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それは、甘い
16
お買い上げと同時にタグを切ってもらい、その場で履きかえる武将ズ。
それを尻目に合計金額に目を丸くする私。
いや、覚悟はしていたよ?
していたけれど、実際目にすると威力がハンパない。
思わず店員さんの顔を見つめて『ホントですか!?』と無言で確認する。
数秒後、お互いが苦笑した後で私のカードが鳴いた。
…全員なんとか靴を手に入れたところで。
次は子供達の洋服をゲットすべく、キッズ専門店へ移動する。
この年でまさかもう子供服のお店に入るとは思わなかったよ…。
店内に入ってみれば、お父さんも結構いる。
最近は親子連れが多いのかなぁ。
なのに、お母さん達の視線はあからさまにこっちを見ている。
…お父さん達、ファイト。
「弁丸君、梵天君、松寿君。このお店であなた達の着るもの一式全部揃えるからね。」
「かたじけないっ!」
「この数字…あぁ、南蛮の文字なんだけど。この数字が表示されているものがぴったりのサイズだから。デザイン、うんと柄?で気に入ったのがあったら、この数字が書かれているか確かめてね。」
「分かった。」
「そうだなぁ…上も下も3、4着ぐらいずつ選んで、この籠に入れて持ってきてね。ここでも分かれる?」
「鈴沢は我と来い。」
「…松寿君。人にものを頼む時は『来てください』『お願いします』をきちんと言いなさい。」
たぶん、そんなことは躾けられていないだろう。
国主の息子だもんね。
だけどここではただの人。
むしろ養っていくのは私だし。
今まではスルーしたけど、もうしない。
何事も初めが肝心だよね。
「…」
「松寿君?」
「…」
「…はぁ。あ、みなさんどうぞ探してきてください。」
サイズを書いたメモを弁丸君と梵天君に渡す。
従者を引き連れていく姿はとても楽しそう。
「あれ?慶次さんと元親さんは行かないんですか?」
「あ〜…俺達がこん中を見て回ってもなあ。」
「それもそうですね。そしたら、一つお願いしていいですか?」
「おう。」
「靴下を見繕ってきてほしいです。これが書いてあるものをいくつか選んで、持ってきてもらっていいですか?」
「ああ、任しといて。元親、行こうか。」
「おう。行って来らぁ。」
「お願いします。」
2人も行き、周りに誰もいなくなったところで松寿君と向き合う。
不貞腐れているような、拗ねているような、憤りを感じているような。
複雑な、でも決していい顔ではない松寿君は冷たく私を見た。
「…私が言いたいこと、分かる?」
「分かる必要もないわ。貴様は我の言う通りにしておればよいのだ。」
「あなたの国ではね。あなたの世界の安芸の国でならそれも通用するだろうけど、ここは違うから。ここはあなたの国じゃない。」
「…」
「ここでは、あなたは自分の力では生きていけない。違う?」
「…」
「だから私は松寿君達の面倒を見ることにしたの。あなたは面倒を見てもらっている立場。偉そうにできないの。分かる?」
「…」
「一緒に生活していくからには楽しく過ごしたいの。だから、あなたのその態度は許さない。自分で何もできないくせに、人に命令するんじゃない。何かしてほしい時は、素直にお願いしなさい。…分かった?」
「…なぜ、我が…」
「あっそう。なら自分のお金で洋服買えば?自分のお金でお家でもお城でも用意したら?食べ物も飲み物も自分で用意したら?」
「そのようなこと、我が…っ…」
「出来ないんでしょう?…だからお願いするの。」
「…」
「いいのよ、まだ子供なんだから。出来なくて当たり前。少しずつ出来るようになって、大人になっていくの。それに、ここはあなたの知らない世界。だから知っている人にお願いして、知識を吸収すればいいのよ。分かった?」
賢い松寿君なら分かるよね?
そう言ったら、無言で小さく頷いた。
「ん、分かってくれてありがとう。じゃあ松寿君のお洋服、探しに行こう。」
「…松寿でよいわ。」
「え?」
「まりなら松寿と呼んで構わぬ。」
「…ふふっ、ありがとう。松寿。」
「ああ。」
「松寿。」
「何ぞ?」
「松寿。」
「だから、何ぞ?」
「何でもない。嬉しくて、呼んだだけ。」
「…貴様は大人ではないのか?」
呆れたような目で松寿が見上げてくる。
分からないかなぁ。
松寿って呼ぶ。
それがこんなに嬉しいのに。
「着物を買うのであろう?行くぞ。」
「はぁい。」
2人で並んでトップスコーナーへ行く。
「さすけっ、 これも!」
「はいはい。」
「あれも ほしいっ!」
「はいよ〜。」
「その うえも だっ!!」
「…弁丸様、こんなにはきっと無理だって〜。」
「小十郎、これでいい。」
「梵天丸様、まだ一着しか決めておられませぬが…」
「ああ。」
「鈴沢は三、四着ほどと申しておりました。」
「仕方ないだろ、ほかに着たいと思うものがない。」
「梵天丸様…」
…あそこの仲間入りはしたくないなぁ。
「まり、どうしたのだ?」
「…何でもないよ。松寿、好きなの選んでいいから。奥にも陳列されてるから、見たかったら教えてね。」
「なれば、まりがいいと思うものを先に選べ。その中で我が決めようぞ。」
「あ、その手でいく?いいかもね。」
「…っ…のむ…」
「ん?なぁに?」
「よ…よろしく、頼む。」
「もちろんっ!!」
あぁ、なんて可愛いのっ!
松寿はいい子っ!!
2017.10.16. UP
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夢幻泡沫