星結びと情報共有(3)

シュツェーリアが権勢を誇る頃、冬の貴族院での衣装作りに向けて話し合いが始まった。今年は新しい流行を作るのだと、ブリュンヒルデがとても張り切っている。

ギルベルタ商会が来て打ち合わせと採寸をしていたところ、コリンナさんが「昨年から比べると随分背が伸びてらっしゃいますね」と華やいだ声を上げた。

ユレーヴェの目覚めから一年。魔石に魔力を流して薄めたり、日々の体力作りをしたり、美味しい料理のためにレシピを考えてはいっぱい食べたり。とにかくできる努力は全部した!
その成果が出て、今のわたしはシャルロッテに一歩及ばないもののギリギリ10歳に見えるくらいには成長したのだ!

ありがとう存じます、神官長!あなたのおかげでわたしはこんなに大きくなりました!!

二度目のユレーヴェ以降は寝込むこと倒れることもなくなり、健康体の素晴らしさに日々感謝を捧げている。 もちろん無理のない予定を組むよう気を使っている側仕えの存在を忘れてはいけない。

健康だと毎日ちゃんと本を読む時間がとれる。寝込んで読書禁止にされたりしない。幸せだなぁ。


城にいる時間が増えたので、シャルロッテと情報交換をしたり、仕上がった服をお互い着て見せ合ったりして楽しんだ。自分の衣服に関しては興味のないわたしも、シャルロッテを可愛く見せるためのアイディアはいくつも浮かぶ。貴族院での流行の発信に関する打ち合わせも兼ねてるけど、女の子だけの集まりの場は明るくて楽しい。

領主会議の時に側近と仲良くなる方法を訊ねて以来、わたしとシャルロッテの側近は同じ場に集まる機会が増えて情報交換も盛んなようだ。わたしがシャルロッテを応援してる立場ということもすっかり知れ渡っている。



冬の社交が始まるまであと数日というある日、アウブの名で領主候補生とその側近全員が会議室に集められた。
貴族院に行く前に情報共有するとともに、アウブの方針を伝えるためのようだ。

会議室には領主夫妻、護衛騎士としてお父様、神官長、文官の上層部が数名座っていた。
子供をメインにアウブと会議など今までになかったことなので、皆が緊張した顔をしている。


「本来、冬の貴族院は子供の社交の場。大人が口出しすべきではない。その思いから昨年はこういった場を設けなかった。しかし昨年の社交から得られた情報は今までエーレンフェストに届かなかった貴重なものが多く、エーレンフェストが政変を回避したことから今のユルゲンシュミットの現状を認識できていなかったことも判明したので皆にもよく聞いてほしい」

話しはじめたアウブの言葉を真剣に聞いていた子供達が、政変の言葉に鈍い反応をする。わたしも王子達が争った末に勝ち組、負け組領地が出たことは神官長からの歴史講座で聞いてはいるものの、エーレンフェストへの影響が分からない。

「政変の結果、第五王子陣営が勝利し今のツェントとなっていることは皆も知っての通りだ。そして勝ち組には境界の引き直しがされていないまま領地が与えられ、負け組は大粛清が行われた。そのため今のユルゲンシュミットは全ての領地が魔力不足に陥っている。ただし、エーレンフェストだけは例外だ」

はっ・・・と息を呑む声があちこちから聞こえた。
勝ち組領地は貰っても嬉しくない土地の管理を、無理やり任されてるってことかな。


「中立のまま終わったエーレンフェストは青色神官を数人持っていかれた程度ですんだが、他の領地は今もなお管理する土地に対して少なすぎる貴族での対応を余儀なくされている。粛清が行われた領地の領主一族は嫁ぎ先でも処刑されているようなので、領主一族が減りすぎている領地も多いだろう」

勝ち組で大領地のアーレンスバッハもその中に入る。星結びの儀式のために近付いた時に見えた荒廃した土地が脳裏をよぎる。

「そこに、魔力量が豊富なことを理由に養女となったローゼマインの話を聞いた他領の者が何を思うのか想像してもらいたい。魔力が豊富で流行を生み出し、子供達の成績を上げる手腕がある女性領主候補生。ヴィルフリート、其方ならどう思う?」

指名されたヴィルフリート兄様の顔が強く引き締まる。

「まず、羨ましいと思います。そして、中領地のエーレンフェストにはふさわしくないからと、奪うことを考えるのではないでしょうか」

ヴィルフリート兄様の予想に顔が引き攣る。わたしは他領に奪われないために領主候補生となったのに、結局他領へ行かなきゃいけないの?

「ローゼマインは他領に移ることも、自らの有能さを見せつけたいとも望んでいない。そして、ローゼマインを奪われることはエーレンフェストにとっても大きな損失だ。そうだな?」

わたしは何度もこくこく頷く。わたしの側近や兄妹も大きく頷いている。

ここまで義父様の横で話を聞いていた神官長が口を開いた。

「ローゼマインは目立ちすぎないよう言動に注意するように。流行を発信しても、取り引きは領主の権限だ。勝手に話を持ってきたりしないで、まずは相談しますという姿勢を相手に見せなさい。シャルロッテ、其方はローゼマインと全ての講義が一緒だ。悪意を持って近付く者がいたら、互いの側近に情報を流してほしい。頼めるか?」
「かしこまりました、叔父様。わたくしお姉様を守り、お姉様を目立たせないためにも好成績を残すことをお約束しますわ」

キリッと凛とした空気を纏いシャルロッテがわたしを守ると宣言してくれた。
シャルロッテ・・・!やっぱりシャルロッテはわたしの天使だよ・・・!


「わたくしもシャルロッテに悪い虫が寄り付かないよう守りますわ!安心してくださいませ、義父様」
「ん?ローゼマインは張り切りすぎると不安になる。ほどほどにな」

ひどいよ、義父様!後ろに立ってるお父様もうんうん頷いてるし!
わたしはお姉様なんだから、シャルロッテを守ってみせるよ!


でも貴族院の図書館には早く行きたいから、講義の手加減はできないかな。ほどほどって難しいよね。



「それから、ローゼマインについて神殿育ちを揶揄する声は必ず出てくるだろう。その時、其方達には堂々とした受け答えを求めたい」
「・・・え?」

神官長の言葉に皆がとまどう。
わたし自身は神殿のことを住みよい我が家との心象でいるけど、他の貴族にとってそうではないことくらい知っている。


「シャルロッテ、其方にとってエーレンフェストの神殿はどんな場所だ?」

問い掛けられたシャルロッテは一瞬考えこみ、すぐに答えを出した。

「いつ行っても清潔でとても清廉とした場所です。灰色神官はよく教育されていて、誰と話しても不快に感じたことはありません」
「ヴィルフリートは?」
「シャルロッテに同意します。それに食事やお菓子は城で食べるより美味しいです。孤児達もローゼマインが作った絵本や玩具を使って真面目に学んでいる姿を見ています。どこに貶める要素があるのか、正直私には分かりません」

実際の神殿を知っている者は同意見だと頷いてるけど、多くの者は二人の話に目を剥いて驚いている。
まだ偏見が残ってる人も多いんだろうね。


「二人の印象が、今のエーレンフェストの神殿だ。他領の者に揶揄された時は、そのように答えれば良い。そして、そちらの領地の神殿は事情が違うのでしょうか?と尋ね返せば大半の者は黙るだろう。まさか自分の領地の醜聞を声高々に教えたい愚か者はいないだろうからな」
「なるほど・・・」

神官長の言葉に何とも言えない空気が流れる。
正しいんだけど、詐欺っぽいのは気のせいかな・・・。
神殿の姿を見てない人は尚のこと戸惑っているようだけど、事実は事実だしねぇ。


「父上、発言してもよろしいでしょうか」
「なんだ?ヴィルフリート」
「私は神殿の神事を行ううちに、祈念式の重要さを実感しました。領主候補生が祈念式に参加するようになった前と後での収穫高の差を具体的な数値として発表するのはいかがでしょうか?魔力不足に嘆く他領はきっと土地に魔力が行き渡らず収穫量も不足しているでしょう。分かりやすく神殿の良さを見せつつ、エーレンフェストへの妬みを逸らせるのではないかと考えました」

なるほどね!
神事の重要さをアピールしつつ、役立つ情報を他領にも広められる良い方法かも。
他領の収穫高が上がって、エーレンフェストが損するわけでもないしね。

「うむ・・・なかなか有効な手に思える。フェルディナンド、其方の意見は?」
「良いのではないでしょうか。領地対抗戦までにはまだ時間もあるので、上手く資料をまとめ質問された時は皆が答えれるよう準備しておけば、エーレンフェスト全体で神事に敬意を払っていると見せることもできそうかと」
「そうだな。よし、ヴィルフリートの案を許可しよう。エーレンフェストの生徒が自主的に領地対抗戦で発表を行うのは久々だ。楽しみにしているぞ。皆よく励むように」
「かしこまりました」

子供達の声がきれいに重なった。アウブの期待に応えなくてはと、興奮とやる気に満ちた空間に手応えを感じる。



「会議は以上だ。本日の情報を各々しっかり吟味してから貴族院へ向かうように。エーレンフェストの貴族に相応しき行いを心掛けよ」


アウブ・エーレンフェストの言葉を最後に解散となった。
冬の訪れまであと少し。

- 45 -