一瞬、思考が飛んだ。


『何を驚く? 元はと言えば、お前がそうなるように仕向けたんだろう?』

『いや、まぁ、そうだけどよ……』


 確かに、沖矢に工藤邸を進めたのはコナンだ。そこは認める。

 しかし、それは皐を出て行くように仕向ける策で、皐自身もあの時、コナンの思惑を汲み取ってくれた。そうでなければ、あんな風に深刻な表情をするとは思えない。

 後一押し。それこそ有希子の一押しでもあれば、折れてロスに向かってくれるだろうと計画したはずだった。


『って、ちょっと待て、母さんは許したのかよ!?』

『有希子は既に私が説得させたよ。週一で必ず顔を合わせられるように手配もしたからな』


 ただし今、電話越しで会話をしている父親の妨害がなければの話である。


――普段は母さんに振り回されてるくせに、皐さんの事になると目の色が変わるんだよな……クッソ! 油断した!!


 惚れた弱みと言うわけではないが、基本的に優作は有希子に弱い。推理や謎解きは別だが、結構な愛妻家である事は間違いないのだ。

 しかし、これに義妹の皐が絡んでくると事態は一変。兄としての使命感が出てくるのか、途端に強くなる。

 実のところ、皐が今も工藤邸で生活出来ているのは、この男が無駄に良い頭を使って有希子とコナンを丸め込んでいるからに他ならない。


『手配って……父さん、アンタ分かってんのか!?』


 だが、今回に限って言えば「はい、そうですか」と言うわけにはいかなかった。


『二人が一緒に住むって事は、皐さんの体質があの人にバレる可能性があるって事を!!』 


 沖矢は信用出来る人物だ。彼の正体を知るコナンから見れば、彼以上に頼れる人間は、恐らく父である優作しか思い当たらない。

 しかし、だからと言って全てを知らせるわけにもいかない。コナン自身の正体もそうだが、皐にも睡眠障害とは別に特殊な体質がある。

 おおよそ、現在の人類の力。その全てを結集させても、解明不可能な体質。

 昔から交流のある蘭や園子、秘密の大部分を共有している灰原、近所付き合いの長い阿笠、そして、その体質を持つ皐本人も知らない彼女の特異体質。


『いくら、あの人が信用できるとは言え、流石に……』


 今まで皆にバレなかったのは、その体質には一定の周期が存在するからだ。コナン達は、それに合わせて皆を違和感なく皐から遠ざけていたので、今まで誰も気づかなかった。

 だが、一緒に暮らすとなると、いつかは隠し通せなくなる。それどころか、もう気づかれている可能性も大いにあり得るのだ。


『バレたらバレたで、その時はその時だ。皐があの家に残りたいと言っている以上、無理強いをするわけにもいかん』

『残りたいって……このままあの家に残れば、いざって時に狙われるかもしれねぇんだぞ!?』


 早々に沖矢の正体がバレるとは思えないが、仮に彼が窮地に立たされたとしたら、真っ先に狙われるのは共に暮らしている皐だ。最悪、彼女が人質に取られる可能性もゼロではない。


 それでもしも、組織の目に止まってしまったら。

 それでもしも、組織に皐の特異体質を知られてしまったら。


――殺されるじゃすまねぇ。最悪、人体実験だなんて洒落にならねぇ展開にだってなる可能性はある。


 それを知っていながら、それでもまだ、皐をあの家に置いておこうと考えるのだろうか。

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