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恋ってなあに?

愛になる日を夢みてる



一番後ろの席でよかった。
ここなら万里に見られない。
そっと彼の後ろ姿を見ながら月穂は思う。
あれから約一年。
おじい様からお父様に代替わりし、お兄様も次期宗家としてより一層厳しい練習を重ねるようになった。
私も少しでも役に立てるように実家に近い所に引っ越し、お弟子さん達やお兄様と一緒に練習を重ねた。
それに、今は受験に向けて頑張っている最中。
月穂は用意した教科書とノートを机に広げて、カチカチとシャーペンを鳴らす。
ふと窓の外を見れば、寒い季節特有の綺麗な青空が広がっていた。



外の世界に飛び出してみれば面白かった。
日本舞踊しか興味のなかった月穂だったが、視界を広げてみれば世の中が一気に明るくなった。
学校にはただ勉強をしに行っているだけだったが、少し放課後に残ってみればあっという間に話し相手ができた。
友達、と呼べるような人も少しはできた。
転校してきたこの学校でも、友達と呼べる人はできた。
もともと仲のいいクラスらしく、初日からたくさんの人が話しかけてくれた。
戸惑う暇もなく、初めに学校を案内してくれた真や雛姫とたくさん話すようになった。
剣道道場の娘で凛としていて気高く美しい相模真。
ふわっふわの雰囲気で可愛いのにホラーやオカルトが大好きな一ノ瀬雛姫。
彼女達は天野平と言う男の子が好きらしい。
『へー』と呼ばれるその人は、万里の親友。
必然的に話すようになった彼の情報によると、万里は夜遊びを止めたらしい。
現実に対して斜に構えることもしなくなり、毎日を楽しんで過ごしているとか。
確かにクラスメイトとして話すようになった万里からは、あの時はあった厭世観は感じられなかった。
よかったと思う。
これでよかったんだ、と。



学校帰りに実家に寄り、練習を積む。
その帰りにスーパーに寄って夕飯の買い出し。
借りている部屋に戻って夕飯、お風呂、予習復習、受験勉強。
やることはたくさんある。
立ち止まっている暇はない。
重い荷物をよいしょと持ち直し、家に向かう。
クラリと頭が揺れたのは気のせいだろう。
…だけど足が進まない。
目の前が真っ白になる。

ヤバっ…

思わず座り込んだ月穂の背中に聞き慣れた声が大きく響いた。

「月穂っ!?」
「…万里?」
「安部っ!?大丈夫?」
「えっと…天野君も一緒?ごめんね、ちょっと目が見えなくて…」

声のする方にゆっくりと顔を向けたが、目の前は真っ暗でまた俯いてしまう。

「どうしたの?」
「たぶん貧血だと…。少ししたら治ると思うから放っておいて?」
「そんなことできるかよ!こっから近いし、万里んちで少し休んだら?」
「…でも…」
「そうしなよ。オレんち、誰もいないから大丈夫だよ。」
「…ん、ごめんね…」

月穂が答えると万里は直ぐに彼女を抱き上げた。
平に月穂の荷物をもたせると、さっさと歩き出す。
視覚が使えない今、他の感覚が鋭くなっているのが分かる。

万里、背が伸びたんだね。
歩くスピードも速くなった。
そんな軽いはずないのに、私のこと持ち上げられちゃうんだ。
私も少しは成長したんだよ?
踊りだって少しは上達したんだよ?

それでも…
それでも心にできた隙間を埋めることはできなかった。
私は万里を家族の代わりにすることで、一人暮らしの寂しさを埋めていた。
だけど、万里の代わりは…誰もできない。
あの時抱えた疑問はまだ晴らされてはいないけど…
答えはきっと間違っていない。
あれは…あの時抱いた想いは恋なのだろう。
叶わないのは分かっているわ。
でも…想うだけなら構わないでしょう?

ねえ、万里…
今更かもしれないけど、大好きよ。
この想いを大切にしたいの。
この想いがあなたに通じて、あなたも私のことを好いてくれて。
愛になる日を夢みてる…


2013.05.01. UP




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夢幻泡沫