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これを恋と呼ばずなんと呼ぶ

06



偶然なんて信じていない。
そんな都合のいいことなんか自分の身に起こるはずがない。
世間からは反論が出そうだが、俺はいつだって努力しているのだから。
…それならこれは?
この状況は何だって言うんだ?
前の席には気になっている存在の直子。
隣の席にはかつてライバルだった牧。

「カンパイ。」

牧の言葉に反射的にグラスを前に出す。
3つのグラスがカチンと鳴れば、牧も直子も美味しそうにアルコールを口に入れた。

「それにしても偶然だな、藤真。」
「ホントそうね。駅前でバッタリ、なんて驚きだわ。」

…だから、偶然なんか信じてないんだって。

「久々だが変わってないな。」
「そうなの?藤真君ってずっとこんな感じなの?」
「そうですよ。同級だとは思えない程いつも自信満々で。」

おい、勝手に俺の過去を喋るな。

「ふふっ、ちょっと分かるかも。でも、藤真君って優しいのよ?」
「優しい?コイツが?」
「そうなの。仕事とか雑用とかよく手伝ってくれて。」
「へえ?」
「私が仕事遅いから迷惑かけっぱなし。」

そんなことないですよ。
手伝っているのは雪峰さんだからであって、他のヤツは手伝いません。
むしろ主任に押しつけます!

「威張ってるってことでしょう?」
「違う違う、本当に助けてもらっているの。」

…雪峰さんってば嬉しいこと言ってくれて。

「まあ、直子先輩は放っとけないですからね。」
「ちょ…どういう意味!?」
「そのままですよ。藤真も相変わらずみたいだしな。」
「…勝手に結論付けんなよ。」

直子と牧のポンポンと弾む会話に1人取り残されていた藤真だったが、自分の名前が出てきたことで漸く口を挟めた。

「牧こそ全然変わってねえぞ。お前、高校の頃から出来あがってたからな。」
「放っておけ。」

仕返しとばかりに本人が気にしている外見のことを茶化すと、牧は眉を顰めて溜息をついた。

「コイツ、高校の頃からこうなんですよ。思ったことズバズバ投げつけてきて。」
「そんなことねぇだろ?俺がどんだけ周りに気を遣ってたと思うんだ?」
「それはいつの話だ?花形が散々愚痴ってたぞ、ワンマンだって。」
「あのヤロウ…」

2人で話すと高校の頃を思い出すかのように止まらなくなった彼らを直子はニコニコと笑いながら見ていた。

「…っと、すみません。元々雪峰さんと牧が会う約束だったのに、邪魔するような形になって。」
「そんなことないですよ。昔の話が聞けて楽しいですし。」
「それならいいんですけど。」
「藤真…お前、敬語なんて使えたんだな。」
「はあ!?バカにすんなよ!?体育会系なめんな!敬語ぐらいちゃんと使えるぜ!!」
「いや、記憶にないぞ?…お前、いまバスケは?」
「大学で終わりだ。今はたまにボールに触るぐらいだな。そう言う牧は?」
「俺は社会人チームに入っている。と言っても同好会程度のものだ。勿体ないな、お前ほどのヤツが止めちまうなんて。」
「まあな。牧こそ実業団には入んなかったのかよ?」
「ああ、何社か来てはいたんだがな。」
「俺もだ。」

それぞれどの会社とも折り合いがつかず、結局2人の選手としての道は大学卒業と同時に終わったのだ。
互いの顔を見て苦笑する藤真達に、直子が穏やかに問いかけた。

「ねえ、牧君。藤真君ってそんなにバスケ上手なの?」
「神奈川No.2の元主将兼監督ですからね、コイツ。」
「えっ!?ホント!?」
「直子先輩も見てるはずですよ、コイツのプレイしてる姿。」
「…いつ?」
「最後は俺が高3の時の国体かな。一緒に神奈川代表で出てましたよ。」
「え〜…思い出せないなぁ。」

宙を見上げながら記憶を掘り起こしていた直子だったが、うまくいかなかったらしい。



覚えてもらっていなかったことを悔しく思う辺り。
不満げに口を尖らす彼女を見て可愛いと思う辺り。
この気持ちはもう間違いないのだろう。
自覚してしまえばあとは転げ落ちるだけだ。
藤真はグッとグラスを握りしめると、一気に中身を飲み干した。


2014.04.17. UP




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夢幻泡沫