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本当にほしいと思うもの

02



初めは鬱陶しくて仕方なかった絵美だったが、ボディーガードとしての能力はマネジャーが言う通りにとても高く優秀だった。
移動の際は他のボディーガードとタッグを組んで風斗達を囲み。
ソロ活動の時はマネジャー業まで兼任し。
fortteと顔なじみのスタッフとはすぐに仲良くなり。
ファンの子の対応も物腰柔らかにするものだから、『お姉様』と若干倒錯的に慕われ。
絵美本人までプレゼントを貰うようになった。
車を運転すれば落ち着ける滑らかな走りで。
おそらく仕事外であろう料理も、カロリー計算がばっちりな物を用意してくれ。
時には台本の読み合わせまで相手をしてくれる。
いい子がついてくれたなとご満悦のマネジャーに、風斗は心の中で同意したのだ。
いや、ボディーガードとしてだけでなく…
絵美は身贔屓を抜きにしても、仕事はできるし、よく気も付く。
顔立ちも芸能人と言っても通用しそうだし、しなやかに動く肉体はパーツモデルとしても各部分が通用しそうだ。
…何で義姉弟として知り合ってしまったんだろう。
そう思わせるくらい、絵美は風斗にとって魅力的な存在になっていた。

「ごちそうさま。」

アイドルとは言え、育ち盛りの高校生。
ぺろりと平らげた夜食に挨拶をすれば、絵美がにっこりと返す。

「はい、お粗末様でした。」
「姉さん、後で僕の部屋に来てくれる?」
「うわ、風斗ってば大胆!」
「うるさいなあ、オカマは黙っててよ。ね、姉さん。いいでしょ?」
「お子ちゃまのところより俺のところに来いよ、絵美。」
「ほんっとに邪魔!」
「これくらいでキレんなよ、風斗。これだからガキは困るぜ。なあ、絵美?」
「私に振らないで。」
「俺と一晩楽しく過ごそうぜ?蕩けさせてやるから。」

片付けに立った絵美を後ろから抱え、光は低く甘い声を肩越しに耳へ直接送る。
唐突に始まったドラマのようなシーンに、ガタリと椅子を鳴らして風斗はいきり立った。

「なっ!?ちょ、ちょっと!そう言うのは誰もいないところでしてくれない!?」
「あらら。顔、真っ赤にさせちゃってか〜わいい。大人ぶっててもまだまだだな。」
「ほんと、いっぺん死んできて!」
「ガキはほっといてさ…な、絵美?」
「私を遊びで気持ちよくさせるのって、結構テクニックが必要だけど?ひかるんは自信があるんだ?」
「へえ、絵美は遊びでは抱かれないんだ。」
「あのねぇ。私の仕事、忘れたの?」
「仕事ってボディーガードだろ。」
「そ、ボディーガード。だからその手の訓練も受けてるんだって。遊びじゃ感じません。一晩付き合ってもいいけど、作り物の喘ぎでいい?」
「…なら、本物の恋人同士になれば絵美のカワイイ姿を見れるんだな。」
「なれればね。」
「ふうん…じゃあ俺、本気になろうかな。」

クツクツと笑い合いながら至近距離で話をする絵美と光に、風斗は気が気ではない。
ばん!とダイニングテーブルを乱暴に叩いて絵美達の空気を壊すと、ぎろりと睨みを利かせる。

「…姉さんの淫乱。」

呆気にとられて目を丸くする絵美にべっと舌を出して、風斗は足音荒くリビングを出ていった。

「あーあ。マジでお子ちゃまだよ、あいつ。絵美、嫌われちゃったな。」
「ひかるんのせいでしょ。」
「珍しいぜ、風斗がこんなに誰かを気に入るなんて。」
「そうなの?」
「俺達の中で『兄さん』なんて呼ばれてるのは琉生ぐらいじゃないか?大抵、ガキくさいあだ名で呼んでるだろ。妹サンだって『バカ女』呼ばわりじゃん。」
「絵麻の事、そんな風に呼んでるんだ…。ふうん…」
「あんたの前じゃ言わないんだ?ますます気に入られてるね。あれだろ?好きな女にはカッコいいところ見せたいって言う、あの年頃特有のケナゲな男心ってやつ。」
「ムダに背伸びしてて可愛いじゃない。」
「それ、風斗に言ってやるなよ?余計に拗ねるぞ。」

ケラケラと笑う光は、未だに絵美の後ろから腰に手を回したままの状態でいた。
そんな彼を引きずるようにしてキッチンに汚れ物を運ぶと、洗剤をつけたスポンジを光の手に持たせた。

「風斗を怒らせた罰。綺麗に洗っておいてね。」
「おい。」
「私、風斗のところに行くから。」
「俺は?」
「『ひかるん』って呼ばれてる間はムリじゃない?」

じゃあね、と絵美は光とシンクの間から華麗にすり抜ける。
眉を寄せた4男にヒラリと手を振ると、絵美はリビングから出ていった。


2017.04.24. UP




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夢幻泡沫