心配症の神官長(1)
冬の社交界は洗礼式とお披露目から始まる。
今年は授与式に出席するため神殿長の仕事は、神官長に代理をお任せする。
この日のために用意した衣装を着て、トゥーリが作った新しい髪飾りをつけてもらう。うふふん、やっぱりトゥーリはわたしに似合うものをよく知ってるね。
準備ができたところでシャルロッテが一緒に行こうと部屋を訪ねてきた。
冬の貴色の衣装は繊細な刺繍が彩りを増やして、シャルロッテによく似合っていて可愛い!
部屋を出て下へ行くとヴィルフリート兄様も合流したので、三人と側近達でぞろぞろ歩いて行く。
大広間の移動中に多くの貴族が挨拶に来る。昨年の冬は城に滞在中に面会して会話を交わした人も多かったので、顔見知りは増えた。
神官長が洗礼式を行うために入ってくる。社交的な笑みを浮かべているけど、少し顔色が悪い。神殿と城を往復して仕事をしてる様子だったから、疲れがたまってるのかも。あとでちゃんと休むよう言っておかなきゃ・・・。
洗礼式のため舞台に上がる子供達を眺める。
そして、お披露目が終われば授与式だ。神官長と入れ替わるように文官が舞台へ上がった。準備が整うと舞台の中央に義父様が歩いてくる。
「これより授与式を行う。貴族院へ向かう新入生は前へ」
隣に立っていたシャルロッテと目を合わせ微笑み合うと、並んで舞台へ上がる。
わたしの側近入りが決まっているマルセルとヘートヴィヒも上がってきた。
他にも子供部屋で交流していた同期の子達が並ぶ。
シャルロッテの名が呼ばれ、マントとブローチが渡された。
次に呼ばれるのはわたしだ。
「ローゼマイン」
「様々な経験を通して、よく学び、成長し、エーレンフェストに相応しき貴族となる事を望む」
「闇の神に敬意を表し、あらゆる経験を我が力と為せるように誠心誠意努力いたします」
マントとブローチを持って下がり、また並ぶ。
文官から貴族院への移動日が知らされた。
新入生のわたしとシャルロッテは最終日の最後に移動する。
一年遅れでわたしも漸く貴族院だね。
授与式の後は昼食で、昼食を終えたら貴族達による社交が始まるから先程とは違う衣装に着替えてまた移動する。
再び兄妹と一緒に大広間へ向かいながら、衣装の話をする。
わたしが考案したバルーン状のスカートをシャルロッテとお揃いで着ているのだけど、使っている布の色や小物が違うので雰囲気が違って見える。
シャルロッテの方が大人っぽいね・・・わたしがお姉様なのに。
大広間に入って最初に挨拶してきたのは、ギーべ・グレッシェル夫妻だった。印刷と製紙業についての話を交わす。
次に挨拶に来たのはギーべ・ハルデンツェル夫妻だ。春が早く来た影響について、喜びと共に教えてくれた。
そして、わたしの前に跪いてそっと手を取った。
「ハルデンツェルの民の全てを代表して、エーレンフェストの聖女にお礼申し上げます」
わたしの手の甲に自分の額を押し付け、最大級の感謝を示したのだった。
取れる時に取れるだけ・・・と言っていた神官長の言葉が脳裏をよぎる。
まさか、この状況を想定してたんじゃ・・・。
してやったりと笑う確信犯の顔が浮かんだ。
ギーべ・ハルデンツェルの後も次々と挨拶をしに人が来る。
「ローゼマイン様、ご挨拶させてくださいませ」
振り返るとお母様とアウレーリアがいた。
「アウレーリア、新しいヴェールができたのですね」
「はい。ランプレヒト様からエーレンフェストの布を贈っていただいたのです。ローゼマイン様の助言通り、周囲の視線が少し和らぎました」
アウレーリアとは星結び後、お茶会をしたことがある。
その時どうしても顔を見られたくないという話をしていたので、せめてエーレンフェストの布を使って馴染む意思があることを伝えては?と助言していた。
布を贈るのは夫の役目と、お母様がランプレヒト兄様に話を通してくれたらしい。
まぁまだ目立つけどね!この辺がアウレーリアにとっての妥協ラインなんだろうね。
「ローゼマイン様が貴族院から戻られましたら、また我が家へお招きさせてくださいませ。貴族院のお話を楽しみにお待ちしております」
「えぇ、エルヴィーラ。わたくしも楽しみにしておりますわ。アウレーリアも今しばらくは不自由な生活が続くかもしれませんが、時の女神 ドレッファングーアの糸紡ぎが円滑ならば解決するものもありますわ」
情勢が落ち着くまでは姑に監視される生活だけどもうちょっと耐えてね!
「恐れ入ります。けれど、わたくし今の生活を特に不自由とは感じておりません」
やけにさっぱりとした穏やかなアウレーリアの言葉は、本音を語っているように聞こえた。
翌日から入寮日までは子供部屋に通うことになる。
お披露目を終えたばかりの子供達から挨拶を受け、子供部屋内にある玩具や絵本の扱い方を教える。
貴族院へ移動する前の上級生達も一緒になって遊んでもらい、上手く負けて下の子のやる気を育む技などを伝授してみた。
人を育てるって中々楽しいよね。
自室に戻ると神官長から「明日は一日神殿に戻るので準備しておくように」とオルドナンツが届いた。
「もうすぐ入寮だというのに慌ただしいですね」
リヒャルダが眉をひそめた。
「奉納式のことで何かあったのかもしれないわ。朝食を食べたら出れるよう、準備しておいてくださいませ」
「かしこまりました」
翌朝、迎えに来た神官長と護衛のダームエル、アンゲリカと共に神殿へ戻った。