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セイレーン 番外編

照れ屋な彼のセリフ ばか、そんなんじゃねーよ 



新しい学年、新しいクラスにも慣れて少し経った頃、湘北高校では球技大会が開催されていた。
バレーボール、バスケットボール、ソフトボール、サッカー。
王道な種目から出たいものを選ぶのだが、現役部員はその種目を選べない。
三井は憮然としながらもサッカーを選んだ。
理由は簡単。
バレーは突き指をする可能性があるから却下。
ソフトをさせるくらいなら野球をやらせろ。
そんなわけで一つしか残っていないサッカーに、仕方なくエントリーしたのだ。
湘北高校はお祭り好きな生徒が多いらしく、この手の行事は間違いなく盛り上がる。
クラス対抗であることも手伝って、クラスが一丸となり応援するだけでも熱が入っていた。
中には、クラス、学年を超えて歓声や黄色い声を浴びる生徒もいるのだが…。



「見た〜?さっきの三井先輩、格好よかったよね!」
「ホントっ!三井先輩ってさぁ、髪切ってからかっこよくなったと思わない?」
「分かる分かる!!不良だった頃は怖かったけど、爽やかになったよねぇ!!」

きゃいきゃい言いながら通りすがって行った後輩の話の内容に、渚はプッと吹き出した。
隣では同じように渚の友人である円香も口を抑えて笑わないようにと無駄な努力をしている。

「…三井君、変わったもんね。」
「ホント、ホント!初めて渚を呼び出した時はあの場にいたみんなが固まったもん。」
「そうだったね。円香は面白半分だったし?」
「うっ…まあ、いいじゃん。悪い結果じゃなかったんだし。三井君と仲良くなれたんでしょ?」
「仲良くって言うか…うん、まあ…」
「ならOK、OK!ほら、そろそろ試合時間じゃない?体育館へ急ごう!」

渚の恨みがましい視線に、円香は苦笑いしながら大急ぎでごまかす。
軽く息を吐き出して友人を睨んだ後、渚は体育館へ向かった。



「おっ、松島。」
「三井君。」

体育館の端で自分達の前の試合を見ていると、横から低い声が渚の名前を呼んだ。
振り向けば、先程まで槍玉に挙がっていた人物が飲み物片手に空いていた場所に滑り込む。

「クラスの応援か?」
「ううん、次の試合に出るの。」
「お前、バスケなんだ。」

渚がバスケを選んだことに頬が緩む。
嬉しそうに相槌を打つ三井を見て、円香が堪え切れないように吹き出すとニヤニヤと楽しそうに笑い始めた。
そんな彼女に三井は怪訝な目を向ける。

「何だよ?」
「何でもな〜い。」
「…松島、何か知ってるか?」
「えっ?ああ…さっきね、2年の女の子達が『三井先輩、格好いい』って言っていたの。それを思い出したんじゃない?」

友人が笑っている本当の理由を知っている渚は、当たり障りのない答えを返した。
けれど、渚も思い出したのかクスクス笑いながら答える。
2人して笑っていることに、三井は眉を寄せて渚にすごんだ。

「…それだけじゃねえだろ?」
「うん。『不良の時は怖かったけど』って付け加えていたよ。」
「ぐっ…」

思わず苦々しい表情を浮かべた三井を、渚は笑みを深めて見る。
実際、この頃そんな評判をよく耳にするようになったのだ。
端正な顔立ちでスポーツもできるとなれば、女の子達は黙っていない。

「よかったね、モテて。」
「フッ、羨ましいか?てか、お前もモテるだろ?」

途端に気まずそうに顔を背ける渚に、三井はもどかしい思いを抱く。
既に自分が渚のことを好きだとしっかりと自覚しているのだ。
県大会の試合会場で渚を見つければ、3Pの確率が上がっているのではと思うほど気合が更に増す。
もっと自分を見て欲しい。
自分だけを…という欲望が渚に会う度に膨らむ。
はあ、と深く息を吐き出して三井は渚から視線を外した。



「渚先輩、絶好調ですね。うわっ、ヤッバいなあ。」

渚が試合に出て暫くすると、彩子が三井を見つけてそばに来た。

「何がヤバいんだ?」
「このままでいけばうちのクラス、決勝で渚先輩のクラスと当たるんですよ。渚先輩の実力は知ってるでしょ?」
「ああ、あいつはスゲエ。なんだ、彩子もバスケに出るのか?」
「…バスケ部マネージャーだからって、勝手にエントリーされたんです。まあ、確かにできなくもないけど。」
「ほお、そりゃ楽しみだ。お前は普段さんざん桜木のことをハリセンで殴ってるからな。これで出来なきゃ爆笑してやるぜ。」

クツクツと笑う三井に、彩子は呆れた顔を向ける。

「ところで彩子。松島の奴、あんだけ上手いのにバスケ部に入らないんだ?」
「渚先輩、チームプレイができないらしいですよ?」
「あ?」
「これは渚先輩が言ってたんですけど、渚先輩って我が儘らしいんです。だから人と意思疎通しながらゲームをするのは苦手だとか。」
「意外だな。」
「私からしてみれば、全然我が儘に思えないんですけどね。」

苦笑しながら肩を竦める彩子の視線の先には、決勝進出を決めた渚が友人と喜んでいた。



トーナメント式が採用されている球技大会は、段々と参加クラスが絞られてくる。
早々に試合に負けて出番のない生徒は、全ての試合が終わるまですることがない。
一応下校に関しては各クラスの担任に任されているのだが、大抵この後に部活が控えているので帰るわけにもいかない。
応援するチームがなくなったクラスは、必然的に学年を応援するようになった。
三井が出たサッカーも決勝で敗れ、3−3のクラスは全ての試合から姿を消した。
部活までサボるかと一瞬考えたが思い直して体育館に足を運ぶ。
確かまだ女子バスケの決勝は終わっていないはず。
盛り上がっている体育館を覗けば、やはりまだ前半の途中だった。
試合は互角。
2年対3年の態になりつつある応援合戦を横目に、三井はよく知る顔の傍へ行った。

「宮城!試合、どうなっている?」
「あ、三井サン。お疲れっす。どうでした、サッカー?」
「負けたよ、負けた。あー、しんどかった。」
「三井サン、体力ないっすからねえ。」
「うるせえ!それよりこっちは?」

ダルそうに宮城を睨みながら三井は首にかけたタオルで汗を拭く。
ケタケタと笑って軽口を叩いていた宮城は目を細めてコートを見た。

「面白い勝負っすよ。うちのクラスの女子、バスケ経験者揃いなんすけどね…3年のあの2人がなかなかいい動きをして。悔しいけどアヤちゃんが松島先輩に抑え込まれてるんすよ。…ああっ!ホラ、またっ!!」
「おっ、スティール!」
「チーム力としてはうちの勝ちなんだけどなあ。目立たないところで松島先輩がナイスプレイ連発っすよ。もう一人のあの人もガンガン攻めてきますし。」

一進一退の攻防に目を離さないまま宮城が拳に力を込める。
そのまま前半が終わると、宮城は3年に負けるもんかと彩子のところへアドバイスをしに行った。



今の時点では、2年が6点リードしている。
三井も渚達が集まっているところへ近寄ってみた。
渚は切れている息を整えるのに一苦労しているようで、円香の指示にも応える様子がない。

「…渚、聞いてる?」
「聞いて、いる…けど…も、無理。体力…持たない。」
「情けないなあ。」
「円香と、一緒に…しないで。」

文化部に括るには勿体ない程の運動量を誇るブラスバンド部に所属している円香に背中をバシバシと叩かれ、渚はジロリと彼女を睨む。
その睨みも少しの間しか持たず、また力が抜けたように頭を下げた。

「へえ、思ってたより松島って体力ねえんだな。」
「…三井君。」
「あんだけテクニック持ってるのに意外だぜ。」

ニヤリと笑みを浮かべた三井のからかいに、渚は苦笑を浮かべるにとどまった。
そんな渚の代わりをするかのように、突然割り込んで着た三井に円香が怪訝な目を向ける。

「何、三井君?」
「ん?あっちは宮城がアドバイスしに行ったからよ、こっちには俺がアドバイスしてやろうと思って。」

三井が顎でクイッと示した先には、彩子にほんわ〜としながらもあれこれと作戦を出している宮城がいる。
それを見て、円香が憮然と言った。

「…何かズルイ。」
「だろ?だから俺がアドバイスしてやるって。2年なんかに負けるんじゃねえぞ。」
「ふむ…だけどこっちはバスケ経験があってないようなものだからね。三井君のアドバイスを実行できるかが問題だな。」
「心配すんな、そんな難しいことは言わねえよ。いいか…」

渚達5人を集めて手短に指示を出す三井に、円香はピンとくる。
彼は少し前まで毎週のように渚を呼び出していた。
それに渚の姿を見かけるとしょっちゅう話しかけてくる。
現に今だって『2年なんかに…』など言っていたが、本音はそれだけではないのだろう。
絶対に間違いない。
アドバイスを終えて満足気な顔をしている三井を捕まえて、円香は彼にだけ聞こえるように言った。

「三井君って分かりやすいのね。」
「何が?」
「渚のこと、好きなんでしょ?」
「はあ!?ばっ…ばかっ、そんなんじゃねえよ!!」
「え、違うの?何だ、ざ〜んねんっ!」

ニヤニヤと笑う円香に居心地が悪くなる。
三井はそっぽを向くと顎の傷をポリポリと掻いた。

「円香?そろそろ…」
「ねえ、渚?三井君って頼りになるよね!」
「え?うん、アドバイスしてくれて助かっちゃった!」
「さすが『三井先輩って格好いい』だけあるよね!」
「うん、本当に!」

円香の言葉に、三井はギョッとして勢いよく渚達を見る。
それに気付かないまま渚はいとも簡単に賛同した。
たった一言に、一気に三井の頬に朱が差す。
唖然としている三井に対して、面白がった円香が更に追い打ちをかけてきた。

「これで勝てたら、三井君にお礼だよねえ。」
「そうだね。三井君、考えておいてね?円香、時間だよ。」
「OK。」

先にコートに行った渚の後ろ姿を見ながら、円香はチラリと三井を見る。
未だに唖然としたままの彼に、クックッと笑いながらボソリと言った。

「三井君って可愛い。」
「…っ、てめえっ!!」
「渚、『持ってる子』だから勝つよ。お礼、しっかり考えとけば?」

ニッと頼もしい言葉を残して円香はコートに向かう。
結果、三井はリーグ戦全試合において渚の応援を手に入れた。


2013.07.03. UP



『セイレーン』学校行事シリーズ。




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