鍵を開けて玄関に入り、靴を脱いだところで視線を感じた。

 誰も住んでいないはずの邸は、よく見れば誰かが使っている痕跡が残っている。


――どういう事だ?


 この邸の鍵を貸してくれた少年の話では、最近まで住んでいた邸の住人は親戚の住んでいるロスへ向かったとの事。今は誰も住んでいないという話を聞き、住む事を決めた。しかし、誰もいないはずの邸に人がいるのなら、少年が把握しきれていない人物が住んでいる事になる。

 そう思って十分に警戒しながら邸の中を観察していれば、小さな物音が一瞬だけ響いた。

 物音がした部屋の扉を見つめた後、足音をたてないように近づき、慎重に開く。少しだけ開けた扉の隙間から部屋の中を覗き見れば、そこがダイニングキッチンだと分かった。


――……いるな。


 警戒しながら扉を開け、万が一に備えて懐に隠してある鉄の塊を握った。

 いつでも戦える姿勢のまま、ダイニングへ入る。一通り辺りを見回したものの、視界に入る人物はいない。

 警戒を解かずに奥へ進むと、こちらから死角になる位置に誰かが倒れているのを見つけた。ゆっくりと歩きながら近寄れば、そこには意識のない女性が倒れている。無言で観察していれば、静かな呼吸音。


――意識はなさそうだが……


 あどけない寝顔に、自分よりも華奢な身体。握っていたそれから手を離し、女性を静かに抱き起せば、体格に見合わぬ軽さに驚いた。

 抱き上げても起きない彼女を見つめながら、思考する。しかし、現状では憶測ばかりで決定打はない。

 唯一、この事を説明してくれるはずの彼女は夢の中。横抱きにして抱き上げるも、目は開かない。


――連絡の行き違いか、俺をハメたのか……


 眠る彼女以外に現状を動かせそうなのは、この邸に住む事を提案した少年のみ。

 彼の鋭い観察眼と洞察力を持ち合わせた推理は、まるで未来予知にも近い。実際、黒いハイエナ達の目を潜り抜けたその力は、子どもとは思えないほどである。

 しかし、その一方で少々抜けているところもあるらしい。年相応な慌てぶりを見せてくれた時には、彼にもまだまだ青い部分が残っているのかと思わせた。

 どちらの側面も知っている。だからこそ、判断がつかない。


「いずれにせよ、あのボウヤには一度、確認を取った方がよさそうだな」


 小さく呟いた後で意識のない女性を抱いたまま、ダイニングを後にした。

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