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愛=煩悩

13



髪の毛とメイクは琉生のプロデュース。
ドレスや装飾品は美和のプロデュース。
鏡で見た自分は、まるで魔法が掛かったシンデレラだった。

「…すごい…私じゃないみたい…」
「うん、きれい。」
「琉生くん、ありがとう!」
「アレンジ、楽しかった。また、させて?」
「もちろん。」
「ありがとう、絵梨姉さん。」

優しい微笑みを浮かべた後、琉生は絵麻の髪をいじり始めた。
やはりプロにやってもらうと出来上がりが違う。
美容師の琉生が名乗り出てくれてありがたかった。
絵梨はもう一度礼を言うと、控え室から出た。
今日は麟太郎と美和の結婚式の日。
朝日奈一家は個々に会場ホテルに来て準備を始めていた。
この日のために美和から贈られた装い一式。
朝一番でメイクをしたいと言ってくれた琉生。
年頃の女の子らしく絵梨の心が躍った。
広い式場をウキウキした気持ちで見学していると、ロビーで椿が絵梨のことを見つけた。

「お、絵梨ー!今日はいつもの100倍かーいー!そのドレス、ちょー似合ってるよ★」
「えっ…」
「梓もそう思うだろー?」
「うん、すごくキレイだよ。」
「…ありがとうございます。それより、こんなところでどうしたんですか?」
「んー、待ち合わせしててねー★」
「待ち合わせですか?」
「うん、まあ。」
「あ、ほら来た。棗!!」

椿が大きく手を振って存在を示すと、気付いた相手も大股で近づいてくる。
2人の待ち合わせ相手は絵梨も知っていたので笑いかければ、眉を顰めてそれから驚いたような顔で見られた。

「椿、梓…。と…日向か?」
「朝日奈さん!」
「おう、久し振りだな。なんだ、今日はいつもより綺麗だな。」
「えっ!?あ、ありがとう…」
「…照れんなよ。こっちまで恥ずかしくなる。」
「だって、朝日奈さんに褒められるとは思ってなかったから。」
「棗。」
「え?」
「棗でいい。お前も朝日奈になったんだろ?」
「…ええと。棗、さん?」
「お前のことも絵梨って呼ぶからな。」
「はーい。」
「まさか、お前が妹になるなんてなあ。」
「私も驚いた。棗さんがお兄さんなんて、ね。」
「かわいがってやるよ。」
「優しくしてね?」

既知らしく警戒することもなく楽しげに話している絵梨と棗の間を、ムスッとした声が割った。
そちらを見ると、口を尖らせた椿が睨んできている。
梓も不機嫌になっているようだ。
彼らがどうしてそんな表情をするのか分からない2人は、顔を見合わせて首を捻った。

「…棗のくせにナマイキ!」
「何だよ、それ?」
「絵梨も随分と棗に気を許しているんだね。」
「え…?」
「そーそー!俺らには未だに敬語なのに、棗とはふつーに話してんじゃん!」
「…えー…」
「…くだんねえ。絵梨、行くぞ。こいつらに付き合ってると変に疲れる。」

タイミング良く呼びに来た琉生に軽く挨拶をすると、棗は絵梨の肩を押して歩き出した。



神聖で厳粛な空気に包まれて、式は執り行われた。
2人の幸せそうな顔を見ていると、ほんとに温かな気持ちになって…
父に大切な人ができたのだと、改めて実感した。
式は身内のみだった分、披露宴は盛大にしたらしい。
広い広い会場での立食パーティー。
主役である新郎新婦をようやく見つけた絵梨は、ニッコリと笑いながら声をかけた。

「お父さん、美和さん。」
「まー!まー!!絵梨ちゃん、とっても綺麗だわー!そのドレスもよく似合ってるし。」
「ありがとうございます。でも、今日の主役は美和さんですよ。本日はおめでとうございます。」
「やーね、改まっちゃって!今度からは『ママ』って呼んでほしいわ〜!」
「…ママ、ですか…」
「あはは。いくらなんでも、急には無理だよ、美和さん。」
「おめでとう、お父さん。」
「絵梨…ありがとう。」
「そうかしら…。まあとにかく、これからは仲良くやりましょ!改めて、よろしくね。」
「はい、こちらこそ。」

快活に笑う美和に絵梨の顔も綻ぶ。
新しく出来た娘をじいっと見た美和は、感慨深そうにふうと息をついた。

「…本当に綺麗な子ねー。」
「美和さん?」
「こんなに綺麗じゃ、男の人が黙ってないんじゃない?絵梨ちゃん、彼氏はいるの?」
「彼氏ですか?いませんよ。」

父親の前でこういう話をすることに少し抵抗を感じながらも正直に話せば、美和の顔がぱあっと輝いた。

「そうなの!?それなら息子達の中で気になるのはいない!?」
「え…っ!?」
「どうかしら?」
「あの…兄弟、ですよ…?」
「そんなこと気にしなくてもいいのよ。こんな綺麗な子が他の所に行っちゃうなんて嫌だわ!そうよ、いっそ息子達の誰かと結婚すればいいのよ!」
「そんな…」
「ねっ、そうでしょう?りんくん!」
「そうだねぇ…。お互い想い合っているなら、止められないとは思うけど…。」
「でしょ!息子達について聞きたいことがあれば、いつでも相談に乗るわよ!あっかなちゃん、丁度いいところに!」

さっそくとキョロキョロし始めた美和の目に金色の頭が目に入る。
他より背の高い息子を呼びつければ、穏やかな笑みで近づいてきた。
法衣とも私服とも違う、華やかな礼服姿。
元々の容姿とも相まって、とても魅力的なその姿に絵梨の頬が熱を持った。

「母さん、麟太郎さん、おめでとう。」
「ありがとう、かなちゃん。それより、絵梨ちゃん綺麗だと思わない?」
「うん、とっても!すごく綺麗だよ。他の男には見せたくないなあ。」
「何を言ってるんですか…」
「何って?思ってること、そのまんま言っただけだけど?」

真顔で言ってくる要に絵梨は脱力を隠せない。

「俺達が式を挙げる時は、どこがいいかな?」
「え…っ!?」
「ウエディングドレスは俺が選ぶからね。式場はそうだな…海が見える教会なんて、どう?」
「…要さんってお坊さんですよね?」
「ん?ああ、愛さえあれば宗教なんて関係ないからね♪」

自分の仕事を全否定した要は嬉しそうに絵梨の横にピタリと立つ。
それを見て美和も嬉しそうに頬に手を当てた。

「まーお似合い!親バカだけど、かなちゃんはいい男よ。絵梨ちゃん、どうかしら?」
「どっ…どうかしら…って…」
「どうかな?」
「要さんまでっ!」

楽しそうに笑う母子に麟太郎と絵梨はぐったりと疲れてしまった。


2014.12.04. UP




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夢幻泡沫