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可愛くしてあげる

05



「…と言うわけで…できれば、その…今夜泊めてもらえると嬉しいんだけど…」
「とうとう爆発したか…。」
「…」

駆け込み寺になっている円香に泣きつけば、あーあと何とも複雑な表情をされた。

「いいよ。ただし、家には連絡しといてね。確かハイスペック兄弟の中に弁護士もいたよね?」
「…右京さん。」
「私達まだ未成年だから、誘拐とか拉致とか言われても嫌だし。」
「えー…」
「嫌なら泊められないかなあ。」
「そんなあ…」
「うちはどっちでもいいよ。」

恨みがましい目で円香を見ても、ダメージゼロとばかりに鼻歌を歌われてしまう。
できることなら誰にも何も言わずに外泊をしたい。
だけど円香の言う通り、黙ったままだと右京さんが法に則って事を運びそうだ。
散々悩んだ挙句、私はスマホを取り出した。

「…連絡入れる。」
「りょーかい。私もママに連絡入れとくよ。やった!久し振りに絵乃とお泊まり会だね!」
「…ありがとう。」

渋々選んだ相手は…やっぱりお姉ちゃんだった。



朝日奈家にいるよりも、円香の家にいる方が楽だったりする。
幼い頃から私を知っている円香のお父さんとお母さん。
私個人を見てくれる円香と円香のお姉ちゃん。
そんな人達に囲まれて食べた夕飯はとてもおいしかった。
『家』という中で久々に笑ったような気がする。
おやすみの挨拶をして円香の部屋へ行き、布団にもぐってもなかなか寝付けなかった。

「…絵乃、早く自立した方がいいんじゃない?」
「円香?」
「お姉さんともダメ、兄弟達ともダメ。ダメって言っても苦手ってだけなんだけど。でも、気持ちってけっこう大事じゃん。だったら家にいても窮屈なだけでしょ。」
「まあね。」
「私は絵乃の昔を知ってるから言えるけど、確かに絵乃にとっちゃあの家はキツイよ。」
「…」
「有名人だらけだからねー。ホストっぽい僧侶に、人気声優ズ、学園の王子様に、本物のアイドル。他にも小児科医、弁護士、コアなファンを持つ小説家…ああ、将来有望なバスケ選手もいたっけ?うわっ、なんて濃い兄弟達。」
「…やめて。聞くだけで疲れる。」
「さっさと大人になってあのお家を出なよ。それで私といっぱい遊ぼう?」
「なにそれ。」

最後にちゃっかりと自分のことをアピールしていきた円香にケラケラと笑いが出る。
少し胸の中にあったモヤモヤが晴れた気分だ。

「それで?わざと外したカリスマ美容師とは?」
「…最悪だよ。どなり声も聞かれたし、その後の汚い顔も見られちゃった。もうダメだって…」
「だけど好きなんでしょ?」
「…」
「絵乃?」
「…好き。」
「でしょ?どーしたいの?」
「どうしたいって…。兄弟だよ、どうにもできないじゃん。」
「だけど義理の兄弟だよ。どーにかできそうだけどね。」
「…琉生さんはオトナだもん。コドモの私なんて目にも入ってないって…」
「だけど…」
「…」
「絵乃ー?…好きなんでしょ?」
「…うん。好き。最初は不思議な人だって思ったけど、黙って優しく包み込んでくれる感じが…ね。髪一つで気分を変えてくれるところも好き。私のことを認めてくれるところも好き。…好きなの。」
「そっか…」
「…ごめん、巻き込んで。おやすみ。」
「ん…おやすみ。」

円香に背を向けるようにして布団をかぶる。
ギュッと目を閉じれば、浮かんできたのは琉生さんのやわらかい微笑みだった。


2015.06.18. UP




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夢幻泡沫