Main



問答無用の魔法

05



夕食後、大きなソファにゆったりと座り会話を楽しむ。
朝日奈家の家族団欒の一つ。
汐音も兄弟に囲まれながら何となくそこにいた。

「そーいえばさー、きょーにー。今年ってどうなってんのー?」
「…ちゃんと主語を付けてしゃべりなさい、椿。」
「はいはーい。」
「島のこと、だよね?」
「さっすが、梓♪よくわかってんね!やっぱ俺らって一心同体?」
「…椿の考えていることなら大体わかるよ。」
「ちょうど、私もその話をしようと思っていました。」

兄弟全員の共通らしい話題に、それぞれが一斉にカレンダーを眺め出す。
汐音がその様子を困ったように見ていると、右京が穏やかに説明した。

「ああ、あなたは初めてでしたね。私たちは毎年夏休みになると、母所有の別荘へ行くのが恒例になっているんです。」
「別荘、ですか…。お気を付けて行ってきてください。」
「は…?」
「え?」
「『お気を付けて』って…汐音も行くっしょ?」
「おねーちゃんもいっしょに行くのー!!」
「というわけで、旅行の日程をみんなで調整しようと思います。あなたのご都合はいかがですか?」
「あの…私も行っていいんですか?」
「何を言っているんですか。当然でしょう。」
「そーだよ!おねーちゃんがいないとつまんないよー!」

汐音が思わずみんなの顔を見ると、『行くよね?』という顔がいくつも見返してきていた。

「…ありがとうございます。」
「それで、汐音の夏休みの予定はー?」
「今年はバイト以外まだ特にありません。」
「俺と梓は、夏休みはイベントだなんだってスケジュールがかなり埋まっちゃってるんだよねー…。どーする、梓?」
「そうだね…。マネージャーに調整してもらおうか。難しいかもしれないけど…。」
「つばちゃん、あーちゃん、ざんねーん!せっかく妹ちゃんの水着姿が見れると思ったのにねー?」
「マジでー!?梓ー、俺なきそー…」
「…調整してもらおうね、椿。」

本当に泣いているんじゃないかというくらい勢いよく梓に抱きつくと、椿はぎゅうぎゅうとくっついていく。
梓は迷惑そうに椿をどけながら、汐音を見た。

「マネージャーに頑張ってもらうから。一緒に島へ行こうね。」

そう言って優しく笑った梓に、汐音も小さく頷いた。


2015.03.12. UP




(5/24)


夢幻泡沫