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愛=煩悩

03



「絵麻さん、そろそろみんなが起きてくる頃です。テーブルに料理を運んでしまいましょう。」
「はい。」

朝早く起きた絵麻は既にキッチンにいた右京と朝食を作った。
食卓に料理を並べ終えた頃には兄弟達が集まっていた。
が…案の定、絵梨が起きてこない。

「あれ、妹ちゃん?絵梨ちゃんはどうしたの?」

席に座った要が不思議そうに絵麻に聞くと、困ったように眉を下げながら姉の弱点を告白した。

「…すみません。りぃちゃん、朝が弱くて…」
「えー!?りーちゃんもおねぼうさんなの?」
「弥ちゃん?」
「あのね、おねーちゃん!まーくんもおしごとないときは、おねぼうさんなんだよ。」
「どうりで…りぃちゃんはもうすぐ起きてくるとは思うけど、朝ご飯を食べるかな…?」
「えー!?ぼく、りーちゃんといっしょにごはん食べたいよー!」
「ええと、様子を見てきますね。」

絵麻がそう言った時、トントンとゆっくり階段を下りる音がした。

「おはよう、まぁちゃん。」
「りぃちゃん…遅い。」
「…ゴメンナサイ。」

まだ半分ぐらい覚醒していないのか、素直に謝りながら絵梨がリビングに現れる。
右京は苦笑しながら絵梨を席へと促した。

「おはようございます、絵梨さん。さあ、朝食にしましょう。」
「おはようございます。遅くなってしまってすみません。」
「いっただっきまーす!」

弥の元気な声で賑やかな食卓が始まった。

「絵梨さん、箸が進んでないようですけど苦手なものでもありましたか?」
「…いえ、まだ眠いだけです。」
「へー、絵梨って朝弱いんだー★」
「…」
「なになにー?オニーサンがあーんってしてあげようか?」
「…」
「あっ!かなにー、ずりー!俺があーんってしてあげるよ★ほらほら、こっちむけって!」

絵梨を挟んで要と椿が言い争う。
そんな煩さにも反応せずにモソモソと食べている絵梨に、絵麻は呆れたように声をかけた。

「りぃちゃん、ちゃんと食べて。」
「…んー、お味噌汁だけでいい?」
「ダメ。右京さんがせっかく作ってくれたんだから、全部食べるの。」
「…後で、は?」
「ダメ。」
「…じゃあお弁当で持ってくのは?」
「はあ…」
「あははっ!りーちゃんのほーが、いもーとみたいだね!」
「ほら、弥ちゃんにも言われちゃってるよ!?」
「きょーたん!りーちゃんのおべんとーにしてあげて?」
「…すみません、右京さん。おいしいんですけど…朝が苦手で…」
「仕方ないですね。後で用意をしますので、キッチンへ持っていってくれますか?」
「すみません…自分でやりますから、そのまま置いておいてください。」

申し訳なさそうに頭を下げると、絵梨は少ししか箸をつけていない朝食をキッチンへ持っていった。



約束通りの弁当を持って向かった大学では、絵梨の友人である円香が待ち構えていた。

「あ、来た来た!絵梨、おはよー!」
「おはよう。」
「新生活はどう?引っ越しはもう終わったんでしょ?」
「うん、まだあんまり片付いてないけどね。」
「新しい家族はどう?」
「…ん、いい人達っぽそう。」
「よかった。絵梨はキレイだからね、男兄弟がいたら取り合いになりそうで心配してたのよ。」
「アハハ…何言ってるんだか…」

苦笑う絵梨に円香はハアと息を吐き出した。

自覚がないのだ、この子は。
誰もが魅入るほどの美人ではないが、男女共に受けがいい整った顔立ち。
華奢な体つきなのに、フニフニとして柔らかそうで。
あまり自分を主張することなく、けれど最低限の譲れないラインを持っていて。
しっかりしてそうで、案外抜けているところもあって。
どこか諦めているような冷めているような雰囲気がまた、相手の好奇心や執着心を煽る。
なにより、彼女が自分の好きなことをしている時の表情がとてつもなくイイのだ。
恋人や友人にいたら自慢したくなってしまう。

「…で?男兄弟はいるの?」
「あ、うん。」
「何人?」
「…13人。」
「へー…え…?もう一回言って。」
「13人。」
「は…あ!?13人!?」
「あ、でも。一緒に暮らしているのは11人だし、年齢も幅広いから全員が集まることは難しいみたい。」
「…あっそ。絵梨のことはすっごく心配だけど、他人の家のことだからなー。とにかく絵梨!!」

そう言って円香はビシッと絵梨を指さした。

「…人を指しちゃいけないんだけど。」
「分かってるわよ!そんなことはどうでもよくて!!アンタは無自覚なところがあるから気をつけなさいよ!?」
「何を?」
「男は全員狼ってこと!」
「…あのねえ…」
「何よ!?バイト先で何回もアドレス交換申し込まれたのは誰だっけ?」
「…」
「フリーな人ならともかく、明らかに彼女連れだった人からも声を掛けられていたのは?」
「…」
「『彼氏いますから』って言ってもしつこく迫られたのは?」
「…」
「気をつけなさい!分かった!?」
「…ハイ。」

疲れた顔で提案を受け入れた絵梨に、円香はよろしいと大きく頷いた。


2014.09.18. UP




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夢幻泡沫