改革と親睦会(3)

本日は進級式と親睦会が行われます。
エーレンフェストは12位です。忘れないよう皆に周知徹底させなくてはいけません。

貴族院では黒を基調とした衣装を纏うという決まり事があるので、寮内に人が集まると全体的に黒いのです。ですが今は数人の女性が華やかな髪飾りで彩られていて、大変美しく目を惹きます。
わたくしはお姉様とお揃いの髪飾りにしました。冬の貴色である赤と白を配色した髪飾りをつけております。リンシャンで艷めく髪によく映えていると思いますわ。もちろん、髪飾りは誰よりもお姉様が一番お似合いですけど。

こんなに美しい髪飾りを発案できるお姉様の才能は他に類を見ません。叔父様に言われるまでもなく、わたくしがしっかりお姉様を守らなくてはと決意を新たにしました。


「全員揃ったな?今年のエーレンフェストは12の扉だ。この数字を忘れぬように!では、出発しよう」

お兄様の号令で講堂まで歩きます。
歩みの遅れがちなお姉様は大丈夫でしょうか?
横に並んで歩いている様子を見たところ大丈夫そうではありますが・・・。

「お姉様、皆の歩みに着いていけそうですか?無理をして速度を合わせなくてもよろしいのですよ?」
「気遣ってくださってありがとう、シャルロッテ。でも今のところ大丈夫そうですわ。一年かけて体力作りをした成果が出てるようね」

コロコロと鈴の音が鳴るような愛らしい笑い声を響かせ、周囲を和ませて下さいました。
真面目なお姉様は日々の体力作りも精力的にこなしてらしたから、ユレーヴェで眠る前より体力がついているのは本当のようですね。ほっとしました。


ユレーヴェからお目覚めになった時はまだあの頃のお姿のままで、正直なところ目線のかなり低くなったお姉様にわたくしは少々動揺をしていました。お姉様がとても優秀な方だということをわたくしはもちろん承知しておりますけど、このお姿を見ただけで他領の者からは侮られてしまうのでは。そのような心配を罪悪感と共に抱きました。
ですが、叔父様から何やら助言があったらしく、一年の間にお姉様はすくすく成長されました。椅子に補助なしでも座れる姿を見た時には、密かに感激したものです。わたくしの大好きなお姉様が、その見かけだけで下に見られるなどあってはならないことですもの。
今はわたくしと対して変わらない目線になられたお姿を拝見すると、育成の神 アーンヴァックスに祈りを捧げずにはいられませんわ。



皆で固まりになりながら廊下を歩き、講堂へ向かいます。全生徒数が2000人ほどですから、一同に会す模様は圧巻ですわ。
指示された場所に立ち進級式が始まるのを待つ間にも、見える範囲の領地の姿を観察します。上位の領地はここからでは全然見えませんね。


「今年もまたユルゲンシュミットの将来を担う子等の研鑽の場が開かれた。ユルゲンシュミットの貴族と認められるため、それぞれの属する領地の影響を高めるため、努力を怠らぬように」

教師の方でしょうか。姿は見えませんが声が広がり、講義のことや注意事項などの話が始まりました。音を拡大させる魔術具を使っているのでしょうね。さすが貴族院です。珍しく感じられる魔術具を当たり前に使われているようですね。


諸々の説明が終われば、進級式も閉会のようです。
この次はいよいよ親睦会が始まります。お母様の教育に恥じない淑女としての振る舞いを見せなくては。お姉様を目立たせないためにも、社交はわたくしが前面に出て行いますわ。

強い決心によって強張ったわたくしに気付いたのでしょう。お姉様がそっと手を握ってこられました。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、シャルロッテ。わたくしも一緒にいますからね、頼ってくださいませ」

金蜜色の瞳が美しい微笑みの形に変わります。お姉様の思いやりに心が暖まり、体から不要な力が抜けました。感謝を込めて、にこりと微笑み返しました。嬉しそうにして下さってます。


講堂から小広間へ上級生に先導されながら向かいます。

「12位エーレンフェストより、ヴィルフリート様とシャルロッテ様とローゼマイン様がいらっしゃいました」

扉の前に立つ文官の声と共に、わたくし達は小広間へ通されました。
入ってすぐに見える正面の大きなテーブルには、洗礼式頃の少年の姿があります。事前情報にはありませんでしたが、ツェントの第三王子でしょうか?

隣でお姉様が首を傾げているので、やはり知らなかったようですね。お兄様も同様の顔をしています。

「ハルトムート、王族が入学するという話は聞いてますか?」
「いえ、我々だけでなく他領の者も王族の存在を知らなかったようです。もしかしたら第三夫人の子が洗礼式を迎えたのかもしれません」
「洗礼式・・・確かにそれくらいの年齢に見えますね」

お姉様とハルトムートの話を聞かせてもらいました。王族らしき方の存在を知らなかったのは、わたくしだけでなかったことに安堵しました。


全ての領地が揃ったところで、中央の文官が王子を紹介します。

「こちらは第三王子ヒルデブラント様でございます。秋に洗礼式を終えられ、王族の一員として認められました。本来のご入学はまだ先ですが、今年は王族の務めとして貴族院に在るように、と王より命じられ、こちらにいらっしゃいました」

貴族院には必ず王族が在籍しなければならないという決まりがあるのですね。アナスタージウス王子は次期ツェントに決まり忙しいでしょうし、ジギスヴァルト王子はアウブになることが決定しています。
そのため在籍できるのが洗礼式を迎えたばかりの、ヒルデブラント王子だったのですか・・・。

お父様の話にもありましたが、政変以降どの領地も魔力不足に喘いでいるというのは王族も例外ではなさそうですね。
把握できている成人の王族の数があまりにも少ないです。
ユルゲンシュミットを支えられる魔力が今の王族だけで維持できているのか・・・わたくしが気にするにはあまりにも不遜なことを考えてしまいましたわ。


文官の話が終わると、挨拶周りが始まります。
最初に立ち上がったのはクラッセンブルグの上級貴族らしき男性です。
昨年エグランティーヌ様が卒業されたことで領主候補生がいなくなりましたが、次期ツェントの第一夫人です。クラッセンブルグは領地として磐石な地位を約束されたも同然で、貴族院での発言力も当然大きなものとなります。
上級貴族と中領地の領主候補生なら、実質的な地位はクラッセンブルグの上級貴族の方が上でしょう。充分に気を配らなくてはなりませんね。

上位の領地がどんどん挨拶を進めるなか、12位エーレンフェストの番となりました。
お兄様の両腕に、わたくしとお姉様をエスコートして頂いてヒルデブラント王子の前へ進みます。
王子の前で跪いて、胸の前で両手を交差させると、首を垂れて、初対面の挨拶をします。わたくしにできる最大限の優雅さを心掛けました。


「ヒルデブラント王子、命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」

おっとりとした声に目線を上げれば、青みがかった銀髪に明るい紫の瞳の王子が柔らかく微笑んでいらっしゃいました。
お兄様の報告にあった昨年のアナスタージウス王子とは、随分と雰囲気に違いがあるようです。

「お初にお目にかかります、ヒルデブラント王子。エーレンフェストより、ヴィルフリートとローゼマイン、そして、シャルロッテがユルゲンシュミットに相応しき貴族としての在り方を学ぶため、この場に参上いたしました。以後、お見知り置きを」

許しを得てから指輪に魔力をこめて祝福を送ります。
三人が同程度の祝福だったことに、お姉様から安堵した気配が伝わってきました。過剰な祝福にならないよう、気を使っていらしたのですね。

わたし達の挨拶を聞いていたヒルデブラント王子が「顔を上げてください」と声を掛けてくださいました。その声に顔を上げると、興味深そうにわたくし達の顔を見ていらっしゃいます。
・・・王族の方とこのような至近距離でお会いするなど考えたこともありませんでしたので、今更ですが緊張を覚えますわね。


「エーレンフェストの領主候補生は昨年優秀者で、領地全体の成績も上がっていると聞いて期待しています。今年も頑張ってください」
「恐れ入ります」

お兄様が応えたことで挨拶は終わりかと思いましたが、まだ続きがありました。

「それと、ローゼマインでしたか。事情があって入学を一年遅らせたと聞いています。ユレーヴェでの長期治療には王も関心を抱いておられました。貴族院では無理をしないよう自愛なさい」
「過分なお言葉を受け、身に余る光栄です」

お姉様が答えたことで、一瞬ヒルデブラント王子の視線が固定されました。
わたくし達のどちらがローゼマインなのか、分からぬままお声掛けされていたのでしょうね。

そこでやっと下がるよう手を振られたので王族へのご挨拶が終わりました。
あとは各領地との長い挨拶周りですね。
頑張りましょう。

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