていないか、思い知らされた。