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オマエのことが好きなんだ

04



小さな袋と小さな箱。
バッグに入っているこの2つが彩夏の心を重くしている。
けれど…
今日は事前に行きたいと連絡を入れてある。
彩夏はぐっとバッグを握りしめると棗の部屋のインターフォンを鳴らした。
割とすぐに開いたドアに無意識のうちにホッとした。

「彩夏?」

そう言いながらドアを開けた棗は首を傾げている。

「どうした?合鍵、渡してあるだろ?」
「うん、そうだね…」
「使えばいいだろ、それ。」
「まぁ…」

どこか煮え切らない彼女の態度に、棗はさらに首を傾げる。

「とりあえず、あがるんだろ?」
「あ、うん。」

足元にすり寄ってきたつばきとあずさを撫でる彩夏は、棗の目を見られないでいた。

「なんか飲むもん用意するから、先に部屋に行っててくれ。」
「手伝う?」
「いや、これくらい1人でいい。」
「ん。」

じゃあ、と彩夏は一足先に部屋へ行く。
入った途端にさっと部屋の中を見渡して…。
彼女の痕跡がないか確かめてしまう自分が嫌になった。

「お待たせ。」

棗が彩夏に差し出したカップには、湯気の立つココアが入っている。
マシュマロを2つ入れた、彼女の好きな飲み物。
フーフーとよく冷ましコクリと一口飲んだ彩夏を見て、棗も自分のカップに口をつけた。

「…おいしい。」
「オマエ、それ好きだよな。すっかり覚えちまった。」
「うん、バッチリだね。」

相手の好みを作れる、と言うのはそれだけ付き合いが長いということなのに…。
黙ってカップを置いてしまった彩夏に、棗はまた首を傾げた。

「どうかしたのか?今日は随分とおとなしいな。」
「…私達、どれくらい一緒にいたのかなぁって…ふと思って。」
「あ?付き合ったのは大学に入ってからだが、知り合ったのは中学の頃だろ。まあ、大学からと考えても…あー、5年ぐらいか?」
「だよねぇ…」
「なあ、マジでどうしたんだ?」
「棗…これ。」

そう言って彩夏が机の上に出した物に、棗の顔が強張った。
小さな箱は見覚えがありすぎる。
彩夏に渡すために密かに足を運んでいた宝石店で買い求めたもの。
では、隣の小さな袋は…?
ゴクリと喉を鳴らすと、棗は小さな袋を開けた。
出てきたのは、これもやはり見覚えのありすぎるもの。
自分が毎日使っている鍵。
それと全く同じものだった。

「…オマエ、これ…」
「…婚約…取り消さない?」
「なっ…んで…」
「結婚するなら、私を一番に想ってくれる人がいい。」
「そんなの、俺が…」
「今の棗にとって、一番は私…じゃないよ、ね?」
「…っ…ち、違う…っ!そうじゃないっ!!」

一瞬の空白が物語っている。
彩夏の瞳に涙が滲んだ。

「…即答できなかった時点でアウトだよ…。あんまり私をなめないで。」
「…」
「さっきの話じゃないけど…5年以上も近くにいたんだから、分かる。棗の一番は…私じゃ、ない。」

自分自身を否定することが情けなく、惨めだった。
自分で関係を終わらせることが悲しかった。
けれど、結婚する相手にとって自分が2番手だということはどうしても嫌だった。

「…棗と結婚したかったけど…プロポーズされて嬉しかったけど…ごめんなさい。」
「…」
「今日はこれを返しに来たのと…荷物、持って帰ろうと思って。」
「…なあ、本気か?」
「本気だよ。」
「俺が断るって考えなかったのか?」
「…」
「俺は、彩夏のこと…」
「…」
「俺は…」
「…言い切れないんでしょ?…棗も『いいヤツすぎる』のよ。可愛い存在を気にかけ過ぎて、本気になっちゃった…。」

拳を握っている棗から視線を逸らすと、彩夏は荷造りを始めた。
泊まる時用の洋服や化粧品などをスーツケースに纏めていく。
すると、後ろから急に重みがかかった。

「棗っ!?」
「…やめろよ。」
「え…?」
「荷物、纏めるな。」
「あったら迷惑になるでしょ。私だってお気に入りのものもあるし…」
「だからっ!」
「…私に心がない人とは付き合えない。心がない関係なんてさみしいじゃない。」
「…それは…こういうことか?」

言うや否や、棗の指が彩夏の内腿を擦りあげた。

「やっ!?」

高い悲鳴を上げて身を捩った身体を押さえつける。
棗は彼女のイイところだけを執拗に攻めた。

「棗っ…やっ、やだっ…!」
「…」
「やだって…あ、っぁ…」
「…や、じゃないだろ?もう濡れてるぞ。」
「んぅっ、はぁ…や、やめ…っぁあ…」
「ココがイイんだよな?」
「あっ…や、ぁ…っ…な、つめっ…やぁっ…」

むりやり追い詰められていく。
彩夏は反応してしまう身体を恨めしく思った。


2016.08.18. UP




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夢幻泡沫