
Main
chanson du thème
Pour la fin du monde …
「別れる。」
そう言われても何とも思わなかった。
「バスケに一生懸命だった寿が好きだったけど…今の寿は怖い。」
「そうかよ。」
ただ『フられる』ことが腹立たしくて舞の背中にある壁をガンと蹴りつければ、膝がズキリと反応した。
「…膝、痛めるよ。」
「もうお前には関係ねえだろ?」
「…そうだね、ごめんなさい。…それじゃ…」
俺の足を避けるようにして、舞は顔を見せずに俺から離れていった。
それからの俺は転落するだけだった。
バスケ部に顔を出さなくなり、碌に授業も出なくなったため成績を落とし、徳男達とつるむようになり。
気がつけば学校でも1、2を争う不良になり、厄介者扱いされるようになっていた。
そんな俺が変わることができたのはやっぱりバスケだった。
安西先生の顔を見たら『バスケをやりたい』という気持ちが溢れ返った。
プライドなんかなかった。
自然と涙が出てきた。
『バスケがしたいです…』
口から零れた言葉にまた涙が流れた。
今の俺はバスケが全て。
バスケ部に…安西先生に恩を返す。
そう思ってた。
県大会が始まり、湘北は順当に勝ち上がった。
決勝リーグまで駒を進め、初戦は海南戦。
そこで懐かしい顔を見かけた。
「…舞?」
「え…?…あ…ひさ、し…?」
驚きに目を大きくした後でおそるおそる俺の名前を口にした女は、髪が長くなり、少し大人っぽくなっていたが…やっぱり俺の知ってるヤツだった。
「おう…久し振りだな。」
「あ…うん。」
「…」
「…その格好…」
「…ああ、バスケ部に戻ったんだ。」
「そう…膝は…?」
「完治してる、だとよ。」
「お医者さんが…?」
「おう。」
「そう…よかった…」
舞の顔から強張りが取れる。
「お前、なんでここに?」
「あ…うん…ちょっと、ね…」
歯切れの悪くなった舞の顔がまた強張る。
「…そろそろ試合でしょ?もう行った方が…」
バカな俺でも分かった。
舞が無理に話を逸らしたことが。
少し気分が悪かったが、舞と別れて控え室に入る。
コートに立ってからは完全に舞のことを忘れた。
チームメイトを、ボールを、ゴールを、試合の行方を…それだけに集中する。
だが…湘北は負けた。
1ゴール差という、チームメイトに声すら掛けられないような悔しい結果で。
あれは桜木が悪いんじゃねえ。
1本…俺があと1本3Pを入れてれば勝てたんだ。
そう思えば思うほど悔しさがこみ上げてくる。
いつもより重い荷物を肩に背負って、いつもより重い足取りで会場を出れば、そこに舞がいた。
端の方で通行人の邪魔にならないように立っている舞がなんでだか明るく見える。
「お…」
「舞さん。」
声をかけようとした俺とは別の方向からアイツを呼ぶ声が聞こえた。
その声に反応して舞が顔をあげる。
そして…笑顔になった。
「宗くん!お疲れ様。」
「うん。応援ありがとう。」
「ううん。接戦だったね。」
「湘北があそこまで粘ってくるとは思わなかったよ。」
「…ひ…湘北の14番、綺麗なフォームしてたね。」
「うん。中学MVPの三井寿だって。なに?俺より綺麗だった?」
「…バカ…宗くんが他の人より努力してるの、知ってるもん。」
「ははっ、ありがとう。舞さん、自分はしないのにバスケに詳しいよね。」
「ちょっと…ね。それにしても、宗くんが喜びをあんなに素直に表現するのって初めて見たかも。」
「あ、見てた?照れるなあ。」
さりげなく舞の手を繋ぐと、海南の7番は歩き出した。
隣には当たり前かのように舞が並んで歩く。
俺は呆然と見ていることしかできなかった。
舞と付き合っていたのは俺が絶頂期だったころ。
あの頃は勉強もそこそこできて、バスケではMVPを取って、舞がいて…。
順風満帆だった。
バスケも舞も本当に好きで…。
俺はこの2つから離れないと思っていたんだ。
ずっと明るい未来が待っていると信じていたんだ。
「くそ…っ…」
道端に転がっている空き缶を思いっきり蹴り上げる。
中身のない空っぽな乾いた音が遠くに響いた。
浮かんでくるのは海南の7番と舞が仲良く歩く姿。
俺が最後に見た舞の顔と違って明るく、可愛い笑顔で…俺じゃない男を見ていた。
…ああ、そうか。
俺はまだ舞のことを…
どこかで好きでいたんだ…
「どうして俺は…」
あの時…舞もバスケも手離してしまったんだろう。
2つとも、とても大切なものだったのに…。
「…く、そ…っ…」
目頭が勝手に熱くなる。
視界がぼやける。
「…舞…」
無意識のうちに声に出ていた名前を耳が拾えば、すうっと透明な線が真っ直ぐに引かれた。
「ちくしょう…」
…今日ぐらいは。
今日ぐらいは…
…泣いても、いい…よな…
2015.08.03. UP
珍しく悲恋に。
哀愁ある背中も似合うね、三井寿。
…ごめんなさい。
← * →
(3/6)
夢幻泡沫