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それは、甘い
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今日のメインイベントその1。
買い物に行きましょうの巻。
…だけど、その前に外出できる服装を用意しなきゃどこにも行けない。
というわけで、私は前田さんと近所のディスカウントスーパーへ向かっている。
何で前田さんかって?
子供達はまず除外。
当然、猿飛佐助は拒否。
片倉さんは梵天君と残ってた方が安心じゃない?
あと、他の人達の監視も期待して。
そうすると、残りは長曾我部さんか前田さん。
どっちでも良かったんだけど、長曾我部さんが袴スタイルなのに対して前田さんは着流しスタイルだった。
世間的に前田さんの方がまだ注目度が低いとふんで、私が指名した。
お庭用のサンダルは着脱しやすいように男性用を使っているから、ちょっと合わないけどそれを履けばいいかなって。
先にルールを予習している人がいれば全員で出かけた時に少しは楽だよね、って打算も含まれているのは内緒。
「まりちゃん、まりちゃん!今、通り過ぎたのは何だい?随分と早い箱だね〜。」
「あれは車と言います。自分で動かすことのできる駕籠みたいなもの…と言えばいいんでしょうか。出すスピードによっては馬より速くなります。」
「すぴいど?」
「速さ、速度のことです。」
たどたどしいカタカナ言葉、かわいい。
「まりちゃんは、その車とやらは持ってないのかい?」
「今のところ必要ないので持つつもりはないですねぇ。車本体も高いですけど、維持費も結構かかるらしくて。電車やバスで十分です。」
「でんしゃ?ばす?」
「公共交通機関です。規定料金を払えば目的地まで運んでくれるんです。機会があったら乗ってみますか?」
「うん!」
「分かりました。それで、車なんですけど。あれだけ速いスピードを出せるので、ぶつかったら大変なことになってしまいます。これから道を歩く時は気をつけてくださいね。」
「ふーん。じゃあ、俺がこっち側。」
「え…?」
「ぶつかったら危ないんだろ?それなら俺が車側を歩けば、まりちゃんは少しは安全だよね。」
…おっと。
外見だけじゃなくて、中身までイケメンときたかぁ。
ポカンとしてしまった私に、前田さんは不思議そうに首を傾げた。
「ん?俺の顔に何かついてるかい?」
「あ…いえ、ありがとうございます。」
「女の子は大事にしなきゃね〜。」
ん…?
チャラ男なだけ?
私の中でぐっと上がっていた前田さんのイケメンメーターが下がってしまったよ。
「…えぇと、前田さん。少しお聞きしたいことがあるんですけど。」
「何だい、何だい?何でも聞いてくれよ。…でも、その前に。」
「え?」
「『前田さん』なんて堅苦しいのは止してくれないかい?『慶次』でいいからさ。あと、その話し方も。子供達に話すようなかんじで頼むよ。」
「え、でも…」
「頼むよ、まりちゃん!俺、堅苦しいの苦手なんだ!」
でもなぁ。
男の人を呼び捨てって苦手なんだよねぇ。
「なっ、まりちゃん?」
「…じゃあ、『慶次さん』で。ごめんなさい、呼び捨てって苦手なんです。」
「う〜ん…なら、せめて話し方だけでも!なっ!」
「あははっ、どれだけ苦手なの?」
「うん、うん。女の子は笑ってる方が可愛いよ。」
…うん、慶次さんはやっぱりチャラ男だね。
でも、まぁ。
ニコニコと笑っている慶次さんが嬉しそうだから。
いいかな。
「それで、聞きたいことって何だい?」
「あ、うん。慶次さん達の世界では、お食事っていつだった?」
「食事?朝と夕の二回だけど?」
「そっか。」
「ここは違うのかい?」
「こっちは朝、昼、夜の3回だよ。でも私、基本的にお昼は留守にすることが多いから慶次さん達に合わせよう。」
「え、昼に留守ってどこかに出かけるのかい?」
「あぁ、うん。働いてるから、一応。明後日から日中はいなくなるから、みんなだけで過ごしてもらうようになるかな。」
とても、とぉっても心配だけど。
「あと、これは単なる好奇心だから答えたくない時は黙秘でいいんだけど。」
「うん?」
「慶次さん達は日中に何をしてたの?年がら年中、戦をしていたわけじゃないでしょ?」
「うーん、そうだなあ…鍛錬や学問なんかをやらされてたよ。」
「やらされてた?」
「あ、なにその不思議そうな眼は。こう見えてね、俺だって小さい頃は前田の跡取りだったんだよ。でも俺さ、窮屈なのが嫌なんだよねー。だから利に押しつけて、全国を好きに渡り歩いてるってわけ。」
「あぁ…前田利家?」
「おっ!知ってるのかい?」
「知ってる知ってる、とても有名。慶次さんも有名だよ、『天下一の傾奇者』って。」
「いいねえ、それ。風来坊よりそっちで呼んでほしいな。」
「慶次さんの小さい頃ってことは、弁丸君や梵天君や松寿君もそう?」
「そうなんじゃないかなあ。元服を済ませると、城勤めが主になるんじゃない?そうなったら俺にはよく分からないや。」
苦笑しながら頭を掻く慶次さんと話しているうちに、目的地に着いた。
近所のディスカウントスーパーを侮るなかれ。
食材から日用品まで何でもそろっている上に、お手頃な値段なんだから!
開いて間もない店内では朝市をやっている食材フロアは混んでいたが、そのほかは人がまばらだった。
とりあえずの洋服があればいい。
外を歩いても平気そうなものを、慶次さんを基準に選ぶ。
たぶん、慶次さん、長曾我部さん、片倉さんは同じサイズで大丈夫だと思うんだ。
彼らより細身の猿飛佐助は1サイズ下で。
子供達はメジャーで測った身長のサイズ。
身軽な服装だから、足元はクロックスもどきでいいや。
選んだものを籠に次々と入れ次のコーナーへ行こうとしたら、床に置いといた籠が目の前で持ち上がる。
「え?」
「うん?これ持ってくんだろう?俺が持つよ。」
…なんてスムーズなんだろう。
チャラ男って言うよりフェミニストって言った方がいいのかな?
「ありがとう。」
医療コーナーで眼帯を2箱買ってお会計へ。
こんなところで無駄遣いなんてしてられない。
でも、これだけでも結構いい値段するんだね…。
買ったものを袋にせっせと詰めて、さぁ帰ろうかと声を掛けると手を伸ばす前に袋が取られた。
「あっ、また。1つくらい持つ。」
「こんなの持ったうちに入らないって。軽い軽い!屋敷に帰ろう、まりちゃん。」
「…屋敷じゃなくて家ね。」
『帰ろう』の言葉に、ほんの少し近づくことができたような気がした。
2017.08.14. UP
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夢幻泡沫