連続します、一発合格(2)

明日から最初の講義が始まりますが、座学は皆が復習程度に見返してます。

「昨年の子供部屋での勉強は効果がありましたね。苦手教科を見返すくらいしかやる事がありませんわ」
「座学は充分ですから、下級貴族のフェシュピールなどを見て差し上げましょうか」

昨年お姉様が子供部屋に通うようになってから、地理と歴史も子供部屋のお勉強に追加されました。
そのおかげで、一年生チームは自信に満ち溢れています。最速での一発合格も達成出来てしまいそうですわ。
実技は魔力量にもよるので得手不得手がありますが、無理をしてまで合格する必要はありません。

「お姉様はてっきり今日からでも図書館に行ってしまうのかと思っていましたわ」
「わたくしもそのつもりでしたが、フェルディナンド様に全ての試験に合格してから行くようにと言われているのです。その代わり、空いた時間に読めるよう本を何冊か持たせてくださったので何とか我慢できそうですわ。うふふ」

叔父様は呆れるほど過保護ですわね。お姉様の行動を読み切ってるとも言えますが・・・。


一日目はまず講義の説明と、図書館の使い方を教えて頂きました。先生に面会の予約が必要ですか・・・これはお姉様にお任せしておきましょう。
その後は算術と神学の試験です。これはとても簡単で、エーレンフェストは余裕の全員合格でした。ですが神学は躓く領地も多く、全員合格のエーレンフェストは少し目立ってしまいましたわ。

「お姉様、周りの視線に気付きました?」
「全員合格が目立ってしまったのには気付きましたけど・・・こんなに簡単な問題で手を抜く方が難しいですわ」

やれやれと頬に手を当て困った顔をするお姉様に完全同意ですわ。他寮の不勉強さに驚いてしまいます。


午後からは領主候補生と上級貴族が同じ部屋で魔力の扱いについて実技を行います。

ヒルシュール先生が前に立ち、教卓に木箱を置きました。

「ここに魔石が入っています。各自、自分の魔力で染めてください。完全に染まったら、わたくしに見せてください。その後、魔石から完全に魔力を抜きます。それができれば、本日の課題は終了です」

領地の順位順に魔石を取りに行き席に戻ります。


「・・・お姉様。叔父様はどこまで先を見通していらっしゃるのかしら」
「色々と考えすぎて頭が薄くならないか心配になりますね」

わたくし達の手にある魔石は、お姉様が魔力の扱いを特訓した時に一番多く扱った大きさです。

これより小さくなるとすぐに金粉化してしまうので、お姉様は必死に何個も染めて練習していたものですけど・・・。


「では、魔力を込めてください」

ヒルシュール先生がパンと軽く手を叩くと、皆が魔石に集中します。わたくしも城で魔力供給をするようになってから随分と魔力の扱いには慣れましたから、すぐに染めることができました。

お姉様はわたくしが染めきったのを見てから、自分の魔石を染めました。魔力量で目立たないよう気を使っていますね。よほど叔父様から強く言い含められたのでしょうか。

二人でヒルシュール先生に見せに行き、良くできていると褒められました。そのまま魔力を抜けば合格です。

さすがに苦戦している領主候補生はいませんでしたね。皆さっさと終わらせて教室を出て行きます。


「実技の時間は他領との社交の時間に使えると聞いていましたが、こんなに早く終わってしまうと社交どころではありませんね」
「ふふふ、シャルロッテは真面目ですねぇ。まだ他の実技もありますから、焦ることはありませんわ」

それもそうですね。わたくし達も流れに逆らわず、すぐ教室を出ることにしました。


寮に帰るとすぐにお姉様の手元には図書館の先生からお返事が返ってきていました。お昼休憩の時に面会依頼を出していたのですね・・・さすがお姉様ですわ。
あまりの素早い行動にわたくしは脱帽です。

「シャルロッテ、四日後に一年生全員で登録に行きますよ。よろしくね」
「えぇ、分かりましたわ」

それからお姉様はニコニコと写本について下級貴族に話をしています。もちろん派閥に関係なく買い取るからと大盤振る舞いですが、お姉様の今の懐具合は如何程なのでしょうね。少なくとも領主候補生として城から出されている予算とは別物であることは伺えますわ。


翌日からは、地理・歴史・魔術の座学でしたが・・・困りましたわ。
お姉様と顔を見合わせて、ついため息をついてしまいます。

「目立つのは本意ではないのですが・・・」
「他領は下級貴族が地理と歴史に苦戦しているようですね。子供部屋で学んでいる以上、これからも毎年エーレンフェストの一年生は一発合格してしまいますわ」
「悪いことではないのに、スッキリしませんわね」

あっさり全員が合格を叩き出し、他領から賞賛と嫉妬混じりの注目をあびてしまいました。

お姉様の学習要綱が優秀すぎるという結論が出ましたわね。いっその事、聖典絵本などは他領にも売り出して、貴族院に通う子供達全体を底上げした方が良いのではないでしょうか。

いえ、せっかくエーレンフェストの優位を築けている時に、そのような考えは持つものではありませんわね。

寮に戻って昼食を食べながら、ついつい考え込んでしまいます。


「何をそんなに難しい顔をしているのだ、シャルロッテ?一年生は早々に合格して、最速チームに決まって良かったではないか」
「お兄様・・・寮内の勝負に勝てたことは嬉しいのですが、目立たないようにするというアウブの指針からは外れてしまいましたわ」
「う・・・それもそうだな。しかし、ローゼマインだけが目立ったわけではない。元々エーレンフェスト生の座学は良くなっているのだ。そんなに難しく考えなくても大丈夫だろう」
「そうでしょうか・・・」

そもそも中領地にすぎないエーレンフェストが目立つ時点で、上位領地にしてみれば面白くはないと思いますけど。実技はもう少し抑え目にしておきましょうか。はぁ。

「まぁ、シャルロッテったら」

考え込むわたくしを見ていたお姉様から笑われてしまいました。

「お姉様?」
「他領とのことより、まずは頑張った一年生を労う方が先ですわ。皆様、日頃のお勉強の成果を発揮できて素晴らしかったですね!」

ニコニコとお姉様が一年生に声を掛けます。そうですわ!わたくしったら何て失礼な態度を!

「お姉様の仰る通りですわ。皆様とても素晴らしい結果が残せましたね。わたくし皆様の頑張りが誇らしいです。領地に戻ったら是非お姉様のカトルカールをお家でも堪能してくださいませ」

ニコリと笑って労えば、満面の笑みで応えてくれました。お姉様のこういう褒め方は本当に見習わないといけません。



午後は音楽の実技です。
側仕えにフェシュピールを持たせて、音楽の小広間へ向かいます。

「初日はそれぞれ好きな曲を弾いて良いそうですよ」

昨年お兄様から聞いた情報です。フェシュピールの苦手なお兄様でもすぐに合格できたそうですから、わたくし達も合格は簡単そうです。



「今日は一人一人の実力を見たいので、ご自分の得意な曲を一曲ずつ披露してください」


先生の言葉に従い、領地の順番で皆が一曲ずつ弾いていきます。隣にいたお姉様が呆然としているのが気にかかりますわ。

「お姉様、どうかなさいまして?」
「フェルディナンド様と義父様とわたくしの楽士が並外れて別格だったのだと、初めて気付きましたわ・・・」
「まぁ」

叔父様は何となく分かりますけど、お父様も?そういえばフェシュピールの演奏を聞いたことはありませんね。お姉様がそこまで言うなんて、とても興味が惹かれますわ。帰ったらお父様に演奏をお願いしてみましょう。

エーレンフェストの番がきて、上級貴族から弾いていきます。

「お姉様、お先にどうぞ」
「あら、ありがとう存じます」

お姉様に先を譲って演奏をゆっくり聞かせていただこうと思ったのが間違いでした。上位領地の演奏に比べ、お姉様の技術は別格です・・・!

先程お姉様が別格と名を挙げたうちの二人は、いつもお姉様にフェシュピールの指導をされている方々。それを考えれば、要求される技術も当然高いものとなったのでしょう。そこに思い至らなかったわたくしが迂闊でした。

わたくしはこの後に弾くのですか・・・明らかに劣る音を響かせるなんて恥ずかしいですわ。どうしましょう・・・。


「ローゼマイン様、素晴らしい演奏でしたわ。わたくし、貴族院で音楽教師となって二十年近くになりますがこの曲を聞いたのは初めてです。一体何という曲ですか?」
「ライデンシャフトに捧げる夏の歌……それ以上の名はございません」

今の曲はお姉様が作曲し、叔父様が編曲したもののはず。購入した楽譜に載っていたものですから、わたくしも練習しました。
お姉様は作曲されることを内密にしておきたいのでしょうか?それなら余計な発言は慎んでおきましょうね。

その後のわたくしの演奏は、無難なものであったと報告させていただきます。

- 54 -