小山を消すよ(2)
小さな山に水をかける。
崩れやすくなったところで蹴る。蹴る。蹴る。
最後の山が消えた時、爽快感と満足感でいっぱいなった。
「ローゼマイン?」
山がなくなったら、目の前に神官長がいた。
「どれくらい眠ってましたか?」
「六日だ。予想より早かったな」
ユレーヴェから抱き上げられて床に降ろされる。
手と足を動かして、特に違和感がないことを確認する。
前回の長い眠りとは全然違うことにほっとする。
「ユレーヴェを洗い流すので息を止めなさい」
鼻をつまんで息を止めると「ヴァッシェン」と洗浄の魔術で全身キレイに洗われた。
そのまま長椅子に座らされ腕、足、首と魔力の流れを確認される。
「全て解けているな。おめでとう、ローゼマイン。やっと君の望みが叶えられたな」
わたしの望み。
そうだ、ずっと言い続けてた。
健康になりたい、興奮しても倒れない体になりたいとずっと思ってた。
神官長の柔らかな声に涙腺が刺激される。
「神官長のおかげです・・・。ありがとう存じます」
へらりと笑うと、頷き返してくれた。
貴族院に行く前に間に合った。凄く嬉しい。
「ただし、すぐに他の子供と同じように動けるわけではない。君の虚弱体質はそのままなのだから、無理はしないように。徐々に体力をつけれるよう、フェシュピールの練習の後は運動の時間を設けておきなさい」
「毎日ですか・・・・・・はぁい」
喜びに浸らせてくれないところがさすがだね。
体力作りを課題にされてしまったよ。
「風呂の準備が整っている。入ってきなさい。側仕え達も君の目覚めを待っていた」
「はい。モニカを呼んでいただけますか?」
お風呂に入って体を伸ばす。劇的には変わっていなくても、少しずつ体力をつけていけば良い。せめてレッサーバスで移動しなくても大丈夫なくらいには、人並みの体になりたい。
あぁ、下町の家族に会いたいな。やっと健康になれるんだって教えてあげたい。
翌日。たっぷり寝て体調に問題もなかったから、3の鐘で神官長のお手伝いに行く。こちらも今は閑散期のようでいつもより早く渡された分の計算が終わった。
「神官長、まだ時間はありますし追加でお仕事ください」
「いや、話があるので今日はここまでで良い」
側仕えがお茶の用意をしてくれたので、話を聞く体勢をとる。
「今の体になってまだ魔力を使っていないので実感はないだろうが、流れが良くなりすぎていて制御に難儀するはずだ。以前も使用した白の建物で魔力を扱って感覚を掴んでおきなさい。その際、ついでにシャルロッテの騎獣を作る手助けをしようと思っている」
「なるほど。わたくしのことは分かりました。でも、シャルロッテの騎獣って・・・神官長じゃなくても教えられるんじゃ?」
今まで関わりの薄かったシャルロッテに、なぜ突然?と疑問がわく。
「貴族院に行くと騎獣の作成は実技の始めの方にある。その時、君が一人で乗り込み型の騎獣を作ると目立つであろう?」
「目立つ・・・。そうですね、一人だけだと目立ちそうですね」
わたしは可愛いと思ってるけど、レッサー君は貴族に嫌われてるしね・・・。
「しかし、君とシャルロッテの二人が作れば周りはエーレンフェストの領主候補生はこの型なのかと思うだろう」
「そういうことですか。領地の流行に見えますね。でも、そのためにシャルロッテを巻き込むのは気が引けます」
「シャルロッテは祈念式や収穫祭を騎獣で回りたいから、乗り込み型にしたいと言っていた。問題ないだろう」
そういえば、祈念式の担当を決めてる時に騎獣があれば楽なのにって呟いてたね。
「そういうことでしたら、わたくしシャルロッテに乗り込み型の良さをいっぱい伝えて役立ててもらおうと思います。姉として!良いところを見せます!」
「君が張り切るとろくな事にならん。おとなしくしてなさい」
大きな溜息と共に窘められた。
失礼なっ!!
数日後、領主会議のための準備があるとのことで神官長と城へ向かう。
城に着くとリヒャルダに出迎えられ、自室で着替えを促される。
そのまま会議室まで行き、領主会議に持っていく流行の話が始まった。
貴族院に入学するわたしとシャルロッテが発信する流行との兼ね合いもあるので、会議には領主候補生が三人とも出席だ。
大体の方向性は事前に決まっていたようで、文官からスラスラと説明をされた。
義母様はじめ、女性達の髪はリンシャンでツヤツヤにしてアピール。
文官達は植物紙を持ち有用性を見せる。
子供達が貴族院で流行を発信するのに先駆けて、まずは大人が使い反応を伺おうということになったようだ。
取り引き事態は来年の領主会議からにするので、どれくらいの領地が興味を示すのか探る狙いがあるとのこと。
領地の数次第で取り引き方法を考えようってことで決まった。
ちなみに、髪飾りはわたしの思い入れも強いので、入学に合わせて使うことにさせてもらった。
転移陣の部屋で領主夫妻をお見送りしたあとは、シャルロッテにまたお茶会しようとお誘いをして分かれた。
その足で執務室まで行き神官長と話をしに行く。
「フェルディナンド様はこんなに長く神殿を離れてて大丈夫なんですか?」
まさか夜は神殿に戻って仕事したりしないよね?との牽制を込めて聞くと、軽く首を振って否定された。
「多少の様子見に帰ることはあるかもしれないが、日中はなるべくこちらの執務室にいるつもりだ。緊急の呼び出しがあるかもしれぬ」
神殿はカンフェルとフリタークに任せてあるから問題ないと言い放つので、あの二人はいつの間にかそんな信頼を得ていたんだねと安心した。
「緊急の呼び出しですか・・・何か警戒することありましたっけ?」
「いや。・・・念のためだ。わたしのことは良い、君は兄妹や側近と交流を深めなさい」
確かに。まだわたしは側近の性格を全然把握できていない。
貴族院に行く前に少しでもお話しておきたいな。
「分かりました。交流を深めてきます」
退室しようとしたところ、城にいる間に読み進めておきなさいと本を渡された。小躍りしながら自室に戻った。
シャルロッテとお茶会をして、側近と仲良くなるには何をしたら良いのかな?って聞いたら、一緒に刺繍をしながらお話しましょうって誘われた。
刺繍は苦手だけど、女の子が集まって姦しくお喋りするのは中々楽しかった。
リーゼレータとアンゲリカ姉妹は刺繍がとっても上手だった。アンゲリカに女子力で負けたよ・・・。
レオノーレはマントに刺繍をさせてほしい人がいるんだって。
お母様がキラキラしながら婚約者に刺繍を渡す乙女心の話をしていたのを思い出しニヤニヤしてたら、お相手は教えてもらえなかった。残念。
神官長から渡された本は、魔法陣の基礎に関するものだった。筆跡から神官長の手書きのものと思われる。
「フィリーネ、こちらへ来て。これは一年生の内容かしら?」
「魔法陣ですか!?わたくしも勉強していない範囲です。ローゼマイン様はまだ入学前ですのに、もう文官の予習を始められるのですか?」
わたしの学習進度は全て神官長任せなので、文官の予習と言われてもそうなんだ・・・としか反応できないけど。
「では、フィリーネも一緒に覚えましょう?今から予習しておいて損はないでしょうから」
日々の魔力供給をして、シャルロッテや側近達と過ごして。気付けば領主会議は終わりを迎えていた。