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セイレーン 番外編
キスなんてただの束縛 01
「…もうっ!後輩達に何て言えばいいのよ…」
「しょーがねえだろ!?そんな格好をしてるお前が悪ぃ!」
有無を言わさずに連れ出された渚がブツブツと文句を言う。
湘北高校の文化祭当日、家庭科部に所属する渚は喫茶店のウエイトレスをしていた。
そこに来た三井が接客中の渚を校舎裏に引っ張り込んだ。
自分の彼女である渚のこの姿を他の人に見せたくなかったから、と言うのが彼の言い分である。
確かに渚の格好は人目を惹く。
中国の後宮にいる寵姫をイメージして造られた漢服。
それに伴う髪形、化粧。
ただでさえ普段から渚は視線を集めている。
その上いつもと全く違う姿に、こうして喫茶店に戻る途中の今もすれ違う人は振り返って渚を見る始末だ。
彼氏として大いに鼻が高い一方、誰にも見せたくないと言う独占欲がむくむくと湧き出た結果の行動だった。
だが…。
その校舎裏で渚は三井から強引にキスをされてしまった。
どうしてこうなってしまったのか。
渚は未だに納得できない様子で自分の唇にそっと手を添える。
荒々しく強引だったが、少しかさついた温かな唇は…
感触を思い出して渚の顔が赤く染まる。
ガシガシと頭を掻いて渚の機嫌をどう取ろうかと悩んでいた三井は、その様子を見てニヤリと笑った。
「何だよ?そんな顔するくれえなら、もう一回シケこむか?」
「行かないっ!!」
キッと睨んできた渚にこえーなーと笑いながら彼女の傍へ一歩近寄る。
「そんなに怒んなよ。悪かったって。」
「…心がこもっていない。」
今度は呆れたような目で見てくる渚の手を取ると、三井は意気揚々と喫茶店に戻った。
相変わらず忙しそうに動き回っている部員に謝りながら元いた席に戻れば、ニヤニヤと笑う宮城と彩子と一緒に座っている人がいた。
「遅かったすねえ。もう出ようかと思っていましたよ。」
宮城の言葉に振り向いたその人に、渚の目が丸くなる。
「…湊っ!?」
「あっ、お姉ちゃん。やっと戻ってきたの?折角楓を捕まえてここまで来たのに、いないんだもん。彩子先輩に相手してもらっていたんだよ?」
「何で来ているのよ…」
「いいじゃん、来たって。それにしても…へえ〜…ふ〜ん…」
「…何よ?」
「べっつに〜?」
相槌を打つような言葉を口にする妹に、渚は眉を寄せて聞く。
それに答えずにニヤッと笑った湊は、渚の格好をじっくりと眺めた後で徐にカメラを取り出すと無遠慮にパシャパシャ撮り始めた。
その様子に注文した軽食を食べていた流川が呆れたようにどあほうと呟いて立ちあがる。
「もう行く。」
「はあ?楓も一緒に撮るのっ!ほらっ、お姉ちゃんの隣に立って!!」
「イヤだ。」
「ヤじゃない。2人の後は私も一緒に撮るよ!彩子先輩、撮って下さいね。」
「いいわよ。私も渚先輩と撮りたいから、終わったら交代ね!」
「はいっ!」
「めんどくせー。」
「メンドくない。」
幼稚園児のようなやり取りをして流川を強引に渚の隣に立たせると、湊はまたシャッターを何度も切る。
ようやく満足した湊がカメラをバッグにしまって満面の笑みで渚を見た。
「ところでお姉ちゃん?その人は三井寿だよね?」
「え?あ、うん。そうだよ。三井君、妹の湊。」
「どーも。」
「初めまして。何?お姉ちゃん、あの三井寿と付き合ってるの?」
「あ、その…うん、付き合っています…」
「へ〜、三井寿とお姉ちゃんがねえ…。楓、知ってた?」
「おー。」
「なによ!だったら教えて!!」
バシンと流川の背中を叩いて怒ってみせる湊が、クルリと渚の方を見る。
この表情がくるくると変わる妹の言葉を、渚は次に何を言ってくるのかと苦笑しながら待った。
「まあ、いいや。お姉ちゃん、久しぶりに相手してよ。」
「は?えっ、バスケ?」
「そお。丁度ね、楓達とバスケ部の話をしてたの。体育館でフリースロー大会やってるって。」
「ああ、そうみたいね。」
パンフレットに書いてあったことを思い出すように天井の見上げながら返事をする渚に、湊はニッと笑いかけた。
「湘北ってあの山王を下したでしょ?近くでプレイを見たいなってずっと思ってたんだよね。宮城さんに聞いたらコート貸してくれるって言うし。どお?」
「嫌よ、3年になってから全然してないのに。楓君に相手してもらえば?」
「もちろん楓も。三井さんもいることだし、2on2で勝負しようよ。」
「だから嫌だって…」
「おっ!いいな、それ。渚、やろーぜ。」
「ちょっ…三井君!?」
「松島妹の実力も知りてーし。流川もいいだろ?」
「うす。」
「と言うわけで渚、彩子からシャツとハーフパンツ借りて着替えて来いよ。」
「あっ、彩子先輩。私にも貸してください!」
先に行ってるからな、と手とヒラヒラさせながら宮城と肩を並べて三井は喫茶店を出た。
2013.11.13. UP
『セイレーン』文化祭。
妄想が暴走しました…。
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夢幻泡沫