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これを恋と呼ばずなんと呼ぶ

04



乾杯の声と共に始まった飲み会は、年の近い者同士が集まったせいもあって初めから和気藹々としていた。
藤真もそんな中で賑やかに酒を飲んでいたが、少し離れたところに座った直子が気になって仕方ない。
ちらりちらりと様子を窺うように視線を送っていたら、直子と一緒に飲んでいた円香が手招きをした。

彼女は勘違いをしている。
まだ確定していないこの気持ちを変に誇張されているような気がして面白くない。

溜息が出てきたが、口は自然と弧を描いている。
藤真は飲んでいたグラスを片手に彼女達の席に向かった。

「お邪魔します。隣、いいっすか?」
「藤真君…どうぞ?」
「え、疑問形なんですか?俺、ホントに邪魔だった?」
「あっ、うぅん!そんなことないですよ。どうぞ。」
「よかった。お邪魔します。」

慌てて少し空間を広げた彼女に軽く頭を下げながら隣に座る。
相変わらず直子が藤真には直接話しかけることは少なかったが、円香を核に話は盛り上がった。
そして何かのきっかけで話が高校時代に移った時、藤真は驚きに目を丸くした。

「え?雪峰さんって湘南に住んでたんですか?」
「そうですけど…藤真君は?」
「湘南寄りです。因みに学校はどこだったんですか?」
「海南大付属ですよ。」
「うおっ、マジですか?俺、翔陽です!」

因縁とも言えるライバル校の名前に、藤真のテンションが上がる。
意外な食いつき方に女性陣は顔を見合わせた。

「翔陽…?ああ、確かバスケが強いところよね?藤真君は何部だったの?」
「バスケです。」

円香が思い出すように尋ねると藤真は楽しそうに答えた。
あの濃い3年間が思い出される。
試合の結果に一喜一憂して。
いろんなところと練習試合をして。
練習のメニューを考えるのも、後輩が育っていくのを見るのも面白かった。
そんな中で一番付き合いがあったのは、やはり互いに全国常連校の海南だった。

「へえ〜、レギュラーだったの?」
「はい。」
「すごいね〜。…そう言えば直子、うちのバスケ部の後輩と仲良くなかった?」
「バスケ部の後輩…?ああ、牧君ね。」
「そうそう。あの、妙にしっかりとした子。」
「今でもたまに会っているよ。」
「へ〜、そうなんだ。直子、なつかれてたもんね。」

懐かしそうに目を細める2人を余所に、藤真の目がさらに大きくなった。
牧紳一と言えば、現役時代に『帝王』と呼ばれていた常勝軍団の主将。
同学年でポジションも一緒で、いわゆるライバルと呼ばれる相手。
その名前が意識している女性の口から出てくれば、驚くなと言う方が無理だろう。

「牧!?海南の牧ですか?」
「ええ、牧君。知り合い…?」
「知り合いと言うか、何と言うか…てことは、雪峰さんもバスケ部だったんですか?マネージャーとか?」
「うぅん、違うけど…」
「え?じゃあ何で牧と仲がいいんですか?」
「委員会が一緒だったんです。でも、どうしてそんなことを聞くの?」
「あ、いやっ…」

不思議そうに首を傾げる直子に藤真は焦る。

「いやっ、そのっ…雪峰さんの口から牧の名前が出てきたことにビックリして。そんな繋がりがあるとは思ってなかったから。」
「牧君ね〜、うちの学校もバスケ強かったよね。藤真君は対戦したことあるの?」
「ありますよ。」
「どっちが勝ったの?」
「…海南です。」

…と言うか、最後の年のインターハイは4強にすら残れなかった。
面白くない。
昔の苦い思い出を雪峰さんの前で言いたくなかったぜ…

少しの間を置いて憮然と答えた藤真に、直子達は吹き出す。

「あはは!そんなに顔を顰めなくてもいいじゃない。藤真君、可愛いところもあるのね。」
「ホント!初めて藤真君が年下だって思えたよ。」

円香が言えば直子もクスクスと笑いながら賛同する。

「なっ!?可愛いってなんですか!?そんなこと言われても嬉しくないっすよ!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、藤真君の意外な一面を見ることができたなぁ。ね、円香?」
「うん!あ、このこと牧君に報告したら?」
「そうね。今度また会うことになっているから言ってみようかしら?」
「ちょっ!?マジで勘弁して下さい!」

嫌がる藤真の態度に直子達はまた屈託のない笑い声を零す。
初めて間近で見る直子のあどけない笑顔に、藤真の心臓がドクンと鳴った。


2014.03.13. UP




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夢幻泡沫