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chanson du thème

 Je regarde seulement vous. 



藤真のこと、好きなんだけど。
ふーん、サンキュ。
なにそのやる気のねー返事。
え、だってお前相手だし。
ひど。で、付き合ってくれんの?
…ま、いいか。



と言うかんじで始まったオツキアイ。
努めて軽く言ったつもりだったが、心臓はバクバクとうるさかった。
スポーツマンの藤真と、いわゆるギャルだった私。
交際が発覚して、自分達の周辺がパニックになった。
教師達からは藤真に『アイツはやめとけ』と何度も忠告され。
藤真ファンからは私に『似合わないのよ』と嫌がらせを受け。
一緒に歩いていればあからさまな悪口。
それでも私は藤真から離れなかった。
だって、藤真さえそばにいれば他に何もいらないんだもん。



藤真はカッコイイ。
美しいという言葉がぴったりな容姿に鍛えられた体。
性格もさっぱりとしていていわゆる『漢』。
口は悪いが優しい。

「俺の周りにくる女ってケバいよな。お前もその化粧なんとかならねえ?俺は嫌い。」

そう言われて、化粧をやめた。

「女が雑な言葉遣いすんなよ。聞いててイラつく。」

そう言われて、言葉遣いを改めた。

「お前さ、俺の試合見に来るのはいいけど分かってんのか?試合が終わって疲れてんのに、意味不明なコト聞かれたら余計に疲れる。」

そう言われて、バスケについて勉強した。
藤真に嫌われたくなくて、藤真の望むような彼女になりたくて、気がつけばどこにでもいるような目立たない存在になっていた。
もともと親への反発…世間で言う反抗期でギャルになっていただけなので、そんな存在になっても私自身に違和感はなかった。
だが、周囲や藤真はとても驚いた。

「…お前、変われば変わるもんだな。」
「そう…?そうね、高校の時だけ見れば驚くかもしれないわ。だけど、中学の友達にしてみれば今の私の方が普通よ。」
「へえ…まあ、俺は今の舞の方がいいと思う。」
「ふふっ、ありがとう。今日ももちろん部活よね?」
「大会が近いからな。…悪い、一緒に帰れなくて。」
「いいの。頑張ってね。」
「ああ。お前は真っ直ぐに帰れよ。」
「言われなくても。心配することないのに。」
「いや、そんなことないぞ。舞が変わってから、男どものお前に向ける視線が増えてるんだ。せっかくお前が男友達やあのやかましい連中と切れたってのに…。フラフラしてないでさっさと帰れよ?」
「はぁい。藤真も怪我しないように気をつけてね。」
「おう。」

クシャリと髪を乱暴に撫でて藤真は綺麗な笑顔を見せる。
そして、バスケ部の仲間たちと連れ立って体育館へと行った。
私だって本当は残っていたい。
藤真の頑張っている姿を見たい。
カッコイイ藤真をたくさん見ていたい。
だけど、藤真が早く帰れと言うなら言う通りにする。
お勉強を頑張るの。
藤真と同じ大学へ行きたいから。



「…なんて、何年たったんだか。」

ひとりで待つアパートに溜息が広がる。
健司は相変わらずバスケ三昧で。
もちろん、そんなところも相変わらず好きなんだけど。
就職してから私達は同棲を始めた。
健司は実業団に入り、私はしがないOL。
体が資本の健司は『休日はゆっくりしたい』とのんびりと過ごしている。
まったりする時間も嫌いではないけど…。

「ドライブとかさ、レストランでビュッフェとかさ…たまにはうんとオシャレして外に出たいなぁ。」
「…それ全部かなえてやるよ。」
「っ…け、健司?」
「ただいま。」
「お…おかえり。ビックリした…」

急に声が聞こえて肩が大きく揺れる。
おそるおそる振り替えてみれば、白い封筒を持った健司がニコリと笑って立っていた。

「姉ちゃんが結婚するんだって。招待された。」
「えっ、お姉さんが!?おめでとう。」
「サンキュ。言っとくけど、舞も招待されてるからな。」
「え…?私も?」
「ああ。姉ちゃんはお前のこと気に入ってるし、母さんも何だかんだ言ってるけどお前のこと気に入ってると思うぞ。舞を招待しても口出ししてこなかったんだからな。」
「そういってもらえるのは嬉しいけど…本当に私が招待されてもいいのかしら?」
「いいんだろ。二人とも参加で返事しとくからな。」
「うん、ありがとう。」
「ただ、挙式は身内だけだって話だから、舞は披露宴だけみたいだぞ。…悪い。」
「…なんで健司が謝るの?気にしないで。披露宴会場で会いましょう。」

健司の身内の慶事に招待してもらえた。
それだけで嬉しくて、健司の彼女だって認めてもらえているようで、ニヤける顔を引き締められない。
そんな私を見て、健司も嬉しそうに笑った。
荷物をおもむろに床に置くと、大股で私に近づいてくる。
何だろうと思って首を傾げて健司を見れば、一気にその顔が視界を覆った。

「…っ、んっ…」
「…はあ…お前、今日はいつもより可愛いな。来いよ…シようぜ。」

止まらないキスの合間に健司が低く艶のある声で囁く。
ほんの少しだけ離れた2人の唇の間の空気が震えているのが分かり、背中がゾクリとなる。
小さく声を零した私に健司は笑みを深めると、また肉食的なキスを繰り返した。



特に夢はない。
だけど譲れないものが一つだけある。
健司の隣。
そこにいるのは私だけ。
そのためだったら、どんな努力だって惜しまない!
がんばれっ、私!!


2015.06.01. UP




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夢幻泡沫