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晩餐会の翌日、私はフロレンツィア様の護衛任務についていた。
粛清で領主夫妻の側近が減ったため、貴族院の期間中はヴィルフリート様とシャルロッテ様の護衛騎士が貸出されているのだ。両親の安全と側近の負担を心配したシャルロッテ様が提案し、ヴィルフリート様も賛同したことで実現した。
フロレンツィア様の護衛をして知ったが、領主夫人は毎日大変お忙しい。冬の社交界の間は特にらしいが、執務、面会、お茶会、社交に関する打ち合わせ、貴族院からの報告書の対策会議、今は領地対抗戦の準備もあるようだ。合間に末姫様の元に向かわれるが、ゆっくり親子の時間が取れているとは思えない。一般の貴族女性は子育て中は仕事を止めているが、領主の第一夫人は止める訳にいかないのだ。自分やアウレーリアと比較して、領主一族の責任の重さに改めて気づいた。
夕食の時間は、領主夫妻とメルヒオール様の3人だ。メルヒオール様は神殿長として奉納式をやり遂げたことが嬉しいようで、神殿での様子を楽しそうに話している。神殿で教育してくれたローゼマインを随分尊敬しているようだ。兄として嬉しく思う。
領主一族の仲は今のところ悪くない。このままでいて欲しいと思うが、半年後の領主会議ではブリュンヒルデ様が第二夫人となり、翌年にはヴィルフリート様がギーベとなる。今のままではいられないだろう。その時、自分はどうしているか。答えを出さなければならない。
「ランプレヒト、フロレンツィア様はこれから末姫様の元に向かわれる。其方らは子供部屋の見回りを頼む。終わったら夕食を取って待機していてくれ。」
「了解しました。」
夕食後、ようやくフロレンツィア様は末姫様との時間が取れたようだ。
幼い末姫様の部屋は警戒が厳重だ。部屋に繋がる通路の扉には常に鍵が掛けられている。フロレンツィア様が通路の向こうに消えると、再び鍵が掛けられ、護衛騎士が前に立った。
私は、筆頭護衛騎士の指示に従い、もう一人の同僚と共に子供部屋に向かった。この場合の子供部屋とは、昼間に子供達が集められる部屋ではなく、親を粛清された旧ヴェローニカ派の子供が生活している場所の事だ。旧ヴェローニカ派に恨みを持っている貴族は少なくない。罪のない子供達に危害を加えるとは思いたくないが、警戒は必要だ。
「フロレンツィア様のご命令で見回りをしている。全員いるか?変わったことは無いか?」
一つ目の部屋を訪問すると、子供達がわらわらと出迎えてくれた。
「ランプレヒト様、見回り有難うございます。」
「今日は、カルタで勝ってお菓子を貰ったのです。」
「私はトランプで3回も勝ったのですよ。」
無邪気な様子で話しかけてくる。元気そうで何よりだ。
「そうか、良かったな。不審な者を見たり、部屋に知らない魔術具が増えたりしていないか?」
「はい、大丈夫です。」
話しかけて来た小さい子供の頭を撫でてやり、他の子供達の様子に変わりがないか見回す。
秋まで神殿で暮らしていた子供達も、城での暮らしにすっかり慣れたようだ。春になると、メルヒオール様と共に神殿に戻るのだろう。ローゼマインが始めたことだが、今後は領主の子が貴族を連れて神殿と城を行き来するのが当たり前になるのかも知れない。
全ての部屋の安全を確認すると、この後はフロレンツィア様の側近控室で夕食だ。
「ランプレヒトは子供に人気があるのだな。接し方も上手い。旧ヴェローニカ派の子供達なのに、親しいのだな。」
今回、一緒にフロレンツィア様の護衛をしている同僚は、キルンベルガ出身の中級貴族だ。アドリアンという名で、ヴィルフリート様が貴族院に入学する前に側近になった。私とは一緒に行動することが多い。
「子供には慣れてるんだよ。弟と妹がいるし、今は息子もいるからな。あの部屋には異母弟のニコラウスが居たから、時々様子を見に行っていたんだ。今は貴族院に行っているが。」
子供への接し方が上手いとすれば、弟妹と息子がいるためというより、ヴェローニカ様の監視の元でヴィルフリート様と接していたからだろう。幼い頃のヴィルフリート様に比べれば大抵の子供は行儀が良いし、扱いも楽だ。だが側近同士とはいえ、口に出すのは憚られた。
「ああ、ローゼマイン様に仕えたがっていた君の異母弟か。」
私は顔をしかめた。
「覚えていたのか。」
同僚は、ニコラウスがローゼマインに仕えたがっていた事と、私やコルネリウスがヴィルフリート様の側近にしようとしたことを覚えていたようだ。
丁度、フロレンツィア様の側近控室に着いた。側仕えが夕食の準備を始めてくれる。
同僚は頷いた。
「粛清の後、其方が異母弟を側近に推薦した事と、旧ヴェローニカ派の子供達の保護をヴィルフリート様に進言したことは知ってる。例によって古参の側近達に潰された事もな。その場に居なかったから、詳細は知らないぞ。実際の所、何があったのだ?」
私は溜息を付いた。ニコラウスの処遇を切っ掛けにした件は、苦い思い出だ。ヴィルフリート様の支持者を少しでも増やそうとしたのだが、上手く行かなかったのだ。
「ニコラウスの母親、トルデリーデは元ヴェローニカ様の側仕えで、ローゼマインの事も随分悪く言っていた。その子のニコラウスをローゼマインに近づける訳に行かなかった。だがニコラウスを家に引き取れない事を知ったローゼマインは、親が引き取れない他の子供達も一緒に孤児院に移動させたいと言い出したのだ。」
ローゼマインの慈悲深さは知っているが、抱え込みすぎだと思った。何より兄上の妻が毒殺された影には、トルデリーデがいた可能性が高いのだ。ニコラウスがローゼマインの側近になれば、服役を終えたトルデリーデが何をするか分からない。妹をそんな危険に晒す訳にいかなかった。