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それは、甘い
20
残っている買い物は、衛生用品と食材。
だけど…
「すみません。今日は早めに夕飯…あ、夕餉を取ってもいいですか?」
正直言って、空腹の限界。
朝にゼリーを摂った以外はおとといの夜から何も食べてないんだよ、私。
ちゃんとしたものを食べたい。
「構わねえ。」
「ありがとうございます。もう1つお願いがあって…」
「何だ?」
「夕飯は外食、つまり料理を提供してくれるお店で食べてもいいですか?」
もう作る元気がない。
上げ膳、据え膳の横着がしたい。
「…そんな場所があるのか?」
「はい。えぇ…と、茶屋?のお食事処バージョンみたいな?」
「分かんねえな。」
「う…んと、屋台?出店?の座って食べる場所みたいな?」
「分かんねえなら行ってみりゃいいだろ、片倉の兄さん。」
「まあ、そうだな。だが、金子は…」
「贅沢はできませんけれど。今日ぐらい、いいじゃないですか。」
お願いします。
切実に。
「みんなが食べられるような和食のお店を選びますから!」
「選べるってことは、他にも種類があるのかい?」
「はい。例えば、洋食と言って南蛮のお食事や、中華と言って大陸のお食事など。まだまだ種類はありますよ。」
「へえ〜、そっちにも行ってみたいなあ。」
「じゃあ慣れたら行きましょう。いきなりだと舌やお腹が驚いちゃうかもしれませんから。」
「楽しみにしてるよ。」
レストラン街にある和食店に入ってみると、まだ早い時間だからかすんなりと席に着くことができた。
「分からないものはどんどん聞いてください。」
メニューを開くとカラフルなお品書きに驚く武将ズ。
写真入りだからイメージしやすいはずだけど。
あれ…全員にメニューを渡したはずなのに。
「…何で片倉さんと猿飛さんは開いていないんですか?」
「は?」
「当たり前だろう。」
「え…?」
「あのね〜、まりちゃん。忍びが主と同じ席で同じものを食べられるわけないでしょ?」
馬鹿だね〜、と言いたげな視線を送られて。
片倉さんを見れば。
何でそこであなたも頷くかなぁ。
「俺も同じだ。主君と同じ膳を頂くことなど出来ねえ。」
…出たよ、戦国ルール。
「…部屋割の時も言いましたけど!」
口調が強くなってしまうのは勘弁願いたい。
同じことを何度も言わせないでほしい。
『郷に入りては郷に従え』って言うでしょ?
この言葉、戦国時代にはないの?
「この世界では、身分の差などほぼないに等しいんです。みんな一緒、同じなんです。まさか、朝ご飯の時も食べなかったとか言わないでしょうね?」
そう言って睨むように2人を見れば、あからさまに逸らされる視線。
あぁ、溜息。
「いいですか?ここで暮らす以上、こっちのルール、決まりに従ってもらいます。食事をする時はみんなで一緒に!他の行動もみんな一緒に!忍びも家臣も関係ありません!!いいですね?」
「…」
「いいですね!?」
「…」
「…」
黙ってしまった2人に、私も黙ってじっと見る。
絶対に認めさせるんだから!
根競べだって言うなら受けて立つっ!!
「…さすけ、 まりどのの…」
「弁丸君、黙ってて。」
「小十郎も…」
「梵天君も口出し無用!」
だって片倉さんも猿飛佐助も、自分の意思で了承しないと意味がないもん。
2人から1ミリも視線を動かさずにピシャリと幼い主を口だけで撥ね退ければ、慌ててメニューで顔を隠したのが視界の端に入ってきた。
可愛いなぁ、もう。
あなた達に怒ってるわけじゃないのよ。
分かってね?
「…理解できないようなら、もう一度言いましょうか?」
「…あ〜、もうっ!分かったよ、みんなと同じ事をすればいいのね?」
「同じ時に同じ事を、です。」
「はいはい。俺様の負け。弁丸様、それで…」
「弁丸君に決めさせないでください。猿飛さん自身で決めてください。」
「…分かった。まりちゃんの望むとおりにする。するから、そんなに睨まないで。怖いよ!」
失礼な。
よし、でも1人おちた。
「…片倉さんは?」
「…梵天丸様。」
「おれに振るな。お前が決めろ。」
うわっ、眉間がすっごい寄ってる。
苦々しい顔。
そんな深い溜息をつかないでよ…。
「…分かった。鈴沢の言う通りにする。」
「ありがとうございます。さ、食べるものを選んじゃいましょう。弁丸君と梵天君も、見守ってくれてありがとうね。」
にっこりと笑いかけると、弁丸君と梵天君がほっとしたように表情を緩める。
「…明王のようであったぞ。」
「松寿…デザートなし!」
「でざあと、とは何ぞ?」
「甘味のことよ。松寿はジュースもデザートもなしっ!」
「なにゆえだっ!?」
「まりどの、 それがしも じゅうすが のみたいで ござるっ!」
「どうぞ、弁丸君。でも、ご飯もちゃんと食べるんだよ?」
「しんぱい ござらんっ!」
「まり、我もじゅうすとでざあとを所望するぞ。」
「お願いする時は?」
「…食したい、頼む。」
「おおっ、松寿が人に頼むところなんて初めて見たぞ!?」
「うるさいっ、馬鹿鬼!」
「酷えっ!」
求めるのは最低限のこと。
だって。
忍びだろうが、家臣だろうが、主だろうが。
戦国時代の武将であろうが、現代に生きてようが。
人は人でしょ?
因みに、夕飯は七味うどんにしました。
美味しかったです、まる!
2017.11.13. UP
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夢幻泡沫