
Main
愛=煩悩
11
「それでね、さっきまで昴さんの誕生日パーティーをしてたんだけど。私が作ったケーキをみんなが食べてくれて、すっごく嬉しかったの!」
「よかったねえ、まぁちゃん。」
「うん!…りぃちゃんも参加できたら良かったのに。」
「ごめんね、バイト休めなくて。いま終わったところだから、いつもより早く帰れるよ。」
妹と電話をしながら家路を急ぐ。
要がバイト先に来た時から誰かが常に迎えに来てくれていたので、1人で帰ることを少しだけ怖いと思ってしまう。
「今は大人組と子供組に分かれての二次会中。大人組は5階で『オトナの時間』を過ごすんだって。私達はさっきまでゲームをしてたんだけど、今は休憩してるの。雅臣さんが飲み物を持ってきてくれたら、また始めるんだ。」
「大人組って誰が参加しているの?」
「ええと、要さんと、椿さんと、梓さんと、昴さん。昴さんが20歳になったから一緒にお酒を飲むんだって。」
「…5階に行っちゃダメよ?」
「え?どうして?」
「とんでもないことになりそうだから。でも、そっか。だから今日はお迎えなしって右京さんが言ってたのね。」
「…大丈夫、りぃちゃん?」
「ふふっ、大丈夫よ。まぁちゃんのケーキ、楽しみにしてるから。」
「うん!」
「じゃあ、切るね。もうすぐ電車が来るみたい。」
電話を切ってカバンにしまう。
中には爽やかなラッピングがされた昴へのプレゼントが入っていた。
絵麻ほどの努力はできないが、絵梨だって朝日奈の人達を大切に思う気持ちが大きくなっていた。
自分を受け入れてくれる人達。
本物の兄弟にはなれないだろうけど…
片隅にいるのは…許してほしい。
小さく笑ってそれを撫でると、仕事帰りで疲れ切った社会人を乗せた電車に絵梨も滑り込んだ。
「じゃあさ、昴はあの子達のことどう思っているわけ?」
「どうって…」
帰ってきてすぐに聞こえた言葉に、絵梨はハッと立ち止まってしまう。
あの声は椿だ。
絵麻の情報と合わせると、大人組はまだ二次会を続けているらしい。
丁度良かった。
昴にプレゼントを手渡しできそうだ。
けれど、話題の内容に身体が固まってしまう。
『あの子達』というのは、おそらく絵梨と絵麻のことだろう。
このまま黙って聞いているのはよくない。
だが、声をかけるのも気が引けて…
絵梨がどうしようかと悩んでいると、椿が昴に言い募った。
「言えないんだー。ほーら★やっぱり気にしているじゃない!」
「違うって!!」
「じゃあ、どう違うんだよ?」
「だから、その…」
ニヤニヤしながら椿は迫る。
側にいる要と梓も楽しそうに見ているだけだった。
どんな答えであっても聞かない方がいい。
早くこの場を離れた方がいい。
頭からは指示で出ているのに、体が言うことを聞いてくれなかった。
「はっきり言って迷惑なんだよ!」
投げやりに言った昴の言葉が絵梨の頭を殴る。
サーっと体が冷たくなっていくのが自分でも分かった。
半分ぐらいはそうではないかと思っていた。
けれど、朝日奈の人達は優しく接してくれていたからそうじゃなきゃいいなとも思っていた。
…本当に欲しいものは手に入らない。
どんなに切望していても。
でも、せめて絵麻だけでも…
彼女は健気なほどよく頑張っているのだから…
「ずっ、ずっと男だけでやってきたのに…急に女なんか入り込んで来て。あいつらが来てから風呂入るのに気を使うし、トレーニング後も裸でいられないし。」
昴の言い分など、どうでもよかった。
絵梨はわざと足音を立ててリビングに降りて行く。
ハッとした4人が見たのは、能面のように白く表情のない彼女の顔だった。
「…本心が聞けて良かった。」
「っ、絵梨姉っ!違うんだっ!!」
「何が違うの?気を付けた方がいいよ、お酒を飲んでいる時こそ本音が出ちゃうものだから。」
「ごめん!悪かった!!」
「何で謝るの?あのね、本当に怒ってないの。変に隠される方がよっぽど嫌。確かに昴くんの言う通り、いきなり余所者に生活を邪魔されたら迷惑だよね。…だけど、絵麻に同じこと言ったら許さないから。」
最後の声の低さに昴が押し黙ってしまう。
絵梨は深く息を吐き出すと、残りの3人を一瞥した。
「梓さんも椿さんも要さんも…」
「…」
「弟を焚きつけて楽しかったですか?」
「…」
「…絵麻は大切にしてあげてください。よろしくお願いします。」
「…絵梨ちゃん?」
「昴くん、これお誕生日プレゼントのつもりだったんだけど…いらなかったら捨ててね。」
「待って、絵梨ちゃん!」
「おやすみなさい。」
「絵梨っ!」
要が焦ったように立ち上がる。
それを黙殺して静かにプレゼントを机の上に置くと、絵梨はそれ以上何も言わずに出ていった。
2014.11.20. UP
← * →
(11/20)
夢幻泡沫