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一通り笑い合って、改めて彼女を見つめる皐。桜が舞う中、長い黒髪を揺らして笑顔を見せる美しい彼女。
いつだって明るく、いつだって眩しい存在。
人付き合いが苦手な皐が唯一、親友とも呼べる存在の彼女。
いつまでも、いつまでも、その笑う姿を見ていたい。
そう思う皐の願いを聞き届けるように、目の前の彼女はクスクスと笑い続ける。
ずっと――
ずっと――
ずっと――
ずっと――
――笑い続ける。
それが、いかに不自然か皐は知っていた。
笑い続ける彼女も、それを愛おしそうに、けれど悲しそうに見つめ続ける自分も。
一歩間違えれば、狂気にも近い、この光景を――
「…………知ってる」
ずっと彼女の笑う姿を見ていたい。
そうは思うが、物事には必ず終わりがやってくる。
今日のタイムリミットはここまで。
紡がれた皐の台詞は、果たしてダレの意思だったのか。
「でも、そうですね……もし、私が本当に綺麗になったとしたら……」
愛らしく笑う彼女に、少しずつ変化が訪れる。
「きっと、先輩のおかげですよ」
そうやって笑う彼女は、口端から緋色の鮮血を流し始めた。そして、見る間に腹部も艶やかな赤に染まり、崩れるように倒れてしまう。
いつの間にか桜が舞う大学の中庭は消え、空には月が浮かび、辺りは暗闇に呑まれた。どこからか生まれた炎が辺りを包み、それらは瞬く間に燃え広がる。
気づけば皐自身の姿も、袴から私服に変わっていた。場所も見慣れた洋館の一室に変わり、自分の近くには大きなキャリーバックが立っている。
そして皐の周りを囲むように、倒れている数多の人々。一人一人に視線を向ければ、その誰もが見覚えのある者達。そんな彼らは皆、動かない。
再び彼女が立っていた場所に目を向ければ、そこには美しい銀が揺れていた。全身を黒で包んでいるからか、銀色の美しさが際立っている。
「生き残りがまだいたのか」
陽だまりのような黒髪の彼女とは正反対の美しさを持つ銀髪の彼。
凍てつく影のように妖しげな笑み。
合わさった無慈悲な視線は、何度見ても背筋が凍る。
「まぁ、いい。テメェで最後だ」
無機質な音をたてて、向けられる黒。
一瞬で命を刈り取れるそれは、何度も見たモノ。だからと言って、向けられる事に慣れたわけではない。
今も皐は静かに見つめてはいるが、それはきっと恐怖で身体が凍りつき、身動きできないだけだ。
――今日もまた、貴方に殺されるのね。
業火の中で、皆の屍を眺めながら、銀の彼に殺される。
苦しい――
悲しい――
情けない――
様々な感情が渦を巻き、皐の内側で暴れている。いつしかそれは雫となって、皐の瞳から流れ落ちた。
「泣く事はねぇ。先に逝った知り合いとまた会えると思えば、こんなにも幸せな事はねぇだろうよ」
笑う彼の鋭利な言葉が、皐の胸を痛めつける。
苦しみに耐えられなくなってきた皐は、彼から視線を外そうとした。
しかし、ぼんやりとした視界の中。銀髪の彼が立っている足元を見た瞬間。
自身の身体が崩れてしまいそうになった。
倒れているのは小さな子ども。
ヒビの入った眼鏡をかけ、その身を赤く色づかせ、ぐったりと倒れている子どもは動かない。
聞きたくない。
見たくない。
こんな事が、あっていいはずがない。
恐怖に怯えた身体は、悲鳴をあげる事さえできない。
目の前に広がる悪夢。
その光景の全てを拒絶するように、皐は静かに目を閉じた。
そして――
暗闇の中、悪夢の終止符を告げる銃声が響いた。
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