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それは、甘い

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朝一で慶次さんと行ったディスカウントスーパーで衛生用品と明日の朝の分だけ食材を買い、家に戻る。
みんな食材を見たそうにしていたけど、それは明日にしてもらおう。
これ以上はホント無理。
だって、今日中にやるべきことがまだ残ってるから。
急いで準備を済ませて宣言したのは。
メインイベントその2。

「これからお風呂、湯浴みについて説明します。」
「え!?この家、風呂もあるの!?」
「大抵の家にはありますよ。」
「はあ〜、贅沢になったもんだね〜。」
「でも、広くはないですから。」

こっちです、とゾロゾロ連れて案内した先は洗面所。
その奥にお風呂場があるのを知っているのは、猿飛佐助と元親さんだけのはず。
もしかしたら、他の人も洗面所を使った折に見てるかもしれないけどね。

「では、説明するので…弁丸君、また見本になってもらってもいいかな?」
「かまいませぬ!」
「ありがとう。じゃあ全部脱いで。」
「は…?」
「ここではお風呂に入る時は全裸なんです。今日はあと寝るだけだから、パジャマと下着を持ってきてくれる?」
「わかり もうした!」

荷物を取りに行った弁丸君の後に私も続く。
タンクトップとショートパンツに着替えて下に降りていけば、一瞬で固まった空気。
え…何で目を逸らされるの?

「…その格好は何だ?」

数秒後、意を決したように切り出したのは片倉さんだった。
でも視線が合わないのはなぜでしょうか、教えてください。

「え?お風呂の説明をするから、濡れないようにしてきただけですけど。」
「てめえには恥じらいってもんがねえのかっ!?」
「人を痴女のように言わないでください。家を壊される方が嫌です。」
「だがっ…そこまで肌を露わにする必要もないだろっ!!」
「…あの、これよりすごい格好で外を歩いている女の子なんていくらでもいますからね。その子にいちいち説教していたら、警察に捕まるのは片倉さんですよ。」
「…」

分からねえ、という顔で片倉さんが眉間を険しくさせたまま黙り込んでしまった。
今日だけで眉間のしわが増えちゃったんじゃないかな…。

「こっちの女の子は大胆なんだね〜。俺様、びっくり。」
「…あんたほどじゃないけどね。」
「ん?何か言った?」

思わず素で突っ込めば、いやらしいくらい爽やかな笑みを浮かべて私を見てきた。
ホント、憎たらしい。

「いえ、何も。体を洗うタオルはこの棚にあります。お風呂から上がった後に体を拭くバスタオルはその下にありますので。」
「まりどのっ! よういしたで ござるっ!」
「ありがとう、弁丸君。じゃあ中に入ってくれるかな。今は説明するために開けておきますけど、普段はこの扉を閉めて入ってくださいね。」

座った弁丸君の後ろに立ち、シャワーを捻る。
少しのタイムラグの後、お湯が出てきた。

「このボタンを押してからレバーを捻ると、お湯が出てきます。」
「すげえっ!なあ、まり。どうなってんだ?分解しても…」
「ダメですからね。そのボタンで温度調整ができるんですが、この温度がお風呂に最適なので触らないで大丈夫です。弁丸君、目をつぶってくれる?」
「わかり もうした!」
「シャンプー、頭を洗う石鹸は青いボトル…あ、容器です。この上の部分を押すと、液状の石鹸が出てきます。これで頭皮を洗ってください。目に入ると沁みるので、十分に気をつけてください。弁丸君、目はつぶったままだよ。口に入ると苦いですが、すぐに濯げば問題ありません。」

コクンと頷いた弁丸君の頭を指の腹でマッサージするように洗う。

「…かゆいところはない?」
「ありませぬ。」
「まんべんなく洗ったら、シャワーで綺麗に流してください。次にコンディショナーです。これは白いボトルに入っていて、髪に栄養を与える薬のようなものです。髪に揉み込むような感じでつけてください。少し待ってから洗い流すと効果的みたいですよ。」

実践しながら説明するのは、案外気を遣うな。
でも、美容師になった気分で楽しい。
コンディショナーも洗い流し、弁丸君にタオルを渡して顔を拭かせる。

「…ここまでで分からないところは?」
「問題ねえ。」
「もし分からなくなったらいつでも聞いてください。あ、そうだ。慶次さんは髪の毛が長いから、シャンプーもコンディショナーも多めに使った方がいいと思うよ。しっかり洗い流してね。」
「うん、分かった。」
「あー…?青、白の順でいいんだよな?」
「そう。大丈夫、元親さん?」
「たぶんな。」
「じゃあ、次に洗顔です。このクリーム…液体と固体の中間状のものを泡立てて、優しく顔を洗えばオッケーです。はい、弁丸君。目を閉じて、息も我慢してね。」
「…」
「洗い流すからねぇ。…はい、いいよ。」
「ぷはっ!!」
「長く我慢できたねぇ。お利口さんだねぇ。」
「それがし、 やりもうしたっ!」
「うん。最後に体を洗います。ボディソープ、体用の石鹸はこのピンク…あ、桃色のボトルに入っています。これをタオルに出して、泡立てて、タオルで体を洗えばオッケーです。」
「…以上か?」
「以上です。体をきれいに洗い流したら、湯船に入ってしっかりと温まってください。」
「そうか、分かった。」
「じゃあ、みなさんはリビングで待っていてください。順番を決めているといいんじゃないでしょうか?梵天君は片倉さんと一緒だとして、松寿はどうする?」
「我は一人で問題ないわ。」
「弁丸君と一緒に3人で入らない?」
「入るかっ!貴様、慎みを持てっ!!」
「…子供なんだから問題ないのに。それなら、私はこのまま弁丸君と入ります。さ、出て行ってください。」
「は!?待てっ!!」
「何ですか?」
「何で共に入る必要がある?餓鬼とは言え、弁丸も男だろうが!てめえは女だ、慎みってもんをだなあ…」
「そっちでは小さい子でも一緒に入らないんですか?こっちでは10歳未満なら問題ないんですよ。弁丸君、一緒に入ってもいいよね?」
「かまいませぬっ! まりどのと ともに ゆに はいりとう ござるっ!」
「ありがとう。ほら、早く出てってください。」

納得のいってなさそうなみんなをせき立てるように追い出し、鍵を閉める。
来るなよ、猿飛佐助!
お風呂に入れば、心も体も温まる。

「…まりどの、 ありがとうございまする。」
「ん?」
「それがし…」
「うん。」
「…それがし…」
「うん。ゆっくりお話しができるね。」

きっと。
一息つけるような雰囲気に、目覚めたんだと思う。
おはよう、弁丸君の我慢していた心。


2017.11.20. UP




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夢幻泡沫