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それは、甘い

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世の中って不公平なんだなって思いました。
なんですか、このイケメン軍団。
大量生産の安物でどうしてここまで輝けるんですか?
あぁ、そうですか。
素質がいいと、何でも着こなせるんですね。
現代人、ビックリですわ!!
それともこのイケメン軍団の世界の基準がコレですか!?
なんて思いつつ、着替え終わったイケメンズをじっくりと眺めまわす。
居心地が悪いのか視線をうろつかせる大人組と違い。
子供達は『似合う?ねぇ、似合う?大丈夫かな?』と心配半分期待半分の目で見つめ返してきた。
そんなきらきらな瞳の子供達を並べて、写真を撮り続けていたら呆れられてしまった。
いや…引かれた?
だって可愛いんだもんっ!
可愛いは正義っ!!
同じデザインを買って正解だったわ。

「…鈴沢、顔が歪んでおるぞ。」
「歪ん、でっ…ひどい、松寿君!」
「変な顔をするでない。」

隣を歩いていた松寿君が憐れむような目で私を見る。

「ところで、鈴沢。あれはなんぞ?」
「うん?あぁ、あれは信号機だね。」
「しんごうき…」
「車と人がぶつかってしまったら大変なことになるって、家を出る前に説明したでしょ?」
「うむ。」
「だから交代で道路を渡れるようにしてくれる機械なんだよ。青は渡りましょう。赤は止まりましょう。」

ちょうど信号が赤になったタイミングで止まれば、松寿君がふむと言いながら私の横で同じように止まった。
松寿君はホントに頭がいい。
たぶん、私が言ったことは1回で覚えてしまっているんじゃないかな。
後ろに続いているイケメンズにも同じような説明をして、信号が青になるまで待つ。
たぶんこれまでは道を譲る必要がなかったと思う彼らがおとなしく待っていることが、少しおかしかった。

「ふふっ。」
「…何ぞ?」
「えらいなぁと思って。今まで人に何かを譲るってことがあまりなかったんじゃないかなぁって考えたら、こうやってみんなで順番を待っているのがちょっとだけおかしいなって。」
「ふん。互いであれば諍いが起きぬであろう。合理的な考え方よ。鈴沢、青になったぞ。進まぬのか?」

目につくものを片っ端から質問する彼らを連れた先は、歩けるギリギリの範囲の大型モール。
やってきました、メインイベントその1。
ホントはバスで楽に行きたかったんだけど。
初外出からそれだと、ねぇ?

「…ここは城か?」
「いえ、商業施設です。商いが行われているところ…市のようなものです。」
「でっけえな。」
「大きいですね。着物や日用品から食料品まで何でも揃えることができるのですが、ここでは洋服と履物とお布団と日用雑貨を買います。」
「おいっ、まりっ!!今、透明な扉が勝手に開いたぞっ!?どうなってんだ?」

目敏いなぁ、元親さんは。
だけど、申し訳ない。
ビックリするのは分かるけど、静かにしてほしい。

「あの扉も機械です。人に反応して自動的に開くようになっています。」
「分解していいか?」
「ダメに決まってるじゃないですかっ!…と言うように、家の中以上に機械がたくさんあります。もう一度言いますが、私達の世界ではこれが普通なんです。驚くな、とは言いません。でも、できるだけ静かにしてほしいんです。じゃないと、ほら。」

そう言って周りを見渡せば、ちらりちらりと不快な視線が刺さってくる。

「…悪ぃ。」
「いえ、初めに注意しなかった私のミスです。でも、もう注意しましたからね。慌てず、騒がず、落ち着いて。よろしくお願いします。」

神妙に頷くいくつもの頭を見ながら、私の頭は痛んだ。
もうすでに目立ってるよ…。

「さぁ、行きましょう。」

ウィーンと開いたドアにおっかなびっくりなイケメンズ。
途中で閉まってきた時にはすごく慌てていて、思わず笑ってしまった。

「笑わないでよ〜。」
「ごめんなさい、慶次さん。さっき行ったところでは問題なかったのに、ちょっとタイミングが合わなかったのかな?早く慣れるといいね。」

第一関門は無事クリア。
さて、目的地はどこかと案内板を確認して。
頭痛が増した。
3階にある、そこ。
階跨ぎってことは、第二関門もあるってことで…。
遠目に見えるそれに思わずため息が出た。

「さすけっ! みはしが うごいて おるっ!!」
「えっ、これも機械?それとも妖術!?」
「分解してもいいかっ!?」
「…何でもかんでも分解しようとしないでください、元親さん。」
「だってよう、まり。こんな大掛かりな絡繰が目の前にあったら、分解してみたくならないか?」

うん、それは元親さんだけだと思います。

「これは何ぞ?」
「エスカレーターと言います。見ての通り、自動…機械で動かしている階段です。」
「危なくねえのか?梵天丸様にもしものことがあれば…」
「少しコツが要りますけど、慣れてしまえば、ほら。」

私が差した先には、小さい子がお母さんに手を引かれて上手に乗っていた。
その後にはお兄ちゃんだろうか、小学生くらいの子が一人でポンと続く。

「大丈夫でしょう?」
「だが…」
「…小十郎、おれは乗るぞ。」
「さすけっ、 それがしも のるで ござる!」

やっぱり子供って好奇心の塊なのかなぁ。
弁丸君も梵天君も目が輝いて見える。

「俺も乗るぞっ!」

いや、そこで張り合わないでください。
元親さんの目が一番輝いてるって、どういうこと?

「慶次さん、元親さんと先頭でお願いします。元親さん、黄色く縁取られている中に立ってください。そうすれば、あとは勝手に上まで運んでくれますから。」
「おう。」
「慶次さんは経験済みだから、大丈夫だよね?」
「うん、今度は見てなって!」

なんだかんだ言いながら、ぎこちない動きながら、元親さんは1回で乗れてるわ。
梵天君も片倉さんに支えられながら乗ったし。
弁丸君は猿飛佐助に抱っこされて、乗った後に下ろされた。
片倉さんも猿飛佐助もすぐ下の段に降りるって…やっぱり主従関係って生きてるんだぁ。
まぁ、私も上司より上の段なんて乗れないけど。

「松寿君、お待たせ。行こうか。」
「…」
「松寿君?」
「…な、何度も呼ぶでないっ!」
「手ぇ繋ぐ?」
「ふんっ…繋いでやらぬこともないわ。」

そう言って松寿君が握ったのは、私の指先。
予想以上に強い力に、にやける頬を隠すのが大変だった。
…乗った途端に離されちゃったけどね!


2017.10.02. UP




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夢幻泡沫