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オマエのことが好きなんだ
05
「えっ!?なに、それ!?」
「うん、まあ…そういうことになったから。」
「何ですぐに言わないのっ!!」
「ごめんね。ちょっとドタバタしてて。」
「ああ、そっか。そうだよね。」
「すぐ連絡できなくてごめん。」
「私のことなんてどうでもいいからっ!それより…彩夏、大丈夫なの?」
親友からかけられた言葉に、彩夏は曖昧に笑った。
「んー…でも、もう決めたから。」
「…そう。おじさんとおばさんが味方になってくれてよかった。」
「そうだねぇ。それはホント感謝してる。」
「あっ、もちろん私も味方だからねっ!!」
「ありがとう、円香。」
貸し切ったバルの一角。
同窓会のためだけの空間の中の、さらに奥まったところに彩夏は親友といた。
彩夏達のことを気にかけてくれていた円香に経過報告する。
少し会わない間に起こった怒涛のような出来事。
棗と別れたこと。
それから少し前に妊娠が分かったこと。
どうするか散々悩んで、産む決心をしたこと。
勘当覚悟で両親に告げると、意外にも喜んでくれたこと。
彩夏も含めて面倒は見るから、今は体を一番に考えろと励ましてくれたこと。
だから仕事を辞めたこと。
一人暮らしを切りあげ、実家に戻ったこと。
全部を話した彩夏は、どことなしにホッとした表情で円香を見た。
「正直、怒鳴られるかと思ってた。」
「気分的にはね。でも、怒鳴るとしたら彩夏にじゃなくてナツ日奈でしょ。信じられないっ!婚約を解消されたすぐ後にヤるなんて!!しかもナマっ!!」
「声っ!声、大きいから!」
「あ…ごめん。」
「…拒否しきれなかった私にも責任はあるから。それに…まだ、好きなんだ。」
「…」
「絵麻ちゃんが…妹ができなかったらこんなことにはならなかったかなぁ、とかね?妹じゃなくてお姉さんだったら、とかね?私が子供過ぎ、とかね?もっと大人にならなきゃダメだった、とかね?もうね、気持ちがぐちゃぐちゃ。今はだいぶ落ち着いたけど。」
「溜めこまないでよ?もう彩夏一人の体じゃないんだから。」
「うん、お母さんにも言われた。」
「でしょ!グチだったらいくらでも聞いてあげる!遊びたいんだったら相手になる!!」
「ふふっ、ありがとう。」
任せて、と握りこぶしを作った親友がありがたい。
彩夏はニッコリと笑うとグラスに口をつけた。
「…彩夏が飲めないなんてね。」
「正直、堪える。」
「だよねー。早く飲めるようになれー!!」
「ホント!飲みたい!」
重たい雰囲気を払うかのようにケラケラと笑い合い、彩夏と円香はカチンとグラスを鳴らした。
「彩夏ちゃん。」
突然後ろから自分の名前が呼ばれる。
彩夏が振り返ると、そこにはあまり会いたくない人物がいた。
「…あ、梓くん。」
「こんばんは、久し振りだね。」
「あ…うん。」
戸惑いながら返事をした後、彩夏は円香を小突いた。
「ちょっと…どういうこと?」
「えっ!?知らないよっ!」
「梓くん来ないって言ってたじゃない!」
「私だって幹事からそう聞いたもん!」
「梓くんが来るんだったら、私…」
棗と婚約を解消した後だし、朝日奈家の誰かと会うのは気まずい。
同窓会の話が来た時にまず初めに梓の出席を確認したぐらいだ。
『仕事で忙しいらしく欠席だって。』と聞いたからこそ、出席したのに…。
ヒソヒソ声で焦っている彩夏達に梓は苦笑しながら一歩そばに寄った。
「なんだか来ちゃいけなかったみたい?」
「…あ、うぅん。そうじゃなくて…」
「あのさ、話してるとこ悪いんだけど。」
「うん?」
「彩夏ちゃん、ちょっといいかな?」
そう言って梓は彩夏を見た。
少しの間だまったままの状態でいた円香が溜息とともに席を立つ。
「…彩夏。私、ちょっとあっちで話してくるよ。」
「あ…」
「邪魔してごめんね。」
「いいえー。」
棒読みの返事をしながら梓とすれ違った円香は、ポンと彩夏の肩を叩いた。
2016.09.08. UP
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夢幻泡沫