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 馬車の中で考えこんでいると、アウレーリアがためらいながら口を開いた。「ランプレヒト様、ヴィルフリート様はギーベとなった後、ランプレヒト様を重用して下さるでしょうか。わたくしもお役に立てますか。」
 
 はっとした。アウレーリアは慣れない土地で貴族女性の付き合いを始めなければならないのだ。ギーベの土地で母上の助力は望めない。ローゼマインは尚更だ。孤立無援と言ってもいい。
 自分もヴィルフリート様には二年前の祈念式巡り以降、距離を置かれたままだ。この先重用してもらえるかどうか分からない。

 「・・重用してもらえるかは分からない。ヴィルフリート様に仕え始めたきっかけは、ヴェローニカ様からの命令だった。断れば家族が危うかった。だがヴェローニカ様失脚後も仕え続けたのはヴィルフリート様に必要とされたからだ。少なくとも私はそう思っていた。だが今は分からない。距離を置かれるようになってかなり経つからな。しばらく時間をもらえるか。あと一年ある。」

 社交の苦手なアウレーリアにかなりの負担をかけ、子供や孫以降の将来を悪くしてまで、仕える価値があるのだろうか。
 廃嫡の危機のときに共に頑張りましょうと言ってくれたオズヴァルドも辞めてしまった。今となってはヴィルフリート様に必要とされているかも分からない。

 ……辞任した方がいいのかもしれない。ヴィルフリート様がギーベとして着任されるとき、何人かは辞めるだろうし、他の領主一族に仕えなければ、それほど非難されないかもしれない。


 幼いころからお仕えして来たヴィルフリート様に情はあるし、主として誇らしく思った時期も確かにあった。廃嫡の危機に陥った時や、ローゼマインが眠っていた二年間に領主の子として努力されていたヴィルフリート様は傍から見ても立派だった。このまま成長されれば、次期アウブとして十分見込みはあると思われた。
 だがヴィルフリート様は生来怠惰な性質なのか、周りに追いついたと感じると、楽をしたがるのだ。貴族院に行くようになり、ローゼマインと婚約してからそれが顕著になった。大領地の領主候補生であるオルトヴィーン様の名をよく出すようになり、優秀者に選ばれた自分は十分だと思われているようだった。

 オルトヴィーン様が思惑なしにヴィルフリート様に近づいているとは思えないし、汚点が付いているヴィルフリート様は他の領主候補生とは違う。よほど突出しなければ次期アウブに相応しいと言えないのだ。
 だが、苦言を呈せば不機嫌になり、他の側近にも嫌な顔をされる。更にローゼマインに負担を掛けられると言って、実兄の私に当たられるようになり、諫言が難しくなった。

 私もローゼマインを悪く言うヴィルフリート様に何かを言う気が段々と失せてしまった。家族を悪く言われれば苦痛を感じるとお分かりにならないのだろうか。妹は家族に笑顔を取り戻し、親族を助け、主を廃嫡から救うことで私の立場を守ってくれた。妻がエーレンフェストに馴染むよう気を配り、息子にも贈り物をし、今でもアレキサンドリアから気に掛けてくれている。

 ヴィルフリート様に何かして頂いたことは一度もない。私と家族の力になってくれているのは、ローゼマインだ。
 
 ヴィルフリート様は基本的に素直な方だから、言えば理解して下さるが、言わなければ解って下さらない。致命的に空気を読めない方なのだ。だが側近の方から、して欲しいことや止めて欲しいことを言えるはずがない。現状は変わらないことになる。
 そもそもヴィルフリート様にとっては尽くされるのが当然で、側近は勿論、親兄弟の為でさえ何かするという発想がない。ローゼマインが眠りから覚めた直後はシャルロッテ様と共に貴族から守ろうとされたが、その時くらいだろう。
 結論として、今後ヴィルフリート様が臣下に気を配り、大切にして下さるようになるとは思えない。

 ……家族の為を思えば、辞任すべきだ。

 だが、いわば保身の為に辞任することを両親はなんと言うだろう。家を口実にするなと言われそうだ。それにヴィルフリート様に「辞任します」とはどうしても言える気がしない。勇気がないのだ。
 これまでの経験から言いたい放題言われることは想像がつく。ヴィルフリート様はヴェローニカ様の影響か、反論できない下位の者に当たり散らす癖があるのだ。フェルディナンド様に叱責されて以降、領主の子という特権を振りかざすことはなくなったが、大領地のオルトヴィーン様の名前を出すようになった時は血筋を感じて苦い思いがした。

 自分はともかく子供や孫の代以降は何とかしなければならない。両親の養子にしてもらうのが一番だが、わが子を手元で育てられないことになる。ジークレヒトのあどけない様子を思い出し、胸が痛んだ。アウレーリアに何と言えばいいだろう。

 そう悩んでいたが、私の逡巡は以外なところから打開されることになった。


続く

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