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それは、甘い
12
「というわけで、これが私たちの普段着ている着物です。」
「へ〜、随分と軽そうだね〜。」
でしょうね。
だって安価だもん。
人目さえ気にならなければどうでもいいもん。
「これは急揃えのものですから。服とか洋服とかと言います。」
「俺達のとはだいぶ違うな。」
「そうですね。体の線に合わせてサイズが決まっていますので、今は私が渡したものを着てください。」
「さいず?」
「大きさのことです。これを着て、みなさんで出かけましょう。そこで必要なものを自分で選んでください。」
「いいのか?」
「はい。ただし、上限はつけさせてもらいます。」
お金は無限じゃない。
そして私はしがない社会人。
贅沢はできません。
「ああ。」
「理解していただきありがとうございます。着物を着ている人もいなくはないのですが、とても少ないんです。これだけの人数が着物で歩いていたら、悪目立ちします。」
とくに片倉さん。
なぜかまでは言わなくても…ねぇ?
警察に見咎められても困るし。
「本当だよ。俺だけでもよく見られてたから。」
「やっぱり居心地悪かったよね。ごめんなさい、慶次さん。」
「いや、まりちゃんは気にすることないよ。」
「ありがとう。」
「んあ?『慶次さん』?」
「あ!元親、気がついた?」
…こんなとこ、気がつかなくていいんだけど。
なんでそんなに驚いてるんですか、長曾我部さん。
なんでそんなにニヤついてるの、慶次さん。
うわぁ、長曾我部さんがすっごい渋い顔してる…。
「そうなんだ、まりちゃんに慶次って呼ぶようにお願いしたんだ。」
「…ふうん、なら俺は『元親』だな。な、まり?」
「あ…いや、その…」
「慶次がよくて、俺が駄目なわけねえよな?まり?」
「…うぅ、『元親さん』で。」
「まあ、いいか。」
にっと笑って満足そうにしないでください、元親さん。
男の人の名前呼びって慣れないんです。
私のわざとな咳払いに、慶次さんと元親さんは笑みを深くした。
「…ごほん。では、着方を説明します。弁丸君、こっち来てくれる?」
「なんで ござろう?」
「ん?お手本になってもらうんだよ。」
何の疑いもなくトコトコと側に来てくれた弁丸君の帯に手をかける。
「待って!弁丸様に何しようとしてんの!?」
「…お手本だと言ったはずです。」
「そんな勝手に…」
「弁丸君。みんなの前でお手本になってもらってもいい?」
「かまいませぬ。」
「弁丸様!そんな簡単に承知しないで〜!」
ほら、ね。
弁丸君はお利口さんなんだからあんたは黙ってなさいよ、猿飛佐助!
ふふん、といい気になって帯を解いた。
着物を脱がせて絶句。
「…そっ…か…ふんど…」
「鈴沢っ!慎みを持てっ!!」
「…」
「てめえは女だ!女が話題にしていいものじゃねえ!」
「…それなら、何と言えば…」
「言わなくていいっ!大体てめえはそろそろ嫁入りする年頃だろっ!?そんな女が何人もの男を屋敷に連れ込むこと自体がそもそも間違ってるんだっ!!」
「…色々と言いたいことはあるんですけど、とりあえず嫁入りにはまだ早いので。」
「は?むしろ遅いぐらいだろう?」
「…片倉さん、ゆっくり話し合いたいところですが…私ぐらいの女の人に年齢の話をしたら地雷だと思った方がいいですよ?あ、地雷って分かります?地面に埋める爆弾のことなんです。敵に覚られないように埋めておくんですけど、それを知らずに踏んだら…ふふ、どうなっちゃうんでしょうねぇ?」
「っ…」
今更しまったって顔しても遅いっ!!
一体いくつに見えてんだか知らないけど、失礼しちゃうっ!!
ひくつく口端を意地で上げてにっこりと笑ってあげれば、気まずそうに視線を逸らされた。
「ぐしゅんっ!」
「あぁっ、弁丸君ごめんね!下着は買ってくるのを忘れちゃったから、褌で…」
「鈴沢っ!」
「何か?」
「…なんでもねえ。」
「下着は後で買いましょう。着てもらうのは、これとこれなんですけど…」
自分の右側にシャツ、左側にズボンを並べて置いといたものを指しながら説明する。
「シャツは頭から被るように着ます。弁丸君、ばんざぁい!」
「ぅおおやかたさまぁああっ!!」
何っ!?
というか、誰っ!?
いきなり叫んだ弁丸君にビックリしつつもスポンと頭を通す。
「それで、ここに腕を通せば上は着られます。次に下は袴と同じ要領で足を通せば大丈夫です。はい、弁丸君。私の肩を掴んでいいから、片方ずつ足を通して。」
「わかりもうした。」
「最後にここのチャックをジーっとあげて、ボタンを閉めればオッケーです。」
「おっけえ?」
「えぇと、『いいよ』とか『分かった』とかいろんな意味があるんですけど…。」
「着替えが終わりってことだな?」
「そうです。はい、弁丸君。出来上がり!」
「ありがとう ございまする!」
「うっわぁ!可愛い、可愛いっ!!」
「お… おのこに むこうて、 か… か、 かわいい などっ…」
「あとで写真撮らせてね!」
「しゃしん とは?」
「人を写す時は肖像画みたいなものかなぁ。あ、そうだ。男の人はチャックで挟むとかなり痛いらしいですから、気をつけてくださいね?」
「何をだ?」
「ナニでしょうか…?」
「鈴沢っ!!」
ヤバいっ、片倉さんの顔が赤くなってる!
いそいで退散しなきゃ。
みんなに洋服を分配してから慌てて立ち上がる。
だけど袋に残っている箱が見え、気持ちが少し重くなった。
…今は、無事に買い物へ行けることを願う。
2017.09.18. UP
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夢幻泡沫