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それは、甘い

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「ちょうそかべどの。 いかが したので ござる?」
「ん?いや、なんでもねえよ。」

先に出た弁が洗面所入り口に座っていた元親さんに首を傾げながら聞く。
ぎょっとした私に苦笑しつつ、弁と私の頭に交互に手を置いてリビングへ行ってしまった。

「…なんで ござったの だろう?」
「ねぇ?何だろうね?」

弁の肩にかけているタオルで頭を拭いてあげると、くすぐったそうに笑う。
ホント、可愛いんだから。

「こちらの てぬぐいは ふわふわで ござるな。」
「タオルって言うのよ。」
「たおる。」

リビングに入っていくと、待っていたかのように一斉に見られた。

「…すみません、長かったですか?」
「いや、そうでもないんじゃないかな。」
「それならよかったです。次は誰ですか?」
「俺と梵天丸様だ。」
「その後に松寿、俺、前田、猿飛の順だな。」
「分かりました。どうぞ、入ってきてください。お湯が足りなかったら足してくださいね。」
「ああ。梵天丸様、行きましょうか。」

コクリと頷いた梵天君を促すように立ち上がると、支度をしに2階へ上がっていく。

「あ、そうだ。」
「まりどの?」
「先にお布団の用意をしてくるね。弁、ちょっと待っててくれる?」
「わかり もうした。」

猿飛佐助がピクっと反応したようだけど、まぁいいや。
2階に上がって、まずは梵天君達の部屋をノックした。
少し間を置いて出てきたのは片倉さん。

「…今のは何だ?」
「ノックと言います。中の人に『入ってもいいですか?』と合図するんです。」
「なるほど。」
「お布団を敷いてしまいたいんですが、入ってもいいですか?」
「ああ。」

そんなに難しくないからあっという間に終わる。
2人分のお布団を敷いてから、ふと梵天君を見る。

「…何だ。」
「余計なお世話かもしれないけど…」
「…」
「その眼帯、濡れたら新しいのと交換した方がいいよ。」
「…」
「できれば、お風呂に入る時は外した方がいいけど…無理にとは言わないからね。」
「…分かった。」
「…本当に余計な世話だな。」
「すみません。」

苦笑しながら頭を下げる。
ごゆっくりとお風呂に入りに行くのを見送って、他の部屋にも布団を敷いていく。
7人分終わってリビングに戻るころには、弁の髪は半分くらい乾いていた。

「おまたせ、弁。って言っても、もう乾いてるかぁ。どうする?ドライヤー、使ってみる?」
「おねがい いたすっ!」

ならばと弁をコンセントの側に座らせ、差し込む。
カチッとスイッチを入れたら、リビングがパニックになりました。

「何だ!?敵かっ!?」

…うん。
とりあえず、みんな落ち着いてくれないかな。
キョロキョロ見渡しても、誰もいないから。
睨み効かせても、誰も出てこないから。

「この機械から出ている音です。ドライヤーと言って、髪を乾かす機械です。ただ適度に熱い風が出てくるので、火傷には注意してください。」
「あたたかいでござる。」
「熱くない?弁の髪は柔らかいから、すぐに乾きそう。そしたら、歯磨きをして寝ようね。」
「うむ。」
「へえー、気持ち良さそうだね。」
「誰かにやってもらうのは気持ちいいよ。眠くなっちゃうもん。」
「俺もまりちゃんにやってもらいたいなあ。」
「じゃあ、慶次さんが出てきたら髪を乾かすよ。慶次さんは髪長いから、時間かかりそうだね。」
「ごめんよー。」
「ふふっ、いいの。早く自分でできるようになるといいね。」
「まり、俺も。」
「元親さんも?」
「おう。」
「分かりました。松寿はどうする?」
「するがよい。」
「…じゃなくて?」
「…頼む。」
「ん、分かった。」
「ほら、弁。もう乾いた。サラサラだよ。」
「おおっ!はやいで ござるな。」
「気に入った?」
「うむ!」
「よかった。必要ならまたしてあげるからね。いつでも言ってちょうだい。」
「かたじけない!」
「さ、弁丸様。歯磨きをして寝るよ〜。」
「うむ。 まりどの、 おさきに しつれい いたす。」
「おやすみなさい。」

もう既に眠いのか、頭の揺れている弁を猿飛佐助が引っ張っていく。
洗面所へ歯を磨きに行った彼らと入れ替わるように、梵天君と片倉さんが出てきた。

「あがった。」
「お湯加減、大丈夫だった?」
「ああ。」
「片倉さんもちゃんと温まりましたか?」
「…」
「片倉さん?」
「…おれと入った。心配ない。」
「ありがとう、梵天君。髪の毛、乾かす?」

ドライヤーを少し掲げてみせれば、興味があるようで無言で私の前に座った。
可愛い、すごく可愛い!

「熱かったら言ってねぇ。」

やっぱりと言うべきか。
スイッチを入れた途端に『敵襲か!?』と静かに構えないでください、片倉さん。
その構えは何ですか!?
刀がねえと落ち着かねえとか言ってたくせに、素手でもいけちゃうんですか!?
…あの人は慶次さんと元親さんに任せよう。

「…気持ち、いいな。」
「でしょう?熱くない?」
「ああ。」
「よかった。梵天君の髪もサラサラだね。短いし、すぐ乾いちゃう。」

子供の髪の毛って柔らかいよね。
梵天君もサラサラの髪。
触ってるこっちが気持ちいい。
心配そうにこっちの様子を窺っている片倉さんだけど。
眼帯の近くを…髪の毛に触れるのを許してくれたあたり。
少しは気を緩めてくれたと思いたい。


2107.12.04. UP




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夢幻泡沫