それから三十分ほど経つと、慌ただしく玄関が開いた。

 皐が紅茶を、昴がコーヒーを飲みながら、玄関の方向を見ると同時に勢いよくダイニングの扉が開く。急いで走って来たのか、そこに現れたコナンの呼吸は荒い。


「皐さん。いたの!?」


 皐が声をかけるよりも早く、コナンが叫ぶように皐の名を呼ぶ。


「うん、いたよ」

「じゃ、じゃあ、有希子おばさんと一緒に、ロスに行くかもしれないって話は……?」

「それは断ったの。持病を持っているとは言え、いつまでもあの二人に頼るのもどうかと思って……」

「そ、そうなんだ……」


 誤魔化すような笑いをするコナンを、皐は柔らかく笑いながら観察すると、コナンが分かりやすいほどに焦っている。


「実はね、コナンくんに聞きたい事があったんだけど、いいかな?」

「なあに? 皐さん」

「この家に来た理由は、沖矢さん本人から聞いたんだけど……あの後、新一くんから何か連絡は来たの?」


 皐の問いに、焦っていたコナンは沈黙した。何かを真剣に考えている様子である。

 それは、コナンを見つめている皐と沖矢にも分かった。


 迷っている。


 しかし、決意を固めたように、コナンは真剣な目を皐に向けた。


「……うん、メールが来たよ。そうしたら、新一兄ちゃん……この家に住んでもいいって、言ってたよ」


 コナンの答えを聞き、皐は下を向く。それは一瞬の事で、すぐに顔を上げると優しく微笑んだ。


「それだけ聞きたかったの。わざわざ来てくれて、ありがとう。コナンくんは? 私に、何か聞きたい事はある?」


 皐の笑顔を見て、コナンは表情を曇らせる。


「ううん、大丈夫。僕の方こそゴメンなさい。なんか、勘違いしちゃったみたいで……」


 疲れたように笑うコナンを見た後、皐はずっと黙っていた沖矢の方に顔を向けた。


「沖矢さん」

「……はい」

「貴方がよろしければ、新しい住居が見つかるまでの間、この家にいてください」

「いいんですか?」

「ええ。ここの家主は新一くんですので、彼が構わないと言う以上、私からの反対はありません」

「……ですが……妙齢の女性と、住まいを共にするのは……」


 皐の言葉に、何かをためらう様な表情をする沖矢。


「ああ。それならきっと、二日か三日ほどで終わりますので、ご心配には及びません」


 一瞬だけ沖矢に見せた皐の笑顔は、酷く泣きそうな表情だった。


「さぁっ、コナンくんもそろそろお家に帰らないと、蘭ちゃんが心配するよ?」


 この話はおしまい。とばかりに、皐は立ち上がってコナンの方に近づく。

 声色は明るく、その表情も明るい。


「はあい」

「良かったら、送っていくかい?」

「大丈夫! まだ暗くないし、ここからなら、日が沈む前に帰れるから!」


 元気に返事をしたコナンに、沖矢が送る事を提案するが、断られてしまう。


「じゃあね、皐さん。沖矢さん」

「ああ、また……」

「気をつけてね」


 大きく手を振りながら帰っていくコナンに、皐と沖矢は笑顔を返した。


動き始めた歯車
(その先に待つ未来とは)

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