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それは、甘い

13



「じゃあ、私はいったん上にあがってます。…片倉さん、ちょっといいですか?梵天君もいいかな?」
「あん?」
「…」

袋を持って、そのまま黙って自分の部屋に向かう。
誰も入らないように言ってあるから、きっとここが一番いい。
さっきのやり取りの余韻からか、睨んでくる片倉さん。
それと、黙ってついてくる梵天君。
…梵天君って、子供なのに静かだよね。
感情をあまり見せないっていうか。
素直な弁丸君や、分かりづらいけれども松寿君は、子供らしい反応を見せている。
でも梵天君は、冷静なのか、隠しているのか、押し殺しているのか。
まだ警戒すらといてもらえてない感じ。
そんなことを考えながら、2人の前に買ってきた箱を出す。

「これ、この世界の眼帯です。梵天君がつけてる眼帯もかっこいいんですけど…きっと悪目立ちします。替えられるようなら替えてください。」
「…」

あぁ、そんなにビクつかないで。
その態度だけで悲しくなっちゃうから。
明らかに強張っている梵天君に箱を渡せば、小さな手が震えていた。

「…てめえ、梵天丸様の右目のこと…」
「言いましたよね?梵天君も片倉さんも、私達の過去でもとても有名な武将なんです。」

だから、知っています。
隠された眼帯の下を。
その原因とそこから起こってしまった結果を。
何を言いたいのか感じ取ったのか、片倉さんの視線が鋭さを増す。
刺さるようなそれに射抜かれる感覚に、背筋が冷える。

「約束します。梵天君が嫌な思いをするようなことはしません。」
「…」

それでも伝わって。
私はいたずらに傷つけたいわけじゃない!

「それに梵天君の右目は…」
「…っ!!」
「片倉さんでしょう?」
「はっ…?」

予想外のことを言ってしまったのか、片倉さんが間抜けな声で反応した。
あれほど鋭かった瞳も、反動を受けたかのように見開かれている。

「違うんですか?」
「…そうだ。おれの右目は小十郎だ。」

…よかった。
しっかりした声に。
言い切った言葉に。
真っ直ぐ私を見る左目に、心が熱くなった。

「そうだよね。梵天君、使い方を説明するから箱を開けるよ。」

驚いて固まっている片倉さんの横で、私は淡々と梵天君に使い方を説明する。
真剣に聞いている梵天君。
幼い彼の強さが逞しい…けれど、哀しい。
ここにいることで、少しはほぐれるといいんだけどなぁ。

「無理強いはしないからね。絶対替えなきゃいけないものじゃないから。」

小さく頷いた梵天君はしっかりと箱を持つ。

「分かった。小十郎、行くぞ。」
「…」

先にドアに向かった梵天君が開ければ、ちょうど元親さんが着替えて下に行くところだった。
ナイスタイミング。

「元親さん、ちょっと。」
「おう、何だ?」
「…」
「まり?」
「…かっこいいですね。え、安物をそこまで着こなすって…ちょっとムカつくかも…」
「…呼びつけておいてそれかよ。でもまあ、褒め言葉として受取っておくぜ。ありがとな。それで、何だよ。」
「あぁ、そうでした。これ。」

そう言って箱を差し出すと、色々な方向から眺めている。
だけど、『眼帯です』の言葉にその動きがピタリと止まった。

「…お前、この目のこと…」
「え、怪我してるんですよね?だから眼帯してるんじゃないんですか?」

長宗我部元親が隻眼だなんて聞いたことがない。
だからたまたま怪我をしているのだろう、と勝手に予測して。
首を傾げながら言った私に、元親さんはぎこちなくこっちを見た。

「あれ?違うんですか?」
「…」
「まぁ、とにかく。折角こっちの世界に合わせた服なのに、その眼帯だと悪目立ちのままなんです。無理にとは言いませんので、替えられるなら替えてください。説明します?」
「…ああ。」
「気分を悪くさせちゃったのなら、すみません。元親さん、ただでさえイケメンなんですよ。だから、少し派手なだけですっごく目立っちゃうと思うんですよね。」
「…いけめんって何だ?」

あれ?
そこに引っかかる?

「イケメンっていい男の人のことですよ。男前ってことです。」
「…お前はいい女だな。」
「え?」
「まりはいい女だ。」
「…どこがですか?可愛くもなけりゃ、綺麗でもない。仕事ができるわけでも、得意な事があるわけでもない。そんな私のどこが…」
「は?お前、充分可愛いだろ?ここの女の基準がどれくらいか知らねえけど、俺ん中じゃ相当可愛いぞ?」
「…出会いがなかったんですねぇ。」
「何で俺が哀れまれてんだ!?お前は可愛い、あまり己を卑下するなって。」
「…」
「可愛い、器がでかい、優しい…充分だろ。まりはいい女だ。」

な、と元親さんの大きな手が頭を撫でる。
え?
何で私が慰められてるの?
と言うか、すっごい恥ずかしいんですけど…

「大丈夫か?顔が赤いぞ。」
「…元親さんのせいです。」

悔しい。
力を入れてないグーパンを彼の胸の辺りに繰り出せば、痛えなんて笑いながらどかされた。

「これ、ありがとな。つけ方、教えてくれ。」
「…はい。」

私がいい女だなんてウソ。
仮にそうだとしても。
元親さんの方が…何倍もいい男だ。
だって、元親さんはきっと分かっている。
私が目のことに触れてしまった後悔と、それでも話さなきゃいけない葛藤を。
だから、これ以上空気が重くならないように話題をすり替えてくれた。
後ろを向いて付け替えた元親さんが、振り向いてニッと笑う。
梵天君の静かさに。
元親さんの優しさに。
武将達の強さに。
おそらく、これから…惹かれるだろう。
たぶん、確実に。


2017.09.25. UP




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夢幻泡沫