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セイレーン 番外編

キスなんてただの束縛 02 



渚が凝った衣装を脱いで着替え終わる頃には、湊は既に体育館に行ってしまった。
シューズを履き替えて渚も行けば、3人はもうウォーミングアップを始めている。
しっかりと体を解している湊。
コートを軽く流している流川。
シュートの感覚を確かめている三井。
宮城を先頭に、バスケ部員も思い思いの場所で見ていた。

「お姉ちゃん、遅い!」
「…仕方ないでしょ?あれ、脱ぐのも大変だったんだから。」

開口一番に文句を言う妹を軽くあしらって、渚も準備に取り掛かる。
2人で一緒に柔軟をしているところへ、三井と流川が合流した。

「で?チーム分けは?」

分かり切ったような事を三井が聞くと、渚がすかさず手を挙げた。

「私は楓君と。楓君、いいでしょ?」
「おー。」
「湊は三井君とでも大丈夫だよね?」
「え、何?お姉ちゃん、楓と組むの?ふ〜ん、まあいいけど。三井さん、よろしくお願いします。」
「渚っ、おまっ…!」

ぱっと決めてしまった渚に三井が食いつく。

どうして渚と他の男が組むんだよ!?
フツウは俺とだろ!

頭の中で勝手にペアが決まっていた三井はジロリと渚を睨む。
だって…と渚は眉を寄せながら三井を見た。

「3人とも全国選手なのに私だけ素人ってどんなイジメなのよ…。それならせめて楓君と組ませて。楓君は私のプレイとか力加減とか知ってくれているし。ね、楓君?」
「おー。」
「流川っ!てめえまでっ…!!」
「三井、チーム分けは決まったか?審判は俺がやる。」

そこへどこから聞きつけたのか、野太い声が話しかけてきた。

「…赤木、お前かよ。もう引退したんじゃねーのか?」
「ぐっ…」
「まあまあ、三井。文化祭中なんだし、俺達にも久しぶりにバスケに関わらせてくれよ。」
「木暮までか。誰に聞いたんだ?」
「彩子だよ。」
「アイツ…おしゃべりめ。」
「な、いいだろ?俺も楽しみだな。」

穏やかに笑う木暮に毒気を抜かれたように苦笑すると、三井は持っていたボールを赤木に渡した。

「ほらよ。」
「おう。時間は?」
「あ、5分で。」
「はあ!?お姉ちゃん、なに言ってるの?そんな短い時間で私や楓が納得するとでも思ってるの!?」

さり気なく決めた渚の時間に湊が猛反発する。
流川もコクリと頷いたのを目の端に入れ、渚は口を尖らせた。

「体力持たないもん。」
「勉強ばっかしてて私の相手をしてくれないからでしょ。10分!これ以上短くはしないからね!!」
「…分かったわよ。」

渚は渋々と承諾すると流川を連れてその場を離れた。



「ゴメンね楓君、巻き込んじゃって。」
「いや、いー。」
「しかも私、足手纏いになるだろうし。」
「渚さんは打てると思ったら全部打って。残りは俺に回せ。」
「あ、うん。」
「湊を止めりゃいいから。」
「久しぶりだからなぁ。」
「心配ねー。」
「だといいけど。」
「…勝つ。」

言葉少なに指示を出してくる流川の言葉に頷く渚の耳に、ボソリと最後の一声が聞こえた。
それにプッと吹き出して流川を見上げる。

「相変わらずの負けず嫌い。」
「…うるせー。」
「よろしくね。」
「おー。」

渚が出した拳に自分の拳をコツンと当てて、流川は表情を緩めた。
その様子を逆サイドに離れた三井が逃さず見ている。
作戦を立てている途中にそんなことをされて、さすがに年下と言えど湊が三井に注意をした。

「三井さん、聞いてますか?」
「おぉっ!?悪ぃ、何だ?」
「も〜っ!お姉ちゃんばっかり見てないで下さい!!」
「悪かったって。」
「…そんなに気になりますか?お姉ちゃんと楓。」
「まあ…流川が渚にだけ態度が違うように見えてな。」
「そうですか?でも私達と一緒の時は大抵あんな感じですよ、楓は。お姉ちゃんも楓のこと、妹の私と同じように弟にしか見てないだろうし。私としては、お姉ちゃんが三井さんと付き合ってたことの方がビックリですよ。」
「あー…まあ、そうだろうな。」
「いろいろ聞きたいけど、それはまた今度。お姉ちゃんのバスケは見たことありますか?」
「…一本取られたことがあるぜ。」
「じゃあ油断はなしで。楓も夏より力をつけているだろうし。中学MVPと王者山王を下した力、見せて下さい。」
「おう。」

すっかり湊に主導権を握られながらも、三井は気持ちを引き締めてジャンプボールに臨んだ。



「今更だけど、松島さんがどうしてバスケが上手いか分かったよ。」
「…すね。」

呆れたような笑いを浮かべて納得している木暮に宮城も頷く。
目の前のコートでは三井、流川と遜色のない動きをする湊がいる。
その相手をしていたと言う渚も、置いて行かれることなく動き回っていた。

「流石、瑞穂高校のレギュラーだな。即興なのに三井とよく息が合っているし、ボールのスピードも速い。」
「1年なのにスゴイっすよね。オレらで言ったら、海南のレギュラーってことっすから。」
「あんな子の相手をしていたら、バスケ部に入ってなくてもあれだけの動きができるのは納得だよ。」
「そうっすね。でも、まあ…ディフェンスが遅れがちかな。」
「仕方ないさ、松島さんはバスケ初心者なんだろ?」
「花道とはズイブン差がある初心者だなあ。」

流川からのパスを遠くから見事にネットに吸い込ませた渚を見ながら宮城が肩を竦める。
木暮も彩子と一緒に得点板を操作しながらコートを楽しそうに眺めた。

「松島さん、妹さんの相手をしているってことで1on1は得意なんだろうな。だけど2on2になると動きが鈍くなるね。」
「経験の差ってヤツっすか?」
「しょうがないじゃない。渚先輩、バスケの試合は体育でしかしたことないんだよ?チームプレイは苦手だって言ってたし。」
「あれだけ動ければ、体育は問題ないだろうからね。」
「流川とチームを組んで正解じゃない?三井先輩とだったら意思疎通がまだ出来なさそう。湊だからお互いに短く指示を出し合って出来てるんでしょ?」
「さすがアヤちゃんっ!よく見てる!!」

渚のディフェンスの穴をついて得点した湊が三井とハイタッチを交わす。
勝負もそろそろ後半に入った。
自己申告の通り渚が肩で息をし始め、疲労が見える。

「渚先輩、辛そう。」
「運動部でもない人にとっては10分間動きまわるのって苦しいんだろうな。」
「松島先輩の妹、容赦ないっすね。ガンガン攻めてるわ。」
「まだ1on1では妹さんに合わせて動けているけど、ボールへの反応が遅くなってきているな。」
「流川が2人分の動きで阻止しているわね。でも渚先輩、シュート率は落ちてないのがすごいなあ。」
「あれはうちの部員にも見習ってほしい。」

うんうんと頷く宮城と彩子に、しっかりバスケ部を引っ張っていっているなと木暮は嬉しく思う。
反面で引退した自分は寂しいとふと感じたが、残り時間の少ないこの2on2を楽しもうとコートに目を戻した。


2013.11.20. UP




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夢幻泡沫