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それは、甘い

03



お風呂場から桶に入ったお湯とタオルを持って戻ってくれば、結局みんな中に入ることになったらしい。
綺麗になった足で触るラグの毛足の長さに、一様に驚いている。

「家の中にある物に勝手に触らないでください。繊細なものもありますので。」

注意すれば大げさなぐらい慎重に座った。

「さすけ、 ふわふわで ござるっ!」
「そうだね。でも若様は俺様の後ろにいてね。危ないから。」

赤い子を自分の後ろに隠しつつ、これ見よがしに私を見ながら言うのは猿飛佐助。
イラつく心を抑えながら彼を見返す。
あっ、すっごい嫌味な笑い方!
もうっ、あったまくる!!

「…みなさんはお仲間なんですか?」
「少なくとも、ここで敵対しててもどうしようもないかな。」
「それなら…猿飛さんとそこのあなた。一緒についてきてください。お茶の用意をしますから。前田さんは残って他の方をよろしくお願いします。」

答えてくれた前田さんに残りのメンバーをお願いしつつ、私は猿飛さんと強面イケメンとキッチンへ向かった。

「…ねえ、何で俺様とこの人なの?」

つま先立ちで釣り棚から紙コップを取ろうとしている私に、猿飛さんが難しい顔で聞いてくる。

「え…お二人は、他の人より…守るものが、あるんでしょう?…よっ、ほっ…それ、なら…お茶に変なものを入れないところを、見てもらわなくちゃ…くっ、もうちょっと…」
「…どれだ?これか?」
「そうです、その長いものです。ありがとうございます。ええと…」
「…片倉だ。」

強面イケメンは片倉さん…前田さんの『竜の右目』から察するに、片倉景綱だろう。
青い子が『小十郎』って呼んでたし。
じゃあ、あの青い子が彼の主。
だって右目に眼帯を付けてたから…。
頭ではそんな事を考えつつ、ケトルに水を入れてお湯を沸かす。
急須にお茶葉を目分量で入れ、蒸らした後に紙コップに半分ぐらいずつ入れて二人に渡した。
少し躊躇った後、ごくりと二人は無言で飲み干した。
さらにしばらく待って聞いてみる。

「…体に異変は?」
「…特にない。」
「味は?」
「問題ねえ。」
「人数分用意していいですか?」
「…ああ。」
「俺様がやる。」

横から急須を取り上げた猿飛佐助が器用に紙コップに注いでいく。
ならば、とその間にお盆を用意した。
そしたら、片倉さんがお盆に乗せていくじゃないの。

「え?出番なし?」
「…名字持ちの姫御前にこんなことさせられやしねえ。」
「あ、の…だから…」
「アンタはいいから。右目の旦那、それ運んで。」
「ああ。」

…しょうがない。
片倉さんにお盆を持たせたまま、先頭切ってリビングに戻る。
出て行く前と何にも変わらず、皆さんそこにいた。
配られたお茶を飲みながら、質問したり、答えたり、説明したり。
やっぱり…というような結果だった。
あれでしょう?
この人達って生きてる時代が違うんでしょう?
逆トリしてきちゃったってことでしょう?
しかも、パラレル的な。
認めたくないけど、認めざるを得ない。
何でよりにもよって私のところなのかしらねっ!?
他に来てほしい人、いっぱいいるでしょうにっ!!

「…というわけで、ここはあなた方が生きてきた時代からだいぶ先へ進んだ時代です。よって、あなた方が生きていく算段はごく限られてしまいます。…どうしますか?」
「…」

どうするったってぇ…
の、続きの言葉が聞こえない。
…その気持ちはよく分かる。
何にも分からない異世界に近いところへ急に放り出されても、考えがまとまらなくて当たり前。
でも、なぁ…私は平穏に暮らしたい。
そっとイケメンズを見れば、猿飛佐助の後ろからくりくりっとした大きな目が私を見ていた。
ばっちり合ったその瞳に反射的に微笑んでしまう。
いや、だって!
可愛いんだもん!!
ぱあっと明るく笑った赤い子が猿飛佐助を押しのけて私の前までやってきた。

「それがし、 べんまると もうしまする。」
「あら、お利口さんね。私は鈴沢まりです。」
「まりどの、 それがしと さすけを こちらに おいては くれませぬか?」
「なっ、若様!?こんな不気味な奴に…」

あ、そう。
…不気味、ね。
地味に傷つくなぁ…

「なにを もうすか、 さすけっ! こちらの せかいは よう わからぬ からこそ、 まりどのに たすけて もらう しか それがしらに のこされた みちは あるまい! おぬし、 まりどのに しつれいだぞっ!!」
「だけどさ、分からないからこそ何かされでもしたら…」
「おぬし ほどの もので あれば、 いくらでも できよう。 だいいち、 まりどのは そのような おかたでは ござらんっ! それがしとて ぶしのこ、 めを みれば わかる!!」
「…べんまる君、信用してくれてありがとう。それに、部下…あ、家臣?を信頼しているのね。立派だなぁ。」
「さすけは ゆうしゅうな しのびで ござる。 けれど、 さすけの かずかずの しつれいを おわび もうしあげまする。 どうか ゆるして いただきとう ござる。」

にぱっと笑ったべんまる君が、真剣な顔をしたと思ったら綺麗に頭を下げてきた。
うわぁ、小さい子に土下座させてしまったよ…。
これは心苦しい。

「べんまる君、頭をあげてちょうだい?あなたが謝ることじゃないでしょう?」
「かしんの しったいは あるじで ある それがしの しったいで ござる。」
「う…世の中の上層部人達に聞かせて回りたいわ。べんまる君、あなたいくつになるの?」
「それがし、 ことしで いつつに なりもうす!」
「うわっ、5歳でそれ!?すごいな、戦国時代…。」

感心しかない。
こんなの、現代の大人でもかなりデキる部類でしょ?
それを5歳って…
まじまじとべんまる君を見る。
するときょとんと見返してきていた大きな瞳がだんだんと揺れてきた。

「まりどの…あ、の…」

…可愛い。
なんて思ってしまったのが運の尽き…かな?

「べんまる君、ここにいたい?」
「はいっ!」
「なら、ここにいていいよ。ここにいる間は、私の出来る限りであなたをサポートするから。」
「さぽおと…?」
「あー…補助?手助け?かな…べんまる君が過ごしやすいように出来ることはするね。」
「かたじけないっ!よろしく おたのみ もうしあげるっ!!」

ほっとしたような表情に、これで間違ってなかったのかななんて私もほっとする。
床につけられたべんまる君の手に、よろしくの意味を込めて自分の手を重ねる。
小さくて、温かかった。


2017.07.17. UP




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夢幻泡沫