心配症の神官長(3)

とうとう貴族院へ移動する日となった。
黒を基調とした衣装に、山吹色のマントとブローチを付け転移陣のある部屋へ行く。

見送りにはわたしの家族、領主一族が勢揃いしていた。わたしのすぐ後にシャルロッテも移動するからね。
もちろん、ヴィルフリート兄様は既に旅立っている。


「ローゼマイン、ぜひ恋物語に使える話を集めてきてくださいませ」
「頑張ります、お母様」

「其方が不在の間にダームエルとアンゲリカは鍛えておくので、安心して行くと良い」
「頼りになりますわ、おじい様」

・・・ダームエル頑張って!

「アーレンスバッハの動向に気を付けて、其方はおとなしくしているようにな」
「かしこまりました、義父様」
「ヴィルフリートとシャルロッテをよろしくね」
「はい、義母様」

そして最後に神官長だ。
顔色はこの前より良くなっていて安心した。

「私との約束を忘れないように。成績はほどほどでも構わないので、楽しんでくるといい。ただし、奉納式までには全て合格して戻ってきなさい」
「ほどほどの成績で全て合格は難しいのでは・・・?」
「ふっ。君ならできる」

何やら確信めいた笑みで断言されてしまった。
まぁ頑張りますけどと笑顔を向けて転移陣に乗り込んだ。



転移すると目の前の空間が揺らぎ、一瞬立ちくらみがした。
一緒にいたリヒャルダが支えてくれる。

「貴族院エーレンフェスト寮へようこそおいでくださいました、ローゼマイン様」

正面には大きく開け放たれた扉があり、監視のための騎士が二人立っていた。

「ローゼマイン姫様、気分が悪くないのでしたら移動しましょう。すぐにシャルロッテ姫様が来られますから」
「えぇ、そうね」

リヒャルダに軽く背を押され部屋から出ると、待合室があった。
コルネリウス兄様とレオノーレが出迎えてくれる。

「では、二人に姫様をお任せいたします」
「お任せください」

リヒャルダは部屋の準備のため先に行ってしまった。

二人に案内されるままホールへ行くと、側近達が席へ案内しお茶とお菓子を出してくれる。
わたしと同期の新入生も緊張した様子で近くに座り、お茶を手に取っていた。

「シャルロッテ様が到着いたしました」

ホールの入口にシャルロッテの姿が見えたので、笑顔で手招きして向かいに座ってもらった。

「なんだか城と造りが似ていて、貴族院に来た感じがしませんね」
「わたくしも同じことを思っていましたわ」

くすくす二人で顔を見合わせて笑っていると、コルネリウス兄様が各領地の寮はそれぞれ特色があって見るだけでも楽しいと教えてくれる。

しばらく新入生を中心に話をしていると、隔離されるような位置に座る者達の姿が目に付いた。

「レオノーレ、あの子達は何故あんな遠い位置にいるのですか?」
「あちらにいるのは旧ヴェローニカ派の親を持つ子供達です」

元々最大派閥だったヴェローニカ派だけに、今も学生の四分の一くらいは警戒対象らしい。

「彼等をこちらの味方にできないかしら?あの人数を放っておくのは勿体ないわ」
「派閥とはそういうものです、ローゼマイン様」
「親は親、子は子でしょうに・・・」

コルネリウス兄様のきっぱりした言い方に、これ以上の話を止められてしまった。

「お姉様、その件に関してはわたくしに一任していただけませんか?」

それまでわたし達のやり取りを聞いていたシャルロッテが、強い眼差しでわたしを見据える。

「わたくしに考えがあるのです。夕食の後、皆に話を聞いていただきたいです」
「わかりました。では、シャルロッテにお任せしましょう」
「ありがとう存じます。あの・・・お姉様はわたくしの味方でいてくださいますよね?」

最後に少し声が小さくなった。何を不安に思うことがあるのだろうか。わたしはシャルロッテのお姉様だよ。何があっても大丈夫!

「もちろんでしてよ、シャルロッテ。わたくしはあなたの味方です」

にこっと笑えば、シャルロッテからも嬉しそうな微笑みが返ってきた。何をするのか分からないけど、フォローは任せて!




これが、シャルロッテを中心とした貴族院の第一歩となることをわたしは後から気付くのだった。

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