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それは、甘い

27



朝ご飯の片づけまで小十郎さんがやってくれることになった。
何てありがたいんだろう。

「さて、と。」

それなら洗濯でもしちゃいましょう。
と向かったのは、洗面所。
洗うものを洗濯機にばんばん放り込む。
洗濯機洗いができないものは買わなかったからね。

「まり、何やって…」
「元親さん?」
「おまっ!なに持ってんだよ!?」
「何って…」

洗濯物だけど、と見てみると。

「あぁ、下着だね。誰のだろう?」
「そっ…そんなの知らねえでいいから!」
「別に興味もないよ。」
「じゃあ聞くんじゃねえ!…俺がやる。まりはやんなくていい。」
「え?でも分からないでしょ?」
「女が男の下穿きなんかに触れるな!もっと自覚持てよ。」
「…気分は大家族のおかあさん?的な?」

たぶん、こんなのにいちいち反応してたらやっていけないと思うんだけど。

「知らねえよ、そんなもん。だいたい下女がやるもんだろ、洗濯なんて。」
「…こっちでは下女を雇える人はほんの一握りだよ。全部、自分達でやるの。」
「そうか、分かった。なら、洗濯は俺がやる。」
「え?」
「どうすればいいんだ?」
「洗濯物をこの中に入れて、洗剤を入れておしまい。あとはこの機械が洗ってくれるから、終わったら干してくれればいいんだけど。」
「なんだ、簡単じゃねえか。」
「うん。…でも、ホントにいいの?」
「置いてもらってんだ、これぐれえするぞ。」
「ありがとう。洗濯とか干したことある?」
「あるぜ。船に乗ってる間は自分で洗って干してらあ。」
「船?」
「おう!海は気持ちいいぜ。」

え…よく分からないけど、長宗我部元親って水軍で有名だったっけ?

「毛利の野郎は俺のことを『海賊』なんて呼ぶな。」
「はっ!?えっ!?」
「俺は海賊より鬼の方が好きだぜ?『鬼が島の鬼』たあ、この長曾我部元親様のことよ!!」

えっ!?
海賊って呼ばれて嬉しそうだよ、元親さん。

「…そうなの、松寿?」
「知らぬ。我に聞くな。」

通りがかった松寿を思わず見るが、『我の知ったことではない』と嫌そうな顔をして去っていく。

「…えぇと、よく分からないけど。お洗濯に関しては任せて大丈夫なのね?」
「おう。」
「なら…お願いします。この機械、壊さないでね?高いんだから。分解もダメ。」
「分かってらあ。やり方、教えてくれ。」

ウキウキした様子の元親さんにちょっと待ってと断ってメモを取りに行く。
簡易的な絵を描きながら順番を説明した方が早いんじゃないかな、と思って。
それを残しておけば、私がいない時でも出来そうじゃない?
一、電源を入れる。
二、洗濯物を入れる。
三、給水ホースを湯船につなぐ。節水大事!!
四、スイッチを入れる。

「以上だよ。」
「は!?これだけか?」
「うん。あとは時間になったら音声で知らせてくれるから、洗濯物を干すだけ。」
「は〜…簡単だな。」
「でしょ?洗濯物が溜まったら面倒くさいけど。」
「毎日洗えば問題ねえんだろ?」
「まぁね。」
「任せとけって。」

頼もしいなぁ。
小十郎さん同様、ありがたい。

「なあなあ、まりちゃん。俺もなんかできないかい?」
「慶次さん?」
「竜の右目や元親がやってんだから、俺にも出来ることがあるんじゃない?」
「お願いしてもいいの?」
「ああ。」
「それじゃ、お洗濯が終わったらお風呂掃除をお願いしようかな。弁がお風呂掃除をしてくれるって言うんだけど、子供一人でだとちょっと心配だからね。慶次さんが一緒にしてくれるとすっごく助かる。」
「おう、任せてくれよ!」

にっこりと笑って頷いてくれた慶次さんが、少し考える素振りをして私を見た。

「なあ、まりちゃん。」
「なぁに?」
「朝餉のことなんだけど…」
「うん?」
「…何で俺達と一緒に食べなかったんだい?」
「え?」
「一人で厨の方で食べてただろう?昨日の夕餉は一緒に食べてたから、気になってさ。」
「あぁ、そうだね。別に、深い意味はないんだけど。」
「だけど?」
「みんなが食べてたテーブル、結構いっぱいいっぱいだったでしょ。」
「あー、そう言えば…」
「あそこにあと1人プラスってなると、かなり狭くなっちゃうかなぁと思って。」
「ぷらす?」
「加わるってこと。私があそこに入っていたら、正直狭かったでしょ?」
「でもさ、こっちでは同じ時に同じ事をするんだろ?まりちゃんだけ別の場所って淋しいじゃないか。」
「でもねぇ…。大きなテーブルに買い替えるつもりはないし、普段は私いないから別にいいかなって思うんだけど。」
「そんなこと言わないでくれよ、淋しいってば。」

淋しいって。
その言葉は嬉しいけど。
あなた達は自分の世界に帰らなきゃいけないんでしょう?
いつかいなくなるのなら、元々あるものを買い替えるつもりはない。

「…少し考えさせて。」
「前向きに頼むよ。」
「うん。」
「ありがとよ。どうせ過ごすなら楽しい方がいいに決まってるさ。まりちゃんもそうは思わないかい?」
「ふふっ、そうだね。」
「だろ、だろ!?」

慶次さんの笑い顔は人懐っこく感じる。
楽しいことが好きなんだろうなぁと感じる。
笑い返したくなるその顔に、買い替えてもいいかなぁなんて思ったりもして。
…いやいや、節約していかなければ。
後でお金の数え方も教えよう。
きっと、小十郎さんには買い物もお願いすることになるだろうし。
まだ信用しきっていない人達に甘えるのは怖くもあるけど。
彼らだけで過ごせる環境を整えることは必要なんじゃないかしら。
だって、私は稼がなきゃいけないもん。


2018.01.15. UP




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夢幻泡沫