Main



Eternal love to you

10



「いらっしゃいませ!音色喫茶へようこそ。」

落ち着いた声と共に出迎え役が深く頭を下げる。
毛利に教育されたのか徹底的なほどの規律正しい行動が、音楽室をいつもの雰囲気とは違わせていた。
厳かでけれどもゆったりと出来る仕様に驚きを隠せない。

「お一人様でよろしいでしょうか?」
「ああ。蒼乃はいるか?」
「藤原先輩ですか?奥で一休憩入れているところです。」
「Okay. それならBセットを2つ頼む。持ってくるのは蒼乃で。」
「ご注文承りました。…藤原先輩に頼んでみます。」

たぶん蒼乃は断らない。
仕方ないと笑いながら俺が頼んだヤツを持ってきてくれる。

「…お待たせ致しました。Bセットでございます。」

ほらな。
俺が想像していたまんまの顔だぜ。

「指名料、とるよ。」
「ああ、いいぜ。いくらだ?」
「もうっ!そうじゃないでしょ!」
「そんな怒んなよ。つっ立ってないで座ったらどうだ?」
「え?」
「一人で2つもセットを食うわけねえだろ?アンタの分だ。」
「えっ!?いや、まだ休憩時間じゃないし!」
「付き合えよ。」
「…」
「ほら、座れって。」
「…毛利君に話してくる。」

注文したものをテーブルに置くと、蒼乃は裏に引っ込んでいった。
けれど、わりあいすぐに戻ってきて『ごちそうさまです』と俺の向かいの席に座った。
…最近、蒼乃の様子が変わってきた。
これまで仲が良いと言っても友達止まりだと態度で表示していたのに、この頃は深くまで入り込んでも適当にあしらわれなくなった。
それに、どちらかというと意識されているような気が…。
これって押したらイケんじゃねえか?と思えるくらいには。

「今年も盛況だな。」
「うん、お陰様でね。」
「俺も後でリクエストしてもいいんだろ?」
「え、うん…まあ、ダメじゃないけど…というか、伊達君って何気に音楽好き?」
「いや、好きってほどでもねえな。蒼乃の音が好きなだけだ。」
「…ちょっ…えっ、と…」
「アンタの音、忘れられねえ。初めて聴いたとき、高校生が出せる音だとは思えなかった。華やかなのに柔らかくしっとりとして心地よかった。」
「…」
「最近は切ない音を出すようになったな。それも心臓を掴まれるような感じで。悪くねえ。」
「…さすがに恥ずかしいよ…」
「蒼乃の演奏、リクエストしていいだろ?」

セットのケーキをつつきながら蒼乃が頬を染めて視線を逸らす。

「エルヴィスの『好きにならずにいられない』。」
「…ベタな展開。」
「嫌いじゃねえだろ?」

絶対音楽好きだよねとか、エルヴィスなんてらしいよねとか、モゴモゴ言いながらケーキを食べ終わると、蒼乃は俺が食べ終わった分も持って立ち上がった。

「褒めてくれた分のお返しはする。」

少し乱暴なその言い方に呆気に取られたが、意味に気づくとニヤリと緩む頬を抑えられない。

「楽しみにしてる。」

それから暫くしてトランペットを持って演奏台に上がった蒼乃は一度も俺を見なかった。
毛利のヤツが睨んできたような気もするが、そんなもの痛くも痒くもない。
じっと蒼乃を見つめ、息遣いまで全て聴きとる。
甘く切なくそれでも伸びやかな音色に、会場にいる客がうっとりとしているのが分かる。
華やかさを残しつつもしっとりとした音色に、蒼乃の本当の気持ちが含まれていてほしい。
だって『お返し』ってそういうことだろ?
気持ちを込めて演奏するってことだろ?
曲は『好きにならずにいられない』だぞ!?
盛大な拍手を受けてお辞儀をする蒼乃から目を離せない。
演奏中には一度も俺を見なかった蒼乃と目が合えば、彼女の頬がカァっと音が聞こえるくらいに染まる。
それを見て俺の頬も熱くなった。


2016.04.18. UP




(10/16)


夢幻泡沫