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これを恋と呼ばずなんと呼ぶ

07



おかしい。
だって自分は年上好みのはず。
年下の男の子なんて恋愛対象になんてならない。
実年齢も精神年齢も低いし、そのくせプライドは高いし、私が年上だからって甘えてくるし、そうかと思えば逆に頼れなんて言ってくるし。
面倒くさいったら!
それなのに…それなのに、何で藤真君を意識しているの?
何で彼の言葉や行動にドキドキするの?
コレは何?
…知っているけど、認めたくない。



「雪峰さん、映画の試写会が当たったんです。一緒に行きませんか?」
「…試写会?」
「そう、この間『気になる』って言ってましたよね?どうです?」
「あ、ホントだ。」

他の人とずれて取れた休憩時間に、藤真はカバンから封筒を取り出した。
中から長細い紙を出すと、直子にみせびらかすように左右に振った。
ヒラヒラと小さく揺れる紙を見ると、とても気になっていた映画の題名がプリントされている。
目で追いかける形になった直子に、チケットの持ち主はクックッと喉を震わした。

「そんな見なくても。雪峰さんって面白いですね。」
「面白いっ!?…藤真君って時々ヒドイこと言いますよね。」
「冗談ですよ。で、一緒にどうですか?」
「一緒って…藤真君、彼女さんは?怒られませんか?」

直子の一言に、藤真はポカンと彼女を見る。
それからフイっと視線を逸らしてぶっきらぼうに言った。

「その情報、誰からですか?彼女がいたら誘いませんて。」
「え?いないの?」
「うわっ、遠回しにバカにされた?!」
「ちっ、違います!バカになんてしていないし。」
「あー、もうダメだ。傷ついた。」
「えぇ〜っ!?」

深く息を吐き出して拗ねた様な仕草を見せる藤真に、直子は大いに焦る。

「待って!分かった、分かりました!映画、一緒させてもらうから!」
「…本当ですか?」
「ホント!」
「よっしゃ、決まり!『やっぱなし』はダメですからね。」
「…と言うか、私でいいの?」
「雪峰さんがいいんですよ。それじゃ、今度の休みに行きましょう。詳しくはまた話しますね?」

ニコリと笑った藤真の顔が眩しくて、クラリと脳が揺れる。

…マズイ。
相当掴まれてしまっているらしい。

キュッと唇を噛みしめ、直子は自制をかける。

「分かりました。楽しみにしています。」

淡く笑いを作って返すと、取ってつけた様に彼の横で仕事を始めた。



これってどう思う?
帰りの道すがら円香に聞いてみれば、全身で呆れたと言われた。

「アンタねえ…」
「…自覚はあるつもりでいるから。」
「つもりも何も、思いっきり意識してるでしょ!?」
「まあ、ね…」

はあ、と直子の口から出た吐息に円香は眉を寄せる。

「何?藤真君じゃ不満だって?」
「違うよ…ただねぇ…」
「ただ?」
「…年下でしょ?」

言い澱んだ後にポツリと聞こえた言葉に、今度は円香が溜息をついた。

「…だから何?」
「いや、何って…」
「直子が年下に興味ないのは知ってる。だから敢えて言ってなかったけど…藤真君、社内で相当人気あるから。」

グッと真剣な目になった円香にコクリと直子の喉が動く。
それから友人を見ていた瞳が下に落ちた。

「…分かる。コワかったり意地悪だったりするけど、藤真君って優しいもの。だから余計になんか、ね。」
「あのね〜!アンタも私もそろそろいい年なんだよ!?変にこだわってたら、あとで後悔するから!」
「それもそうなんだけど…」
「はっきりしないわね〜。藤真君のこと好きなの?それとも単なる同僚で終わり?」

円香の発破に直子の思考は右往左往する。
けれど、どう転んでも単なる同僚で終わりたくない。
それははっきりしている。
好きかと聞かれて即答できるほど求めているわけでもない。
けれど…やっぱり…

「…好き…なんだろうなぁ。」
「まだはっきりしないのっ!?」
「ん〜…いや、ありがとう。円香のおかげで何となく気持ちの整理はついた。」
「それならいいけど。あんまりグズグズするんじゃないのよ?」
「うん。」
「あまりにも悩んじゃうんだったら、『映画楽しもう』ぐらいの気持ちで行った方がいいかもね。」
「そうね。あー、ダメだ。緊張してきた。」
「リラックス、リラックス!」

バンと背中を叩いてきた円香を軽く睨み返し、直子は彼女と別れて自宅へ戻った。
簡単に夕飯を済ませ、部屋で寛いでいたつもりだ。
だが、気がつけば当日の服のコーディネートをしている。
そんな自分自身に苦笑が漏れた。


2014.05.08. UP




(7/10)


夢幻泡沫