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Eternal love to you

06



「蒼乃、別れよう。」
「え…?」

卒業式。
人前じゃ恥ずかしくて言えたもんじゃねえと小十郎を誘って屋上に上がる。
そこで祝いを言ってやっていると、奥から乾いた声が聞こえてきた。

「…は?」

思わず小十郎と顔を見合わせる。

「…藤原?」
「てことは…相手は猿飛でしょうか?」
「だろうな。」

足音をたてないように声がした方へそっと近づく。
物陰に隠れて顔だけで覗けば、そこには猿飛と藤原がいた。

「佐、助…?」
「…蒼乃、隠すのがうまいよね。俺様、ずっと騙されてたよ。」
「何のこと…?」
「知ってたんでしょ?俺様がかすがを求めてたの。知ってて黙ってた。」
「…」
「俺様に隠し事できるなんて、蒼乃ってばすごいよね〜。気付いたときびっくりしたもん。そっからは気付かない振りするの大変でさ〜。」
「いつから…?」
「ん〜?まあ、ぼちぼちとかな。」
「…そう。でも私は佐助が好きで…」
「ありがとう。俺様も蒼乃のこと、嫌いじゃなかったよ?」
「嫌いじゃ、なかった…?『好き』…じゃ、ないんだ…」
「彼女がいないなんて嫌だったから蒼乃と付き合い続けた。蒼乃、可愛いし、楽しかったし、エッチも気持ちよかったし。だけど、もうおしまい。」
「なんで…?」
「俺様、地元に戻って家業を継がなきゃいけないんだよね。かすがもそうなんだ。でもって、俺様とかすがは地元が一緒ってワケ。」
「…」
「遊んでるとあっという間にご近所さん達に広がっちゃうからね。たぶん地元に根付いて生きるはずだから、変な誤解は避けたいんだよ。誰か一人を選べってなったら、かすがだな〜ってずっと思ってた。」
「でも…かすがちゃんは…」
「上杉センセにぞっこん、でしょ?そんなの知ってる。だけど、俺様あきらめないから。」
「…」
「まあ、そういうわけで別れてね。楽しかったよ、蒼乃。」
「佐助…私、は…」
「バイバイ。」

今すぐ飛び出してえ。
猿飛に殴りかかりそうになる俺を、小十郎が羽交い絞めしておさえた。

「放せっ!」
「いけません。」
「だがっ…!」

大声になりそうになるのを必死に殺す。
イラつきに任せて小十郎の胸座を掴み上げていると、あちゃ〜と間の抜けた声が聞こえた。

「あ〜…聞こえてた、よね?」
「…猿。」
「竜の旦那に、右目の旦那。イイご趣味をお持ちで。」
「ふざけんなっ!聞きたくて聞いたわけじゃねえ、不可抗力だ!!」
「どうだか。まあ、そういうコトなんで。」
「…アンタ、最低だな。」
「何とでも。」

特段表情を変えずにヒラリと手を振って横を通り抜けた猿飛に腹が立つ。
後ろから跳び蹴りでもくらわしてやりてえが…。
それよりも藤原の方が心配だった。

「…小十郎。悪いが先に帰ってくれ。」
「分かりました。」

律儀に頭を下げた小十郎がドアの向こうに消えた後、俺は藤原がいる方へ向かった。
…何て言われるだろう。
泣いているか?
それとも怒っているだろうか?
少しだけ重い足取りの俺はどんな顔をしていいか考えあぐねていた。

「…伊達君。」
「藤原…」
「聞こえてた?」
「ああ。」
「…へへっ、振られちゃった。」

さっきの猿飛とのやり取りを聞いていたんだろう。
藤原は俺を見て空笑いを浮かべた。
その薄っぺらい強がりすらすぐに引っ込めて空を見上げる。

「…好きだったんだけどなあ。」
「知ってる。」
「だよね?伊達君でも分かるのに、何で当事者の佐助が分かってくれないんだろう。」

俺の返事にクルリと振り返った藤原はおどけたように肩を竦める。

「いや、アンタが猿のことを好きなのはアイツだって分かってただろ。だから付き合ってたんだろ?」
「ふふ、過去形。」
「…悪い。」
「ううん…佐助、最後まで『好き』って言ってくれなかったなあ…」
「…」
「…本当に好きだったんだけどなあ…」
「…知ってる。」
「あー…泣きそう…」
「…」
「ゴメン、伊達君。一人にしてくれないかな?」

歪む顔を隠すように背を向けた藤原の肩が震えていた。
惚れてる女が泣いている。
俺じゃねえ男のことで。
悔しい。
が、可愛い。
支えてやりたい。
後ろから抱きしめてやれば、弱々しく身を捩られた。

「…止めて。」
「顔は見ねえ。」
「お願いだから…。本当に…余裕、ない…」
「泣けよ。」
「…」
「泣いて、すっきりしたら…猿のことなんて忘れろ。アンタ、猿になんか勿体ねえくらいイイ女だぞ。」
「…」
「藤原蒼乃はイイ女だ。」
「…」
「猿のことなんて忘れろ。忘れたら、俺と付き合えよ。好きだ、藤原。」
「…こんな時に告白?伊達男が聞いて呆れる…」
「俺は藤原が好きなんだけどなあ。」
「…」
「マジで好きなんだけどなあ。」

さっき聞いた藤原の言い方を真似してやれば、フッと鼻で笑う気配がした。
角度が深くなった頭が痛々しい。
腕の力を強めると、喉をひくつかせる音が時折伝わってきた。


2016.03.17. UP




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夢幻泡沫