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それは、甘い
19
慣れないことはするもんじゃないと肝に銘じた。
軽トラの座席部はありがたいことにベンチ式になっていたので、子供達3人は問題なく乗れた。
のだけれども…。
車幅がうまくとれない。
女と子供だけ乗っている状態を物珍しげに見て、あまつさえ煽ってくるし!
外輪や内輪も危なかった。
おまけに、やっぱり家の前の路地が狭かった。
ワゴンは運転したことがあるし大丈夫でしょ!なんて余裕をかましていた自分を呪いたい。
それでも。
子供達は初めての車に興奮を隠せない様子で質問をしてきたり。
流れる外の景色に目を輝かせたり。
カーナビやレバーをいじろうとしたり。
…いちばん年上であろう松寿を隣に座らせて正解だった。
梵天君がそろりと伸ばす手をことごとくはたき落してくれてたよ。
助かった。
まぁ、とにかく。
乗車を楽しんでくれていたようでなによりだね。
荷物を各部屋にぶち込んで、干しておいた布団を取り込んで、急いで戻ってきてみれば…
「お兄さん達、イケメンぞろい〜。私達と遊びませんか〜?」
目的のテーブルは女の子の集団に囲まれていました。
何だろうね、この気持ち。
この、モヤモヤとした気持ちは。
「…あ奴等は何ぞ?女がみだりに男に近づきおって。はしたない。」
うん。
確かにその通りかもしれないんだけど…
松寿よ、きみは一体いくつなんだ?
「あれは逆ナンって言ってね。こっちでは女の子から男の人にアプローチかけるのもアリなんだよ。」
「あぷろおち?」
「うんと、相手に自分を売り込む?みたいな…えぇと、『あなたに興味があります、一緒に過ごしてみませんか?』みたいな?要するに、お誘いだね。」
「小十郎が誘われてんのか?あの顔で?」
「…梵天君って結構辛辣だねぇ。でも、片倉さんイケメンだよ?男前。他の3人も。あの子達が近づくのも分かる。」
「まり、あそこに行かぬであろうな?」
「行かない、行かない。自ら問題事に突っ込んでどうするの。でも遠目に見てる分には面白いから、ちょっと観察してようか。」
というわけで、子供達にはジュースを買い少し離れた席に座る。
荷物運びのお手伝い、頑張ってくれたもんね。
ずっと歩き通しで疲れたもんね。
たぶん、この子達は精神的にも疲れているはず。
異なる世界に来てしまって、見ず知らずの女と一緒に過ごさなきゃいけないのだから。
相当不安になっているはずなのに、それを口に出さないで耐えている。
ホント、いい子達。
果汁を飲む習慣があまりないのか、物珍しい様子で一口ずつ味わうように飲んでいる様子に目が細まる。
そして、別の意味で細まった目を大人組に向けた。
「あの子達、頑張るなぁ。」
強引に隣の席に座った子達が相変わらず、遊びましょうよ〜と甘ったるい口調で4人を誘っている。
「…あいつら、母上の侍女みたいだな。かしましくて頭が痛くなる。」
「侍女?」
「知らないのか?」
「いや、知ってるけど…。どういうこと?」
「父上のご関心をひけば、うまくしたらお手付きになるかもしれない。だから、厚く白粉をぬりたくって、はでな着物で着かざって、われさきにと競う。そのくせ、母上のお気持ちをそこねないために一致団結しやがる。…女は嫌いだ。」
…おぉう、まだ子供なのに。
吐き捨てるような言い方に若干引いてしまったではないか。
「…そうだね、見ててもあまり楽しいものじゃないね。あっち行く?」
「…困ってる小十郎はめったに見れないから、まだいい。」
「さすけは うれしそうで ござる。」
「だね。あの様子だと、猿飛さんがあのお姉さん達の誰かにお世話になるってこともあり得るかも。そしたら弁丸君もついてっちゃうのかなぁ…。」
それは淋しい。
猿飛佐助はむしろどうぞって感じだけど。
弁丸君がいなくなるのはとっても淋しいなぁ。
なんて思っていると、左腕にぐっと重みがかかった。
何事かと見ると、弁丸君が両腕で抱きついてきているじゃないですか!
どうしたの!?
「それがしは まりどのの ところに いとう ござるっ!」
「あ…」
「それがし、 めいわくを かけて おりますか? なれば、 めいわくを かけぬよう つとめまするっ! まりどのの おやくに たてるよう はげみまするっ!!」
「ごめんね。そんなつもりで言ったんじゃなかったの。」
「…まりどのは それがしが …いない ほうが よろしゅう ござるか?」
「そんなことないっ!弁丸君がいてくれた方が嬉しいに決まってるでしょ!そのままの弁丸君にいてほしいっ!!」
懸命に訴えてくる姿に反省。
こんな小さな子を不安にさせてどうするの。
慌てて弁丸君の頭を乱暴なくらいに撫でると、ほっとしたようにジュースをまた飲みだした。
前の椅子に腰かけている、目が揺れてしまっている2人にも同じように撫でる。
「もちろん、梵天君も松寿もいてくれなきゃイヤよ!」
「…ああ。」
「…居てやるわ。」
硬くなった体から力が抜ける。
小さな体を強張らせるくらい残酷なことを言ってしまったのだと猛省。
…もしかして。
「向こうの人達も…」
「前田はあの状況を喜んでおろう。」
「さすけも、 で ござるな。」
ですよねぇ。
あぁ、またこみ上げてきたこの気持ち。
ふうと深呼吸すると、弁丸君にお願いをした。
わかったでござる!と元気よく返事をしてくれた彼を送り出し、飲み干したカップをゴミ箱に捨てる。
いつでも動ける場所で弁丸君を待っていると、何やら話した後で元親さんからバッグを奪い取るようにしてタタっと走って戻ってきた。
あらら、猿飛佐助が大いに焦ってるわ。
「まりどの! それがし、 はたして みせましたぞっ!!」
「うん、ありがとう。さぁ、買い物の続きに行こうね。」
「うむっ!!」
「因みに何て言ってたの?」
「まりどのが いわれた とおりに ござる。 『そこな おなごと ともに すごしたくば、 そう すれば よい。 まりどのの ばっぐは かえして もらおう。』で よろしかったで ござろう?」
「あぁ…うん。」
言葉の違いって恐ろしい。
随分ばっさりと切り捨てられた感じだわ。
「さすけには、 げんきゅうと つたえもうしたっ!!」
「げんきゅう…減給!?あははっ、弁丸君もなかなかやるねぇ!!」
「ちょ、まりちゃんっ!笑い事じゃないからっ!!」
そんなの知らない。
今は自分ができることをやろう。
それは、不安でいっぱいになっているであろうこの子達を守ること。
2017.11.06. UP
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夢幻泡沫