思えば、義兄はいつも傍にいてくれた。皐が精神的に何度も追い込まれるたび、言わずとも察してくれる義兄。


 言いたくても言えない。


 その気持ちを汲み取り、理由を追及せず、話を聞いて助言をしてくれる唯一の人。

 優作に話をするたび、この人が義兄で良かった。この人と拾ってくれた両親がいてくれたから、自分はここまで生きてこれたと何度も思った。

 きっと、世間で言われている兄に対する妹の目で、皐は優作の事を見ていない。それこそ、有希子という運命の人がいなければ、どうなっていたか分からないほどに。


『そう言えば、昨日は有希子の話を聞いてくれたそうだね』

「うん。あの後は、大丈夫だった?」


 ただ、皐は有希子と共にいる優作が好きだった。彼女と共にいて、彼女だけに向ける優作の笑顔が好きだった。


『ああ。機嫌がいいとまではいかなかったが、事はそんなに荒立たなかったよ』

「なら、良かった」


 その事に優作が気づいているのかは分からない――きっと気がついているのだろうと思うが、その笑顔を見続けるために、力になろうと思うのだ。


『ありがとう。皐』

「ううん。私だって、優兄に助けられてるから……役に立ててよかった」

『ああ、それから……そっちの電話は、かなり古かったかな?』


 話題が変わり、優作に尋ねられた皐は、首を傾げる。


「そんな事はないよ? この電話、買い換えたのは二年くらい前だから……どうしたの?」

『いや、いつもよりノイズがあるなと思ったんだが……』

「気のせいじゃなくて?」


 皐の問いかけに対し、優作は少しの間、考えるように沈黙した。


『……そうだな、そうかもしれん。後……』

「どうしたの?」


 優作が何かを言おうとしていたのだが、不意に言葉が切れた。皐は不思議に思って尋ねたが、優作は黙ったままである。


『……いや、すまない。何を言おうとしたのか忘れてしまったようだ』

「そうなの? 優兄が物忘れって、珍しいね」

『流石の私も、寄る年波には勝てないのでね』

「優兄が言うと、嫌味にしか聞こえないよ」

『おいおい。私にもそういう時はあるんだぞ?』

「それは失礼いたしました、お兄様」


 冗談を言い合った二人は、そのままクスクスと笑い始めた。


『それじゃあ、また何かあったら連絡する事。分かったかな?』

「うん。ありがとう」


 そして、皐は別れの挨拶をして電話を切った。

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