しばらくの沈黙。


『……皐』


 その後、義兄は言葉をくれた。


『過去に選択を間違えたとしても、その全てを間違えたわけではないんだろう?』

「……そう、だけど……」

『残された選択肢は、留まる事。なら簡単じゃないか、皐は今の生活を続ければいい』


 いつでも欲しい言葉をくれる義兄。だからこそ、不安になった。


「でも、沖矢さんに……迷惑になるから……」

『ふむ……』


 皐が何気なく言ったそれに、優作は何か引っかかりを覚えたのか、少しの間、考え込む。


『……彼は、その家にいなければいけないのかい?』


 鋭い着眼点に、皐は息を呑んだ。


「…………それは……その……ごめん。よく、分からなくて……」


 どういえばいいのか分からず、皐は濁すように言った。


『言い辛いのであれば、無理をする事はないさ。それから? まだ気がかりな事はあるんだろう?』

「……」


 優作の問いに対して、皐は沈黙した。


 言っていいのだろうか。


 きっと、言ってしまえば後悔するような気がして、皐は口ごもる。


『……皐。言ってごらん』


 しかし、優作が一声かけた事により、不思議と勇気をもらったからか、皐は重たい口を開く。


「……新一くん、に……何て言おうかなって……」


 か細く、小さな声が、途切れ途切れに言葉を発する。


『新一には私から言っておこう。アイツについて、皐が心配するような事は何もないよ』

「でも、私……」

『アイツにはアイツの考えがあるように、皐にも皐の考えがある。アイツも好きにやっているんだ。君にもやりたいようにする権利はあるさ』


 後押しするかのように言ってくれる優作に、皐は新一に対し、罪悪感を抱き始めた。

 優作は新一に対し、少し手厳しい部分がある。今更ながら、この事を優作に言ってよかったのかと思い始めてしまう。


「…………ゴメン、兄さん。やっぱり今の……」

『皐』


――聞かなかった事にして。


 そう言おうと思った皐の台詞は、優作によって切られてしまう。


『私は、君に頼られる事が嬉しいよ』

「……っ」

『新一や有希子の我儘に比べれば、君のコレは我儘でも何でもない。当然の主張だ』


――違うかい?


 暖かい言葉に、涙が止まらない。


『君がどこに住もうと、それは自由だろう。そこに制限をかけたのは、むしろ私の方だ。あの時、一人でも平気だと言う皐の言葉を信じてやれなかった。今更だが、申し訳ない』

「違う、優兄は悪くないよ。私がもっと、しっかりしてればよかったの。優兄達が心配するのは当然だもの……」


 新一がコナンになる以前。優作と有希子が拠点をロサンゼルスに移すと言った時。

 実は一度、工藤邸を離れて一人暮らしをしたいと、優作に相談を持ちかけた事があった。原作には登場していなかったのであれば、物語が終わるまで距離を取ればいいと考えたからである。

 優作は悩みながらも承諾を出そうとしていたのだが、それを知った有希子と新一に猛反対を受けたのだ。二人に悪夢や原作の事を省いて話をしてみたが、それで納得させる事など出来ず、むしろ、持病で倒れたらどうするのかと言われ、逆に納得させられた。

 結局、新一が日本に残るので、ここで一緒に暮らすという事で、その相談はなくなってしまった。


『とにかく皐、後の事は私がなんとかしよう。だから、この事について君が悩むのは、コレで終わりだ』

「……うん。ありがとう、優兄」


 いつでも頼もしい義兄は、いつでも優しくて。皐は心が軽くなったような気分になった。

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